増富鉱山の目玉は、何と言っても
@ 銅藍(コベリン)
A 硫砒銅鉱
で、2003年に出版された松原先生の「日本の鉱物」にも本鉱山の銅藍が掲載
されていて、既報のように、「銅藍」は、十分満足できる標本を入手している。
しかし、古い鉱物図鑑に描かれている、「晶洞の中に立っている硫砒銅鉱の
柱状結晶」の立派なものは未だに採集したことがなく、今回、私自身の目標の1つ
であった。
貯鉱場跡で、いまどき珍しい「握りこぶし大の銅藍」を採集し、本来の目的である
硫砒銅鉱のポイントに移動したが、なかなか良標本は得られなかった。
やがて、今まで見向きしなかったズリで、硫砒銅鉱結晶が石英の晶洞の中に
立っている標本を採集できた。
2005年ごろ、古い坑道の天井が陥没し、坑道の一部が姿を現している。入坑
すれば、もっと良品が得られそうな気がしないでもないが、2の足を踏んでいる。
今回、あちこち歩き回り、鉱山の全体像も見えてきたのでまとめ直してみた。
( 2007年4月採集 )
3差路の手前にある落合橋から、上流を見ると、川の右岸に選鉱滓を捨てた
真っ白いズリがある。選鉱に多量の水を使ったと思われ、赤さびた太いパイプが
横たわっている。
このズリは、川沿いの広い範囲にまたがっている。
その山際には廃墟となった石組みの鉱山施設跡が見られる。この北側の沢を
約100m進むと陥没した場所があり、坑道が一部姿を現している。
途中には、捨石場も見られる。
本鉱山の銅藍は、火山活動に伴い、銅と硫黄を含むガスが昇華(結晶)した
いわゆる気成鉱床とされている。
下の写真に示す鉱石は、2002年12月に採集した「黄銅鉱」、「銅藍」、「自然
硫黄」が層を成すもので、白銀色の「硫砒銅鉱」も点在し、気成鉱床の産状が良
く分かる、標本である。
採集方法は、
@貯鉱場だったと思われる場所で表面採集や掘ってみる。
A石組みの鉱山施設跡を中心としたズリ石を割る。
B沢の中で鉱石塊を割る。
銅藍は、黄褐色の焼けが付着し、青黒い部分のある多孔質の石英に産する。
硫砒銅鉱の産状は、2つある。
@ ”おしろい肌”と呼ぶ、変質した珪岩や石英脈を割ると稀に”白銀色”の
針状結晶で産する。
A 石英の中に”銀黒状”に入った硫砒銅鉱の晶洞部分に、光沢の強い黒色
角柱状の結晶で産する。
(2) 硫砒銅鉱【ENARGITE:Cu3AsS4】
硫砒銅鉱は、熱水鉱脈にあり、火山活動に伴い、銅と硫黄ガスが結晶した
いわゆる気成鉱床とされている銅藍とは違った経過を辿って生成したと思わ
れる。
@のタイプは、光沢の強い鋼色の針状結晶で産出する。ごく希に針状結晶
の集合部分があり、見ごたえのある標本となる。
劈開が強く、母岩に四周完全に埋もれているため割った衝撃でC軸方向と
平行に劈開するものが多い。
Aのタイプは、光沢の強い短柱状結晶で産出する。
増富鉱山の硫砒銅鉱は、Ge(ゲルマニュウム)を含むとされている。
(2) 「日本産鉱物型録」を見ていると、ここ増富鉱山が日本での初産地、とされる
鉱物が記載されている。
コルヌビア石【CORNUBITE:Cu5(AsO4)2(OH)4 】 もその1つである。
淡青色の銅の2次鉱物がズリで見られるのだが、これがそうなのか、確証を
得ていない。
決着を着けねば、と考えている。