栃木県塩谷町万珠鉱山のモットラム鉱

       栃木県塩谷町万珠鉱山のモットラム鉱

1. 初めに

   2005年8月、湯沼鉱泉を訪れると、栃木県のSさん一家が宿泊しており、社長の一声で
  甲武信鉱山を案内したのは、既報の通りである。
   その後、Sさんから、「地元の万珠鉱山なら案内できます」 との連絡を頂き、紫水晶と
  ”モットラム石”(正式には、石でなく、鉱と言うらしい)の産地を案内していただくことになった。
   これもHPに既報の通り、平成16年(2004年)鉱物同志会の新年会で、万珠鉱山の紫水晶を
  100円で購入して以来、産地を訪れ、自分の目で産状を確認し、自分の手で採集したいと
  願っていたので、正に願ったり叶ったりであった。
   鉛沢での採集の後、日光を抜けるのに時間がかかり、折から霧雨も降りだし、万珠鉱山に
  着いたころには薄暗くなりかかっていた。
   Sさんが前の週に最新の状況を下見してくれたこともあり、簡単に産地に到着でき、目的の
  「モットラム石」と「紫水晶」そして「パリゴルスキー石」の3点セットを採集できた。
   案内していただいたSさん一家に、厚く御礼申し上げます。
  (2005年10月採集)

2. 産地

    既に、情報があると思いますので割愛させていただきます。

    万珠鉱山

3. 産状と採集方法

    私の鉱物関係の座右の書に「万珠鉱山」は見つけ出すことができなかった。
   「日本金山誌」には、記載されているいるらしいが、引っ張り出すのに時間がかかりそう。
    色々な人から聞いた話を総合すると、金銀鉱山であったらしい。「日本鉱産誌 金・銀その他」を
   紐解くと、この本が出版された昭和30年(1955年)当時、栃木県塩谷郡玉生(たまにゅう)村に
   あった金銀鉱山として「釜之沢」「丸山」「飯岡」「玉生(立室)」「伊守(高柴あるいは伊守山)」
   「白金」そして「高山」の諸山が掲載されている。
    その中で、万珠鉱業鰍ェ経営した金銀山に「釜之沢」と「玉生」があり、それと同列の鉱山
   あるいは支山の1つであったことから、万珠鉱山と名付けられたと考えている。
    この一帯は、第3紀凝灰岩や石英粗面岩中の石英脈に伴う金銀鉱床で、石英脈の一部に
   紫水晶が生まれ、カオリン(粘土)化した部分にモットラム鉱とパリゴルスキー石がきている。
    採集方法は割愛させていただきます。

4. 採集鉱物

 (1)紫水晶【Amethyst:SiO2】
     ここの紫水晶は柱面が発達せず、錐面が優勢で、一つひとつの結晶の大きさは2、3mmと
    極めて小さいが、紫色の濃さと光沢は素晴らしく、鉛沢産のものとは一味違った愛らしさが
    ある。
     採集した標本は、2cm足らずの小さなものだが、” 紫水晶の華 ” という表現が
    ピッタリである。

    紫水晶

 (2)モットラム鉱【Mottramite:PbCu(VO4)(OH)】
     黄緑色、皮膜〜粉状で粘土鉱物の上に産する。国産では数少ないV(バナジウム)を含む
    稀産鉱物であるが、見栄えは今ひとつである。山梨県産のウグイス色をした「カニュク石」を
    想い描いて探せば、見つかると思う。
     水溶性なので、間違っても綺麗にしようなどと、水洗いしてはならない。

    モットラム鉱【黄緑色部】

 (3)パリゴルスキー石【Palygorskite:(Mg,Al)2Si4O10(OH)・4H2O】
     白色不透明の集合体で粘土鉱物を伴う鉱脈の割れ目に産する。英語では”Moutain-leather”
    和名では石鞣皮(せきじゅうひ)、山鞣皮(やまじゅうひ)あるいは単に山皮(やまかわ)と
    呼ばれる。( 鞣皮とは、なめしがわの意味 )
     これも取り扱いには、細心の注意が必要。

    パリゴルスキー石

5. おわりに

 (1)平成16年(2004年)鉱物同志会の新年会で、万珠鉱山の紫水晶を購入して以来、産地を
    訪れ、自分の目で産状を確認し、自分の手で採集したいと願っていた。この度、ようやく
    念願が叶った。
    産地を案内していただいた、Sさん一家に、改めて御礼を申し上げます。

 (2)私が加入している「鉱物情報」の最近号に『栃木県塩谷郡塩谷町万珠鉱山と玉生鉱山付近』
    題する報文がある。これによれば、万珠鉱山産として、次のような鉱物もあるらしい。

    @バリシア石
    A自然金
    B硫酸鉛鉱
    C鉄石英

     何とか、これらも採集したいもの、と念じている。

6. 参考文献

 1)柴田秀賢、須藤俊男:原色鉱物岩石検索図鑑,北隆館,昭和48年
 2)日本鉱産誌編纂委員会編:日本鉱産誌 T−a 金・銀その他,東京地学協会,昭和30年
 3)松原 聰:日本産鉱物種,鉱物情報,1992年
 4)加藤 栄一:栃木県塩谷郡塩谷町万珠鉱山と玉生鉱山付近 鉱物情報 No.142
           鉱物情報,2004年
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