千葉県嶺岡林道の鉱物

            千葉県嶺岡林道の鉱物

1. 初めに

   2008年1月末、千葉県に単身赴任した。赴任にあたり持参した鉱物関係の本の
  中に、草下先生の「鉱物採集フールドガイド」がある。
   この本に、『千葉県安房鴨川の鉱物産地』なる一章があり、次のような産地が
  紹介されている。

   @ 八岡(ようか)海岸
      太海(ふとみ)のメノウ
   A 嶺岡グリーンライン(林道)の露頭

   @の2箇所については、既に訪れ、HPに記載したように、各種の代表的な
  標本が採集でき、産地は健在である。

   2008年3月、「平久里のゾノトラ石」、「平久里の自然銅(赤銅鉱)」の採集が終
  わり、時計を見たら、まだ11時前だったので、前々から訪れてみたいと思って
  いた嶺岡林道を訪れた。

   林道の入口で迷ってしまったが、林道沿いには「採石場跡」「ニッケル鉱山跡」
  「古い切り通し」そして「新たな露頭」などがあり、それぞれの場所でのミネラル
  ・ウオッチングを楽しむことができた。

   この林道は、嶺岡山地の頂上部分を縫うように走っており、”平坦”という千葉県の
  イメージとだいぶ違っている。林道の終点近くからは、太平洋の広々とした海原も
  眼下に望め、ドライブコースとしてもお奨めである。
   ( 2008年3月採集 )

2. 産地

   草下先生の「鉱物採集フィールドガイド」に掲載されている地図と写真を
  引用させていただく。

       
              地図                    切り通し
          嶺岡林道の産地【鉱物採集フィールドガイドから引用】

   

   「鉱物採集フィールドガイド」の初版が出版された1982年から既に25年以上の
  年月が過ぎ、産地は大きく変貌している。

   @ 写真にある切り通しはどこかわからなかった。
     多くの切り通しは、新鮮な露頭が観察できず、採集意欲が湧かなかった。
   A 「ニッケル鉱山跡」には、新たに工場が建っているが、”ズリ”と思われる
      堆積層は確認できた。
   逆に
   B 2万5千分の1の地形図にあり、「フィールドガイド」に載っていない
     「採石場跡」はパラグライダーの滑走路になっており、ここで沸石が採集
     できる。
   C 林道脇の斜面を重機で整地していて、作業員の方の了解を得て、沸石
     類が採集できる。

       
         Aニッケル鉱山跡         B旧採石場跡

    
          C新露頭
                       産地

3. 産状と採集方法

   草下先生の「鉱物採集フィールドガイド」にあるように、嶺岡林道の鉱物は、林道
  沿いの露頭や鉱山跡にあり、「斑レイ岩」あるいは「蛇紋岩」に伴うものだ。
   露頭あるいはズリを見つけたら、”叩く””掘る”あるいは”拾う”によって採集する。

4. 産出鉱物

    今回採集できた鉱物は、下表のようで、取り立てて”美しい”とか”珍しい”
   という種は全くなかった。

No  鉱  物  名
  (英語名)
組成・化学式 標  本  写  真 備 考
@方沸石
(ANALCIME)
NaAlSi2O6)・H2O
       全体

       拡大
 ”コロ”っとした粒状
輝きが強い
偏稜24面体
A濁沸石
(LAUMONTITE)
Ca4Al8Si16O48・18H2O 白色脈で産出
粉状になりやすい
B磁鉄鉱
(MAGNETITE)
FeFe3+2O4  脈状で産する<
糸付き磁石を
吸引する

 ペントランド鉱や アワルワ鉱は
このような産状か?

5. おわりに 

 (1) 『古川に水絶えず』?
     「鉱物採集フィールドガイド」に数ページにわたり記述されている産地な
    ので、「平久里」や「鴨川(八岡)」に優るとも劣らない標本が、と期待して
    訪れたのだが、やや期待外れだった。

     「鉱物採集フィールドガイド」には、ニッケル鉱山跡で、母岩の蛇紋岩の中に
    顕微鏡的な微細なものだが「ペントランド鉱【PENTLANDITE:(Fe,Ni)9S8】」や
    「アワルワ鉱【AWARUITE:Ni3Fe】」が採集できるとある。
     何回か通えば、幸運の女神が微笑んでくれるかも知れない。

     桜井先生の名言 『古川に水絶えず』 を信じて

 (2) パラグライダー
      嶺岡山浅間の南にある採石場跡は、パラグライダーの滑走路になって
     いる。この日は風待ちの老若男女が10名近くいた。

     パラグライダー場

      私が”地虫”のように地面だけ見ながら、あちこち掘り返したり、岩を叩
     いているのを”鳥類”の彼らは興味深そうに眺めていたようだ。
      その中の一人が、「何を探しているんですか?」と話しかけてきた。「キラ
     キラ輝く”方沸石”という鉱物を探しているんです」と答えたが、全く反応が
     なかった。

6. 参考文献 

 1) 加藤 昭、松原 聰:鉱物採集の旅 東京周辺をたずねて,築地書館,1982年
 2) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 3) 松原 聰:関東地方の鉱物,鉱物情報100号記念出版物企画委員会
           池田重夫技官退官記念会,平成10年
 4) 千葉県立中央博物館編纂:千葉県の鉱物,同館,2000年
 5) 松原 聰、宮津 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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