スペインからのメール 山梨県大菩薩峠の褐簾石









             スペインからのメール
         − 山梨県大菩薩峠の褐簾石 −

1. はじめに

    3年ほど前、千葉の石友・Mさんが私のHPの更新回数を数え上げて知らせてくれた。それ
   以来、更新回数を多少意識するようになり、「更新来歴(What's New)」のページに「更新回
   数」を10回単位で表示するようにしてみた。

    1998年3月にHPを始めたので、2011年3月でちょうど13年(おおよそ4,750日)が経過した
   ことになる。現時点での更新回数が904回だから、単純計算で5.3日に1回、10日に2回の
   ペースで更新したことになる。

    HPを始めたときに意識したことの1つに、インターネットの普及で世界が狭くなり、外国人が
   私のページをアクセスすることもあろうかと思い、HPのタイトル、採集鉱物には英語を併記す
   るようにしていた。
    しかし、国内のミネラル愛好家からの産地情報要請、ミネラル・ウオッチングへの参加希望
   そして小学校・中学校からの出前授業依頼などは舞い込んできたが、外国人からのコンタク
   トはこの13年の間全くなかった。

    2010年12月初め、メールを開くと英文のメールが入っていた。”Viagra”や”Porn"などの
   ”迷惑メール”は自動的に振り分けてゴミ箱直行にしているので、まじめなメールだと思って
   開くとスペイン国立バスク大学・J教授からのものだった。
    私のHPにある「山梨県大菩薩峠の褐簾石」について @ 価格 A 特徴 B 今も採集
   可能か などについての問合わせだった。すぐ返事を出そうと思いながら、年末年始の慌た
   だしさに取り紛れ、2ケ月近く経ってから、返信メールを送った。

    『 標本を売る気はないので、研究のお役に立つなら無償で標本を送る。花崗岩ペグマタ
     イトに産出する「褐簾石」だが未分析。標本は山梨県の自宅においてあるので送るまでに
     時間がかかる。』
 旨の返信メールを送った。

    千葉県に住む孫の雛祭りのお祝いを早めに済ませ、3月に入ってすぐ、山梨に2ケ月ぶりに
   戻った。標本は、ミネラル・ウオッチングを始めて間もないころに採集したもので、自作の木製
   標本箱の中にあることは記憶していたので簡単に見つけることができた。

    自分が採集した標本を外国の大学に送り出すとなると、気が早いが『孫娘の嫁入り』のよう
   な心境で、嬉しさと寂しさが綯(な)え混ぜになった複雑な心境だ。
    標本が無事J教授の手元に届き、研究に役立ってくれるのを願っている。
     ( 2011年3月 送付 )

2. 「大菩薩峠の褐簾石」

    山梨県北部に長編小説のタイトルにもなった「大菩薩峠」がある。ここで、「褐簾石」が採集
   できることは、長島乙吉・弘三親子の「日本希元素鉱物」はじめいくつかの文献に紹介されて
   いる。

    ここを初めて訪れたのは、山梨県に転勤になって2、3年経った1992年ごろのことで、その
   後、2000年に訪れた結果については既にHP報告した。

    ・山梨県大菩薩の渇簾石
   (Allnite of Daibosatsu Pass , Yamanashi Pref.)

    ここの褐簾石は、山梨県を代表する鉱物の1つだと考え、HPの『標本箱(Gallery)』にも掲載し
   てある。
    J教授に送る標本の写真を『嫁入り前』に撮り直した。
    ( 現物が手元になくなるので、いろいろな角度、倍率で写真を撮った。 )

        
                  全体                        結晶
                                           【 10mm】
                           大菩薩峠の褐簾石
                             【2000年採集】

3. J教授の問い合わせと回答

    英文で書かれたJ教授からの問い合わせ原文を掲載する。私達が日ごろ使っている日本
   語化した単語もあるが、日常生活ではあまり見聞きすることが少なく、質問の意味をあれこ
   れ考える単語もあった。
    ( これも、返事が遅れた理由の1つ )

    " We should greatly appreciate receiving information on the price, characteristics
     and availability of allanite crystals from the Daibosatsu Pass as the one shown in the
     picture herewith from your web page:

      http://www002.upp.so-net.ne.jp/mineralhunters/sample.html

      Looking forward to receiving the information, kind regards,              "

 (1) Price
       プライスは”エブリディ・ロー・プライス”などと使われ、日本語化していて『価格』のことで
      ある。
       J教授は日本に1度来たことがあるようだが、日本語はできないようで、私のHPで鉱物を
      販売していると勘違いされ、買いたいと価格を聞いてきたようだ。

       これには、ちょっとキザだが、『 標本を売る気はないので、研究のお役に立つなら無償で
      送る。』 
、と下のように回答した。

       " It's free. Because I'm an amature Mineralhunter , I don't like selling specimens.
         If allanite crystal is useful for your study , it's my pleasure.            "

 (2) Charastaristics
       理系の人なら、この単語を「特性」あるいは「特徴」、文系の方なら「特色」などと訳すの
      ではないだろか。
       鉱物のCharastaristicsには、下記のような項目があるが、特別な測定器や分析機器を
      持っていない”甘茶”が測定あるいは記述できる項目は限られたものだろう。

       ・ Cleavege(へき開)
       ・ Color(色)
       ・ Crystal System(結晶系)
       ・ Crystal Form(結晶の形)
       ・ Density(密度:比重)
       ・ Habits(晶癖)
       ・ Hardness(モース硬度)
       ・ Locality(採集地)
       ・ Luminescence(蛍光)
       ・ Luster(光沢)
       ・ Magnetic(磁性)
       ・ Name Origin(名前の由来)
       ・ Raidioactivity(放射性)
       ・ Streak color(条痕色)

       化学式や産状、そして結晶の色や大きさなどを知らせることにした。
       『 分析していないが化学式は下の通り。結晶は石英とカリ長石からなる花崗岩ペグマ
        タイトに含まれ、まっ黒で最大10mm                              』

      " Allnite : (Ca,Ce,Y)2(Al,Fe)3(SiO4)3(OH)-----Not yet analysed.

