福島県真米(まごめ)鉱山の自然銀

1. 初めに

   東京の石友・Mさんと福島県蛍鉱山を訪れ、目的の「蛍石」「針水晶」などを採集し、車
  に戻ったのがお昼過ぎだった。まだ、帰るのには早いと、この近くにある産地をもう一箇
  所回ることにした。
   「自然銀」が採集できるという情報に惹かれ、真米(まごめ)鉱山を訪れることで意見
  がまとまった。
   林道を進むと遠くからでも大きなズリ山が見えてきた。これは簡単、と思ったのが浅は
  かだった。ズリの手前に深い谷が横たわり、急な崖を木の根につかまりながら下ったかと
  思うと、腰まで冷たい水に漬かって川を横断し、やっとの思いでズリに到達した。
   ズリには、スカルン鉱床を思わせる「晶質石灰岩(大理石)」が点々と見え、ほとんどは
  赤茶色に褐鉄鉱を被った硫化鉱物であった。
   それらを叩き、「方鉛鉱」「閃亜鉛鉱」などの標本は得られたが、青緑色の2次鉱物は
  全く見当たらず、「自然銀」は幻に終わってしまった。
   この近くには、「水引鉱山」など、「福島県鉱産誌」に金銀鉱山として記載してある
  鉱山もあり、いずれ訪れてみたいと考えている。
  ( 2006年7月採集 )

2. 産地

    福島県舘岩村戸中から、鱒(ます)沢右岸の林道を約3km進むと谷を挟んだ左岸に
   大きなズリと事務所か選鉱場跡と思われる平坦地が見える。
    「福島県鉱産誌」によれば、真米鉱山は、幕末に会津藩によって砲弾の材料として鉛
   を採掘・精錬する目的で開発されたらしい。その当時は、ここの地名から「戸中鉱山」
   と呼ばれていた。
    明治期になって、星繁太氏が鉱業権を得て、「真米鉱山」と称し、後に淡中春子氏の
   経営を経て、昭和13年(1938年)三菱鉱業(株)により買収され、そのまま放置されて
   いた。
    昭和26年(1951年)末、只見鉱業(株)により開発され、平均品位鉛(Pb)13%、亜
   鉛(Zn)9%の精鉱を月150〜200トン出鉱し続け、閉山したのは昭和30年代末か40年代初
   頭(?)らしい。

       
           ズリ             鉱山施設跡(?)
                   真米鉱山

3. 産状と採集方法

 3.1 産状

     真米鉱山の地域は古生代の粘板岩で、これに砂岩・珪岩を交え、その間にレンズ状
    の石灰岩を夾みこんでいる。
     ここには、北から千貫目鉱床、日影(日蔭)鉱床、山神(北・南)鉱床、宝鉱床の
    4つがあり、それぞれの配置は下図のようになっていた。

    坑道配置【福島県鉱山誌から引用】

     それぞれの坑(鉱床)の特徴は下の表のとおりである。

鉱床規模主な産出鉱物 備考
千貫目幅0.5〜2m 長さ60m 方鉛鉱、閃亜鉛鉱
磁硫鉄鉱を主とし
黄鉄鉱は少なく
黄銅鉱は肉眼的には希
露頭あり、芋状〜ややパイプ状
日影(日蔭)幅0.5〜2m 長さ190m 方鉛鉱、閃亜鉛鉱
磁硫鉄鉱を主とし
黄鉄鉱は少なく
黄銅鉱は肉眼的には希
露頭あり、不規則紡錘状
あるいは芋状をなす単位鉱体が
連鎖状に集合し、全体として
パイプ状をなす
山神(北)幅0.5〜2m 長さ110m 方鉛鉱、閃亜鉛鉱に富む 露頭あり
レンズ状〜パイプ状をなす
山神(南)幅0.5〜2m 長さ40m 方鉛鉱、閃亜鉛鉱に富む 露頭なし
芋状〜ややパイプ状をなす
幅0.5〜2.5m 長さ10m 磁硫鉄鉱を主とし
鉛、亜鉛の含有は少ない
蛍石がしばしば認められる
露頭あり、芋状鉱体

