新潟県三川村三川鉱山鉱物 その2

         新潟県三川村三川鉱山の鉱物

1. 初めに

   2006年10月、千葉県の石友・Tさんに「沼尻鉱山の重晶石」産地を案内していただ
  き、その足で「柳新田の赤色輝沸石」そして「三川鉱山」を回った。
   三川鉱山を訪れるのは、2005年10月以来、ちょうど一年ぶり2回目であった。

   居合わせた新潟県の石人によれば、”第一ズリ”のズリ石が工事用に持ち出され
  たそうで、緑色、青色の2次鉱物はめっきり少なくなっていた。
   ”第ニズリ”を中心に採集したが、Tさんによれば、「10年前に比べ、2次鉱物は
  激減している」らしい。確かに、2005年の時に比べても少なくなっている感じがし
  た。

   それでも、「球状藍銅鉱」や「頭つき紫水晶」など、前回採集できなかった標本
  をいくつか採集し、産地を後にした。

   ここは、日本でも有数の豪雪地帯とされ、来春まで産地への立ち入りは難しく
  なる。
   「尾去沢石」「ビーバー石」「シューレンベルグ石」など、今回も確認できなか
  った。次回は、これらが採集できるように、”眼”を慣らしておきたい。
  ( 2006年10月採集 )

2. 産地

   最近出版された松原先生の「鉱物ウオーキングガイド」に詳しく記述されている
  ので割愛する。

3. 産状と採集方法

   石川県の石友・Yさんから送っていただいた三川村周辺の古い地図をみると、三川
  鉱山の位置には、「大谷金山」と描かれている。
   「日本鉱山総覧」によれば、今から約300年余り前の元禄年間に開坑し、1891年
  (明治24年)に大谷金山として銀の精錬を開始し、1904年(明治37年)には、銅の
  精錬を開始した。
   明治時代は、いくつかの鉱山に分かれて稼行していたが、明治末期には、日本金
  鉱鰍ノより統合され、昭和に入り、日本鉱業(現ジャパンエナジー)が経営に参画
  し、俄然一大飛躍を遂げ昭和9年(1934年)には、金銀鉱9,467トンを産出し、翌10
  年(1935年)の産額は、金銀銅鉱8,935トンで従業員は123名であった。
   採掘された鉱石は、茨城県日立鉱山に送られ、合併製錬に使われた。
   鉱山付近の地質は、第3紀層の凝灰岩頁岩で、石英粗面岩がところどころを貫いて
  いる。鉱床はこれらの岩石の裂罅充填鉱脈で、

   @石英粗面岩の裂罅を充填するもの
   A凝灰岩中の裂罅を充填するもの
    そして
   B凝灰岩と頁岩の接触部に生成したもの
  がある。

   これらは、いずれも石英脈であるが、火成岩中に生成する鉱床は金の含有に比べ
  硫化鉱物に乏しく、水成岩中に生成する鉱床は銀銅鉄鉛亜鉛などの硫化鉱物が多い。
   三川鉱山には、「真名板坑」「宝坑」「本盤坑」「豊国坑」そして「八方坑」な
  どの鉱床がありそれらの前には、ズリが広がっている。
   産地西側、道路際の”第一ズリ”と東側で少し山に入った”第二ズリ”と呼ばれ
  る2つのズリがあり、ここで採集する。
   採集方法は、これらのズリの表面採集か鉱石を割っての2通りになります。ズリの
  鉱石は粘土質の土にまみれているため、雨上がりなどタイミングを選ばないと良品
  を探すことは難しく、かと言って無闇に鉱石を割るのも非能率で、採集方法の選択
  には頭を悩ませる。

       
       第一ズリ                第二ズリ
                  産地

4. 採集鉱物

    三川鉱山の魅力は、豊富な2次鉱物を産出することで、ズリには、青、緑など
   色とりどりの2次鉱物が見られる。今回採集できた主な2次鉱物は、次の通りであ
   る。なお、「採集難易度」は私の個人的な見解である。

