2002年秋 京都・奈良の観光・鉱物採集旅行【ダイジェスト版】

2002年秋 京都・奈良の観光・鉱物採集旅行【ダイジェスト版】

1.初めに

11月は我々夫婦の結婚記念の月であり、以前から京都、奈良へ紅葉を見ながら
鉱物採集をする旅を計画していた。
11月22日(いい夫婦)の前後、4泊5日で回り、総走行距離1,114km
(いいいし採れた)でした。
奈良の産地は、地元の石友のAさんと息子のT君に案内していただき
奈良県での鉱物採集が初めてにもかかわらず、五代松(ごようまつ)鉱山で
母岩付き日本式双晶が採集でき、穴虫、三尾鉱山、針道など私にとって
新しい産地を訪問でき、それぞれの代表的な標本を採集でき、実り多い
巡検であった。
AさんとT君に厚く御礼申し上げます。
京都・奈良の紅葉も一番の見ごろで、訪れる寺院毎の風情に妻も感嘆の声をあげ
私の点数も上がって、鉱物採集にもさらに行きやすくなりそう。(作戦成功!!)
帰りに、中津川鉱物博物館で開催していた「田上地方の鉱物展」の最終日に
間に合い、中澤晶洞からでたトパーズ初め、素晴らしいペグマタイト鉱物を
目の当たりにして、「いつか晶洞を開けるぞ!」とファイトを燃やした。
(2002年11月採集)

2.【京都紅葉観光】

(1)東寺骨董市
毎月21日は東寺で弘法市と称する骨董市がある。妻と私の共通の趣味である
骨董品探しに、全国有数の規模を誇る東寺の骨董市を一度は訪れたいと願っていたが
ようやく叶った。
朝、7時前に着くと、早いお店は商売を始めている。車を駐車場に預け露天を
端から見て回る。
私は、@切手・ハガキ A鉱物 B鉱山関係古文書
妻は、@帯・着物 A植木
を探す。
季節柄、「千枚漬」などの食料品が多く、目指すお店は少ないが、それでも
ハガキ、封筒など10点ほど入手する。
金山局消印
(2)東山紅葉巡り
4年ほど前、嵐山・比叡山方面の紅葉を見ているので、今回は東山と宇治周辺を
回ることにする。
@高台寺
抹茶とお菓子をいただきながら、紅葉を愛でる。
高台寺紅葉
高台寺前にある京料理店で、京名産の湯葉を中心とした昼食を食べ
A長楽寺B知恩院C青蓮院D無隣庵E南禅寺の順で回る。
今回、鉱物採集の場所がほとんど車横付けの産地で、一番疲れたのがこのコースでした。
いずれの場所の紅葉も素晴らしいが、最初に見た高台寺と無隣庵のような小さな所が良い
というのが、2人の感想です。

        青蓮院          無隣庵
夕暮れせまる東山を後にし、今夜の宿の宇治へ下る。
(3)宇治紅葉巡り
@黄檗山万福寺A宇治上神社B平等院鳳凰堂C茶室「対鳳庵」D朝日焼窯芸資料館の
順で巡る。
平等院を除き、京都市内に比べ人が少なく、静かな雰囲気の中で紅葉を満喫でき
黄檗山万福寺など”貸切り”状態でした。ここでは、”黄檗”とは、漢方薬にもなる
和名”キハダ”だと初めて知った。

     黄檗山万福寺       平等院鳳凰堂        宇治川
平等院鳳凰堂の真向かいにある、茶室「対鳳庵」で抹茶とお菓子を頂く。
11月は、新茶の抹茶が出始める時期とか、さすがに茶どころ宇治だけあり
”結構なお手前”でした。
朝日焼は、小堀遠州七窯の一つに数えられ、窯芸資料館に併設された販売所で茶碗を見る。
お茶が趣味の妻の眼が輝きだし、ついに茶碗を買わされる羽目になる。
(これで、公然と鉱物採集に現(うつつ)を抜かせるのであれば、廉いものだ。)

3.【京都鉱物採集】

(1)和束川の砂金
宇治から天ケ瀬ダムを通り、和束町に入る。「京都の地学図鑑」によれば
和束川沿いで桜石、燐灰石や砂金が採れるとの情報があり、石英脈やホルンフェルスを
叩くがパッとしない。パンニングに切り替え砂金を何粒か採集する。
和束川の産地
(2)木屋(こや)の紅柱石
国道163号線を笠置町に向かって走ると左側に「和束採石場」がある。採集の許可を
もらいに事務所に行くと、稼動中で機械が動いているからダメとの事。
その代わり、台貫の後ろに積んである石なら自由に探してよいとの事。ありがたい。
木屋の紅柱石産地
早速、真っ黒いフォルンフェルスのひと抱えもある塊を端から見て回ると、紅柱石が
ビッシリついたものがたくさんある。結晶の大きなもの、新鮮で紅柱石の名に相応しい
”紅色”をしたものをハンマでかきとる。標本玉手箱用に多めに採集。
(3)法華寺野の満バン石榴石
国道を逆戻りし、木津川下流の対岸にある法花寺野に向う。採石場には、留守番の
老人がおり、採集を頼むと簡単に許可してくれる。
それもその筈、10年ほど前に来た時は盛大に操業し、砕石が赤みを帯びたマンガン系
だったのに、いまは細々と砕石し、石も花崗岩系の白い石。
採石場を一巡りするがマンガンは見当たらず、かつてマンガン鉱物を採集したあたりに
辛うじてマンガン鉱の露頭を認め、誰かの取り残しの満バン柘榴石を2kgハンマの
威力でかき採る。硬いの何の。この産地も終わりか。
法華寺野採石場
夕闇迫り、国道24号線を南下し、奈良県に入り、「極楽湯」で採集の汚れを落し
ビールで乾杯。正しく、極楽、極楽。

