山梨県増富鉱山のコベリン(銅藍)

山梨県増富鉱山のコベリン(銅藍)

増富鉱山の鉱物(1)

1.初めに

鉱物採集を始めて間もない、平成元年(1998年)に山梨県に転勤になり
手近な山梨県の鉱物産地を回ってみることにした。
鉱物図鑑を調べていると北巨摩郡増富鉱山で「硫砒銅鉱」や「銅藍」が
採集できるとあった。
硫砒銅鉱では、台湾・金瓜山鉱山と並ぶ有名産地だと知り、金瓜山鉱山の名前を
知ったのもこれがキッカケでした。
また、銅藍を英語でコベリン(Covelline)というのだと知ったのもこの頃でした。
早速、増富鉱山に行ったが、鉱山跡と思われるズリでは、図鑑に掲載されている
ような鉱物は一向に見あたらなかった。
2、3回通ったあと、鉱山施設(貯鉱場?)だったと思われる建物の床や床下に
大きなものは握りこぶし大のコベリンが、散乱しているのに気が付いた。
これを拾って、鉱物同志会新年例会の無料配布に出すとともに、産地を公開した。
それから10年近く経ち、八幡山の水晶採集の帰途に立寄り、コベリンの小さな
カケラは何個か拾えた。
貯鉱場にあったものを拾ってきて、鉱物採集したと言うのは、”Mineralhunter”の
沽券にかかわると思い、大雪が残る中を採集に行き、自然硫黄、銅藍、黄銅鉱が
層状になっている、増富鉱山の産状が良く分かる標本を採集できた。
(2002年12月採集)

2.産地

増富ラジウム温泉街を抜け、本谷川渓谷沿いの道路を上流に向かうと約4kmで
木賊方面、瑞牆山方面に分かれる3差路がある。
3差路の鉱山施設跡が上鉱の貯鉱場(?)だったと思われます。
増富鉱山貯鉱場跡
3差路の手前にある落合橋から、上流を見ると、川の右岸に真っ白いズリがある。
増富鉱山ズリ
その山際には廃墟となった石組みの鉱山施設跡が見られる。この周辺でも
採集できます。
増富鉱山施設跡
坑口は、もっと上にあったと思われ、鉱山施設跡の北側の沢の上流に大きな鉱石塊が
ありました。
鉱石が落ちていた沢

3.産状と採集方法

「日本鉱産誌」によれば、増富鉱山は古生代の珪岩を貫く、角閃花崗岩
半花崗岩中の鉱脈で、この本が出た1955年には、増富鉱山(株)が稼行しており
硫砒銅鉱が多く、銅藍(Cu含有量66%)を伴い、平均Cu品位6%と品位の良い
鉱石を産出するので知られていた。採集方法は、
@貯鉱場だったと思われる場所での表面採集。
A石組みの鉱山施設跡のズリ石を割る。
B沢の中で鉱石塊を割る。
銅藍は、黄褐色の焼けが付着し、青黒い部分のある多孔質の石英に来ていることが
多いので、これを探して割ると良いでしょう。

4.産出鉱物

(1) 増富鉱山の鉱石【Ore of Masutomi Mine】
ここの銅藍は、火山活動に伴い、銅と硫黄を含むガスが昇華(結晶)したいわゆる
気成鉱床とされている。
下の写真に示す鉱石は、黄銅鉱、銅藍、自然硫黄が層を成しており、白銀色の
硫砒銅鉱も点在し、気成鉱床の産状が良く分かる、今回”採集”のお気に入り
標本です。

    増富鉱山の鉱石
【上:自然硫黄(黄色)、中:銅藍(青黒色)、下:黄銅鉱(黄褐色)】

(2) 銅藍【Covelline:CuS】
細かい隙間の多い真っ白な石英の隙間に紫〜青黒でガラス光沢のある六角板状
(箔状)結晶で産出する。結晶面は湾曲し、雲母のように劈開が見られる。
3差路の貯鉱場跡のものは、母岩は小さいが、比較的大きな結晶が付いている。
銅藍【貯鉱場跡産】
(3)自然硫黄【Native Sulfur:S】
黄色で光沢のある結晶が石英の空隙に柱状に成長したり、空隙を充填する形で
産出する。
割った瞬間に”鼻先でマッチを擦った”時と同じ、硫黄特有の臭いがする。
自然硫黄
(4)黄銅鉱【Chalcopyrite:CuFeS2】
多孔質の石英に、錆びた真鍮色に鉱染状〜微細結晶で産出する。黄鉄鉱も
混じっていると思われる。
黄銅鉱

5.おわりに

(1)写真でお分かりのように、12月8日〜9日にかけて降った雪が路面で
10cm以上、吹き溜まりでは30cm近くありました。チェーンを付けるのも
面倒なので、増富温泉街のはずれから歩いて行った。
苦労した甲斐があって、ようやく”銅藍を採集した”という実感が湧きました。
それにしても、真っ白な雪の中から、良く探せたと、我ながら不思議に思って
います。
(2)車に戻ってエンジンを掛けようとキーを回したが、ウンともスンとも応答なし。
”ヤバイ、ヘッドライトが点けっ放しだった!”
こんな雪の中、通る人も居ないし、どうしようか思案に暮れた。幸か不幸か
車を停めた場所が緩い坂道になっている。一か八か、車を押して見ると動き出す。
慌てて、走り出した車に飛び乗って、エンジン・キーを回しておいてロー・ギヤーに
入れると、”掛かった!!”
インディ・ジョーンズさながらの採集行でした。
(3)硫砒銅鉱、重晶石、銅の2次鉱物のコルヌビア石(含水酸塩鉱物)などに
ついては、逐次報告したいと思います。

6.参考文献

1)柴田秀賢、須藤俊男:原色鉱物岩石検索図鑑,北隆館,昭和48年
2)東京地学協会編:日本鉱産誌 T−b,砧書房,昭和31年
3)田中収編著:山梨県 地学のガイド,コロナ社,昭和62年
inserted by FC2 system