新潟県三川村三川鉱山の2次鉱物

          新潟県三川村三川鉱山の2次鉱物

1. 初めに

   2005年の夏、新潟県の石友・Kさん(中学2年生)から夏休みの宿題の相談を受けた。
  「新潟の鉱物採集地」と題するテーマで、県内の鉱物産地を訪れ、産出する鉱物を
  まとめて見たいが、産地に関する情報が全くないので教えて欲しい、とのことで、訪れて
  見たい産地の1つに三川鉱山があった。
   しかし、私のHPを見ての通り、私自身、三川鉱山を訪れたことがなく、産地情報に詳しい
  東京の石友・Mさんから頂いた簡単なメモや私が所属する鉱物同志会が過去に何回か
  「採集会」を開催しているのを思いだし、関連する資料を引っ張り出し、コピーして送った。
   暑かった夏も終わりを告げ、鉱物採集に最適の時期になり、今回、「栃木・福島・新潟
  鉱物採集の旅」の途上、三川鉱山を訪れた。
   Mさんにいただいたメモのおかげで、迷うことなくズリに到着でき、この産地の主だった
  標本を採集することができた。
   しかし、「尾去沢石」「ビーバー石」「シューレンベルグ石」など、”現物”を見たことがない
  ものは現地では確認できなかった。今後、採集品をジックリ観察してみたい。
   訪れる前日までと打って変わって秋晴れの下、青、緑、色とりどりの2次鉱物を採集できた。
  情報をいただいたMさんに厚く御礼申し上げます。
  (2005年10月採集)

2. 産地

   最近出版された松原先生の「鉱物ウオーキングガイド」に詳しく記述されていますので
  割愛させていただきます。

3. 産状と採集方法

   石川県の石友・Yさんから送っていただいた三川村周辺の古い地図をみると、三川鉱山の
  位置には、「大谷金山」と描かれている。
   「日本鉱山総覧」によれば、今から約300年余り前の元禄年間に開坑し、1891年(明治24年)に
  大谷金山として銀の精錬を開始し、1904年(明治37年)には、銅の精錬を開始した。
   明治時代は、いくつかの鉱山に分かれて稼行していたが、明治末期には、日本金鉱鰍ノより
  統合され、昭和に入り、日本鉱業(現ジャパンエナジー)が経営に参画し、俄然一大飛躍を遂げ
  昭和9年(1934年)には、金銀鉱9,467トンを産出し、翌10年(1935年)の産額は、金銀銅鉱8,935トンで
  従業員は123名であった。
   採掘された鉱石は、茨城県日立鉱山に送られ、合併製錬に使われた。
   鉱山付近の地質は、第3紀層の凝灰岩頁岩で、石英粗面岩がところどころを貫いている。
  鉱床はこれらの岩石の裂罅充填鉱脈で、@石英粗面岩の裂罅を充填するもの A凝灰岩中の
  裂罅を充填するもの、そしてB凝灰岩と頁岩の接触部に生成したもの がある。
   これらは、いずれも石英脈であるが、火成岩中に生成する鉱床は金の含有に比べ硫化鉱物に
  乏しく、水成岩中に生成する鉱床は銀銅鉄鉛亜鉛などの硫化鉱物が多い。
   三川鉱山には、「真名板坑」「宝坑」「本盤坑」「豊国坑」そして「八方坑」などの鉱床があり
  それらの前には、ズリが広がっています。
   産地西側、道路際の”第一ズリ”と東側で少し山に入った”第二ズリ”と呼ばれる2つのズリがあり
  採集はここで行います。
   採集方法は、これらのズリの表面採集か鉱石を割っての2通りになります。ズリの鉱石は粘土質の
  土にまみれているため、雨上がりなどタイミングを選ばないと良品を探すことは難しく、かと言って
  無闇に鉱石を割るのも非能率で、採集方法の選択には頭を悩まします。

       
       第一ズリ                第二ズリ
                  産地

4. 採集鉱物

    三川鉱山の魅力は、豊富な2次鉱物を産出することで、ズリには、青、緑など色とりどりの
   2次鉱物が見られます。今回採集できた主な2次鉱物は、次の通りです。なお、採集難易度は
   私の個人的な見解です。

              2次鉱物              採集難易度は、◎:容易 ○:要(運+努力) △:難
 色  鉱物名  化学式  産       状   採 集 標 本 採集
難易度
  備  考
 緑孔雀石
(Malachite)
Cu2CO3(OH)2緑色針状〜毛状結晶が
球状に集合したり
皮膜状で産する
球状のものの破断面は
放射状を示す。

      球状集合体


       皮膜状

 ◎  
 青ラング石
(Langite)
Cu4SO4(OH)6・2H2O帯緑色青色の
菱形板状結晶で
褐鉄鉱の上に生成
 △  
亜鉛孔雀石
(Rosasite)
(Cu,Zn)2CO3(OH)2光沢のある帯緑色青色の
球状で閃亜鉛鉱に伴って
産する。

    抜け殻状閃亜鉛鉱の
   上に生成
 ○  
青鉛鉱
(Linarite)
PbCu(SO4)(OH)2鮮やかな青色の
針状結晶の集合
結晶が微細なため
”シミ”のように
見える
 ○  
 藍
(群青)
藍銅鉱
(Azurite)
Cu3(CO3)2(OH)2濃い青色
球顆状、針状結晶の
半球状集合体
稀に斜方板柱状自形結晶で
石英の空隙や褐鉄鉱の上に
晶出

      自形結晶(3mm)


  球顆の集合(15mm)

 ◎自形結晶は稀
 白白鉛鉱
(Cerussite)
PbCO3ガラス光沢の
短柱状〜長板状結晶で
石英の隙間や硫酸鉛鉱に伴って
産する
 ○   
硫酸鉛鉱
(Anglesite)
PbSO4方鉛鉱の周囲に白色〜灰色の
皮膜状あるいは土状で産する
 ◎   
 茶〜黒菱鉄鉱
(Siderite)
FeCO3新鮮なときは緑黒色だが
次第に黒から茶褐色に変化
葉片状で湾曲した複雑な
結晶面を示す

     苦灰石と共生
 ◎   
 黄菱亜鉛鉱
(Smithsonite)
ZnCO3表面が淡緑黄色
内部が透明の
角の丸いサイコロ状や葡萄状で
小さな水晶の上に
見られる
 ○   

5. おわりに

 (1)2次鉱物はむずかしい
    「尾去沢石」「ビーバー石」「シューレンベルグ石」など、”現物”を見たことがないものが
   採集できないのはわかるが、この産地では楽に採集できるとある「ブロシャン銅鉱」が
   採れなかったのは、いささかショックであった。
    河津鉱山や中宇利鉱山のものをイメージして探していたのが間違いだったのか???
   2次鉱物はむずかしい、というのが私の率直な感想です。
    今後、採集品をジックリと観察してみたい。

 (2)今回、小さなものだが「紫水晶」を採集した。三川鉱山のある綱木集落は「日本鉱物誌」に
   紫水晶の産地として記載されているところであり、”夢”が広がります。

    紫水晶

 (3)三川村には、三川温泉があり、日帰り入浴もできます。採集の後は、温泉につかって
   疲れた身体を癒し、サッパリして帰りたい。

6. 参考文献

 1)加藤 昭:2次鉱物読本,関東鉱物同好会,2000年
 2)松原 聡:鉱物ウオーキングガイド,丸善株式会社,2005年
 3)澤田 久雄編:日本鉱山総覧,日本書房,昭和15年
 4)神代 健 et al:新潟県三川鉱山の鉱物 水晶VOL.12 ,鉱物同志会,1999年
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