     真米鉱山の生産量は、「福島県鉱産誌」によれば、下表の通りで、銀の含有量は
    平均して50〜70g/tであった。
     昭和38年(1963年)の精鉱量は前年に比べ半分に激減し、銀の品位も51g/tとそれ
    までの最低を記録し、真米鉱山を取り巻く環境が極めて厳しくなったことがうかが
    える。
     

年次 鉱量(t)精鉱品位 備考
銀Ag(g/t)鉛Pb(%)亜鉛Zn(%)
昭和27年664.05414.838.10 
昭和28年955.05810.859.22 
昭和29年1,279.37013.329.41 
昭和30年1,962.07016.239.52 
昭和31年2,113.07316.8510.20 
昭和32年2,245.06116.019.80 
昭和33年2,463.05514.229.75 
昭和34年2,500.05513.209.60 
昭和35年2,210.05813.639.62 
昭和36年1,910.05913.979.39 
昭和37年1,750.05513.789.68 
昭和38年975.05113.519.28 

 3.2 採集方法
     広い範囲に散らばっているズリから、赤茶色の褐鉄鉱に覆われて”ズシリ”と重い
    ズリ石を探し出し、ハンマで割って新鮮な部分を出す。
     晶質石灰岩(大理石)は、真っ白い塊で点在するので簡単に採集できる。

4. 採集鉱物

 (1)方鉛鉱【Galena:PbS】
     母岩に塊状で含まれ、割れ口が平坦、黒鋼色、鏡面で四角のへき開を示すのが特徴
    まれに、自形結晶が数面見える標本もある。この鉱山の主要鉱石だっただけに、量的
    には一番多い。
    

     方鉛鉱

 (2)閃亜鉛鉱【Sphalerite:ZnS】
     方鉛鉱と同じように、母岩に塊状で含まれ、割れ口が真っ黒で平坦だが”ギザギザ”
    した感じの”葉片状”なので方鉛鉱と区別できる。
     方鉛鉱と並んでここの主要鉱石だった割りに少ない。

     閃亜鉛鉱

 (3)磁硫鉄鉱【Pyrrhotite:Fe1-xS】
     黄〜赤銅色、塊状で産する。写真に示すように、磁石を近づけると勢いよく吸い付
    けるので鑑定は難しくない。
     強い磁性を示すところから、磁硫鉄鉱-4M【Pyrrhotite-4M:Fe7S8】と呼ばれる単斜
    晶系のものらしい。

     磁硫鉄鉱【リング状は糸付き磁石】

 (4)硫砒鉄鉱【Arsenopyrite:FeAsS】
     銀白色平坦な割れ口を示す。自形結晶の数面がみえるものや、表面が黄褐色に錆び
    ”菱餅状”の自形結晶がみられるものもある。

     硫砒鉄鉱

 (5)蛍石【Fluorite:CaF2
     銀白色の硫砒鉄鉱の中に脈状で産する。白色〜透明、ガラス光沢を示し、割れ口が
    平坦で、独特の光沢があり、虹色に見える部分があることで似たような産状の方解石
    と区別がつく。
     ミネラライトを照射しても、ほとんど”蛍光を示さない”。「福島県鉱産誌」には
    蛍石は一番南の宝鉱体のみ産出したとある。このズリにはすべての坑からの鉱石が集
    められたと推定できる。

     蛍石

     このほか、黄銅鉱や晶質石灰石などが見られる。

5.おわりに

 (1) 「自然銀」が採集できるという情報を信じて訪れたが、いろいろな情報を総合する
     と「自然銀」の採集は極めて難しく、ルーペサイズの「硫化銀」(?)が採集できる
     程度らしい。
      鉱床は、含銀方鉛鉱と呼ぶべきもので、精鉱銀品位50〜70g/tでは「自然銀」を
     期待するのは無理なのかも知れない。

 (2)  ”時間潰し”のつもりで訪れただけに、ミネラルウオッチングの結果にあまり失望
     を感じなかった。
      この近くには、「水引鉱山」など、「福島県鉱産誌」に金銀鉱山として記載してあ
     る鉱山もあり、いずれ訪れてみたいと考えている。

6.参考文献

 1)福島県:福島県鉱産誌,福島県,昭和40年【非売品】
 2)加藤 昭:鉱物種一覧 2005.9,小室宝飾,2005年
 3)松原 聡:日本の鉱物,学習研究社,2003年
 4)松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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