 4.1 前回【2005年】採集品

              2次鉱物       採集難易度は、◎:容易
                                          ○:要(運+努力)
                                  △:難
 色  鉱物名  化学式  産       状   採 集 標 本 採集
難易度
  備  考
 緑孔雀石
(Malachite)
Cu2CO3(OH)2緑色針状〜毛状結晶が
球状に集合したり
皮膜状で産する
球状のものの破断面は
放射状を示す。

      球状集合体


       皮膜状

 ◎  
 青ラング石
(Langite)
Cu4SO4(OH)6・2H2O帯緑色青色の
菱形板状結晶で
褐鉄鉱の上に生成
 △  
亜鉛孔雀石
(Rosasite)
(Cu,Zn)2CO3(OH)2光沢のある帯緑色青色の
球状で閃亜鉛鉱に伴って
産する。

    抜け殻状閃亜鉛鉱の
   上に生成
 ○  
青鉛鉱
(Linarite)
PbCu(SO4)(OH)2鮮やかな青色の
針状結晶の集合
結晶が微細なため
”シミ”のように
見える
 ○  
 藍
(群青)
藍銅鉱
(Azurite)
Cu3(CO3)2(OH)2濃い青色
球顆状、針状結晶の
半球状集合体
稀に斜方板柱状自形結晶で
石英の空隙や褐鉄鉱の上に
晶出

      自形結晶(3mm)


  球顆の集合(15mm)

 ◎自形結晶は稀
 白白鉛鉱
(Cerussite)
PbCO3ガラス光沢の
短柱状〜長板状結晶で
石英の隙間や硫酸鉛鉱に伴って
産する
 ○   
硫酸鉛鉱
(Anglesite)
PbSO4方鉛鉱の周囲に白色〜灰色の
皮膜状あるいは土状で産する
 ◎   
 茶〜黒菱鉄鉱
(Siderite)
FeCO3新鮮なときは緑黒色だが
次第に黒から茶褐色に変化
葉片状で湾曲した複雑な
結晶面を示す

     苦灰石と共生
 ◎   
 黄菱亜鉛鉱
(Smithsonite)
ZnCO3表面が淡緑黄色
内部が透明の
角の丸いサイコロ状や葡萄状で
小さな水晶の上に
見られる
 ○   

 4.2 今回【2006年】採集品

             鉱物
 色  鉱物名  化学式  産       状   採 集 標 本 採集
難易度
  備  考
 紫紫水晶
(Amethyst)
SiO2六角柱状   ○頭つきは稀
 藍
(群青)
藍銅鉱
(Azurite)
Cu3(CO3)2(OH)2濃い青色
球顆状、針状結晶の
半球状集合体
稀に斜方板柱状自形結晶で
石英の空隙や褐鉄鉱の上に
晶出

   球状に結晶集合(5mm)
 ◎自形結晶は稀

5. おわりに

 (1)”第一ズリ”のズリ石が工事用に持ち出されたそうで、緑色、青色の2次鉱物は
    めっきり少なくなっていた。
    ”第ニズリ”を中心に採集したが、Tさんによれば、「10年前に比べ、2次鉱物
    は激減している」らしい。
     確かに、2005年の時に比べても少なくなっている感じがした。

 (2)「尾去沢石」「ビーバー石」「シューレンベルグ石」など、今回も確認できな
    かった。
     次回は、これらが採集できるように、ミネラルショーなどで”眼”を慣らし
    ておきたい。

6. 参考文献

 1)加藤 昭:2次鉱物読本,関東鉱物同好会,2000年
 2)松原 聡:鉱物ウオーキングガイド,丸善株式会社,2005年
 3)澤田 久雄編:日本鉱山総覧,日本書房,昭和15年
 4)神代 健 et al:新潟県三川鉱山の鉱物 水晶VOL.12 ,鉱物同志会,1999年
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