        Allnite crystal is included in Granite pegmatite with Quartz and K-feldspar.
        Black colour crystal Max 10mm long.                     "

 (3) Availability

       "Availability"という単語はなじみが少ないのではないだろうか。"Available"、という形容
      詞は、「利用できる」や「入手できる」を意味するので、その名詞形なので「(現在の)採集
      可能性」であろうと解釈し、次のように回答した。

       " It is very difficult to get good specimen today. I found allanite in small area.
         Road is closed in winter( Dec. to May )                        "

        10年以上訪れていないので最近の状況は良く判らないが、2000年ごろでも、『 「褐簾
       石」は狭い範囲でしか見つからず、現在では良品を採集するのは難しい。おまけに、冬
       の間(12月〜5月)、産地への道路は通行止め                        』

4. J教授の期待

    拙い英文のメールを送るとその日の内に、J教授から標本の到着に期待するメールが寄せら
   れた。
    そこには、感謝の意と論文発表する場合、その入手先や寄贈されたものであることを明記す
   るとともに、論文のコピーを送ってくれる、とのこと。
    私が送ったメールの意味は通じたようだ。

    " Thank you very much for your kind answer and offer regarding the Daibosatsu Pass
      sample.

      Thanks a lot also for the other information, I appreciate that, I was once in Japan
      quite a long time ago and keep an excellent souvenir of your country.

      Of course, we will mention in due form the provenance of the specimen and the
     donation in case we get to publish some results using it, and eventually we will send
      you copy of the data.

      With best regards,                                         "

5. おわりに

 (1) 『 世界が狭くなった 』
      私がパソコンを使うようになったのは、今から15年ほど前の1995年に、会社でパソコンが
     ひとりに1台配られて以来である。それ以前、ミニコンと呼ばれる小型計算機からHITACシ
     リーズの大型計算機を仕事では使っていたのだが、パーソナル・コンピューターは自分で
     プログラミングなどの面倒なことをせずに、インターネットやメールで情報の入手・交換がで
     きるようになった。

      赤の他人と知り合いになる手順は、従来は間接的に誰かの紹介がある場合でも直接お会い
     して初めて知己になるケースがほとんどだった。(お見合いが良い例)
      インターネットが普及してから、見ず知らずの人からメールをいただき、その後にお会い
     するケースが増えてきた。メールのやり取りやお会いしてみて、石友の関係が続いている方々
     が多いが、一度きりの人も中にはいる。
      石友の半分は、名古屋以西に住んでいる方々で、インターネットがなければ、生涯で会う
     ことがなかっただろう。ましてや、スペインのJ教授と私は、インターネットがなければ、お互
     いの存在すら知らなかったはずだ。
      また、インターネットで知り合って10年になる石友・Mさんのように未だに直接お会いした
     ことがない不思議(?)な関係の方もいる。

      2011年は、中東諸国の中で最も安定していると思われたエジプトでの民衆による政権転覆が
     起こり、その勢いは周辺諸国に広まる勢いを見せている。160ケ国近くある世界の国々の中で、
     「民主化度」最下位の北朝鮮や百何十番目かの中国にもこうした世界の動きがインターネ
     ットを通じて伝わる時代が来るのだろうか。

     ますます、『世界が狭くなった』 、と感じる昨今だ。

 (2) 『 アクセス数 』
      HPを運営している人たちにとって関心事の1つが 『 アクセス数 』 にあるようだ。私の
     HPの読者の1人、愛知県・Sさんから、時どき”キリ番”と称する、”切りの良い”、あるいは
     ”ゾロ目”の折などに、写真ととも知らせてくれることがある。

        
               40万回                   555,555回
                          アクセス・カウンタ

      HPを開設した当時は、アクセス数を気にしていなかったが、”キリ番”を連絡してくれるたびに
     画像を保存しておいた。
      HPを開設してからの経過日数を横軸に、累積平均と区間平均(例えば、最近1ケ月の平均)の
     アクセス数をグラフにしたものを下に示す。

       アクセス件数解析

      累積平均では、1日平均約150件のアクセスがあり、区間平均では、3,600日目ごろには日に300件
     前後のアクセスがあったが、最近は200件前後に落ち着いている。
      今のままだと、累積平均=区間平均≒200件弱になるのだろう。

6. 参考文献

 1) 長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
 2) 山梨県・山梨県地質図編纂委員会編:山梨県地質誌 山梨県地質図説明書
                            同委員会,昭和45年(1970年)
 3) 益富 壽之助:鉱物  −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年(1985年)
 4) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
 5) 松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
 6) 日本産鉱物分類別一覧 −無名会七十五周年記念−,無名会,2008年
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