山梨県増富鉱山の硫砒銅鉱

山梨県増富鉱山の硫砒銅鉱

1.初めに

 鉱物採集を始めて間もない、平成元年(1998年)に山梨県に転勤になり
手近な山梨県内の鉱物産地を回ってみることにした。
 鉱物図鑑を調べていると北巨摩郡増富鉱山で「硫砒銅鉱」や「銅藍」が
採集できるとあった。
 特に硫砒銅鉱は、ゲルマニウムを含むもので、台湾・金瓜山鉱山と並ぶ
有名産地だと知り、金瓜山鉱山の名前を知ったのもこれがキッカケでした。
   
増富鉱山産硫砒銅鉱【原色鉱物岩石検索図鑑から引用】

 また、銅藍を英語でコベリン(Covelline)というのだと知ったのも
この頃でした。
 早速、増富鉱山に行ったが、鉱山跡と思われるズリでは、図鑑に掲載されている
ような鉱物はおろか、金属鉱物らしきものは一向に見あたらなかった。
 2、3回通ったあと、鉱山施設(貯鉱場?)だったと思われる建物の床や床下に
大きなものは握りこぶし大のコベリンが、山積みになっているのに気が付いた。
 これを採集し、鉱物同志会新年例会の無料配布に出すとともに、産地を公開した。
 その後何回か訪れたが、硫砒銅鉱は一向に見つからなかった。そうこうしている内
”蛇の道は蛇”で、硫砒銅鉱は、極々限られた範囲で産出すること、そして
大よその場所も分かった。早速駆けつけ、念願の硫砒銅鉱を採集できた。
 しかし、これは針状結晶が白粉肌の珪質岩に埋もれた、「図鑑」とは違う
タイプであった。
 それから10年以上経ち、2003年5月連休の採集会で、八幡山での水晶採集の
際に、千葉県のYさんの奥さんが、「図鑑」にあるのと同じ、晶洞の中に
短角柱状で金属光沢のある標本を採集した。すぐさま、場所をお聞きし
その後も訪れ、代表的な標本を採集できた。
(2003年6月採集)

2.産地

 増富ラジウム温泉街を抜け、渓谷を上流に向かうと、木賊方面と瑞牆山方面に
分かれる3差路がある。
 3差路の鉱山施設跡が貯鉱場(?)だったと思われ、ここが産地です。
増富鉱山貯鉱場跡
 瑞牆山方面に曲がると、川の反対側に真っ白いズリがあり、その山際には
廃墟となった鉱山施設跡が見られる。ここも産地です。
増富鉱山ズリ

3.産状と採集方法

 「日本鉱産誌」によれば、増富鉱山は古生代の珪岩を貫く、角閃花崗岩
半花崗岩中の鉱脈で、この本が出た1955年には、増富鉱山(株)が稼行しており
硫砒銅鉱が多く、銅藍(Cu含有量66%)を伴い、平均Cu品位6%と品位の良い
鉱石を産出するので知られていた。
 硫砒銅鉱の産状は、2つある。
 @”おしろい肌”と呼ぶ、変質した珪岩や石英脈を割ると
   稀に針状結晶で産する。
 A石英の晶洞部分に、光沢の強い黒色角柱状の結晶で産する。

4.産出鉱物

(1)硫砒銅鉱【Enargite:Cu3AsS4】
  増富鉱山の硫砒銅鉱は、Ge(ゲルマニュウム)を含むとされている。
  硫砒銅鉱は、熱水鉱脈にあり、火山活動に伴い、銅と硫黄ガスが結晶した
  いわゆる気成鉱床とされている銅藍とは違った経過を辿って生成したと思われる。
 @のタイプは、光沢の強い鋼色の針状結晶で産出する。ごく希に
  針状結晶の集合部分があり、見ごたえのある標本となる。
  劈開が強く、母岩に四周完全に埋もれているため割った衝撃でC軸方向と
  平行に劈開するものが多い。
 Aのタイプは、光沢の強い短柱状結晶で産出する。
     
         タイプ@            タイプA
                 硫砒銅鉱

5.おわりに

(1)台湾・金瓜山鉱山の硫砒銅鉱は金を含みます。増富鉱山の近くに
   ”金山(かなやま)”と呼び、昔、武田信玄が金を採掘したと言われる
   坑道が残っているそうです。
   金杭(坑の間違い)址

  (山梨県では、古いもののほとんどが武田信玄に行き着きます。)
   ここの石英を採集し、金を探したが、微量しかなかったという報告も
   あります。
(2)韮崎ICに行く途中、双葉町の農地には、この時期、ひなげし(ポピー)が
   真っ赤な花をつけ、目を楽しませてくれます。
   双葉町のひなげし

6.参考文献

1)柴田秀賢、須藤俊男:原色鉱物岩石検索図鑑,北隆館,昭和48年
2)東京地学協会編:日本鉱産誌 T−b,砧書房,昭和31年
3)田中収編著:山梨県 地学のガイド,コロナ社,昭和62年
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