4.【奈良鉱物採集】

(1)穴虫のコランダム
朝6時に、Aさんとの待ち合わせ場所の香芝市役所に行く。既に息子のT君と待っている。
関東と違い、陽が出るのが遅く、まだ薄暗い。二上山の麓にある、穴虫の採石場に
行くと山積みしてある砕石砂がヘッドライトに照らされてキラキラ光る。この光る
ものの正体はT君が見せてくれた真っ赤な柘榴石。採石場の側を流れる小川の土砂を
スコップで掬ってバケツに入れる。後は、自宅に帰ってのお楽しみ。
【後日談】
自宅に帰り、パンニングを行ったところ灰色の土砂が見る見る真っ赤になり
柘榴石だけが残る。これを乾燥させ、実体顕微鏡で見ると六角青色板状のコランダムが
ありました。
標本玉手箱用の量をパンニングしてあります。

     パンニング前       パンニング後
(2)五代松(ごようまつ)鉱山
一路南下し、1時間余りで天川(てんかわ)村の五代松鉱山に到着。鉱山に着く
手前から篠つく雨が降り出した。鉱物採集で初めて雨合羽を着用する。
水晶の採れる露頭とズリに案内してもらうが、山梨県の竹森などと全く違い
石英のカケラ1つ落ちていない。感じとして、福島県塙町矢塚の緑簾石産地に
似ている。
五代松鉱山の産地
私は、粘土質の土の黒褐色の脈をツルハシで掘るが、石英のカケラも出てこない。
Aさんは、ズリを深く掘り込む。しばらくして、ここをやって見たらというAさんの
言葉に甘えて、掘り込んだところを広げて見ると、粘土の塊に水晶の頭が見える
ものや単晶を何本か採る。粘土の塊を洗ってみてビックリ、両翼2cmの蝶型
日本式双晶だ!!
良く見ると、軍配型や双晶の片割れと思しき平板水晶がいくつか付いている。
いつの間にか雨も止み、カッパを脱ぐ。
こうなると余裕。T君に教えてもらった場所で、この鉱山の採掘対象だった塊状の
磁鉄鉱はじめスカルン鉱物を採集する。
後ろ髪を引かれる想いもあるが、今回は多くの産地を見て回るのが目的なので
次の三尾鉱山へ向かう。
【後日談】
この塊には、蝶型8枚、軍配型1枚、平板2枚が付いており、この採集旅行最大の
収穫でした。
日本式双晶
(3)三尾鉱山
来た道を戻り東へ、桜で有名な吉野村を目指し、1時間余りで左手川向こうに
高さ、幅とも50mはあろうかと思われる三尾鉱山の広大なズリが眼に飛び込んで
くる。
三尾鉱山ズリ
水量の多い川の浅瀬を選んでズリの末端に取り付き、自然銅を求めて、ひたすら
ズリ石を叩き割るが、出ない。それでも、重晶石と斑銅鉱の良品をゲット。
自然銅(?)と思われるものがついた母岩を持ち帰ることにして、最後の産地針道へ
向う。
(4)針道の黄鉄鉱
針道の手前で、桜井市の談山神社に紅葉狩りに行くと思われる観光バスや乗用車で
時ならぬ大渋滞。ようやく針道の集落を抜け、林道の急坂を登る。4WDなら産地
横付けだが、手前の駐車スペースに停め、急坂を喘ぎながら300mも登ると
林道は行き止まりになり、その先の沢の絹雲母質粘土の中に黄鉄鉱があるとの事。
針道の黄鉄鉱産地
ここも現地での採集・選別は難しいので、シャベルで粘土を掬ってビニール袋に入れ
持ち帰ることにした。
【後日談】
この粘土を水洗いして、最後にパンニングしたら最大1cm、各種の結晶形態をした
黄鉄鉱が無数(1mm以下を含めて)にあった。この分類も楽しみです。

こうして、楽しかった奈良県での採集を終え、名阪天理ICまでAさんに送って頂き
お別れした。
針ICを出たところに、道の駅・都祁(つげ)「針T・R・S」があり、入浴、食事が
でき、ドロドロの汚れを落とし、日本式双晶を肴に乾杯。

4.【岐阜鉱物採集】

帰りに、かねて行って見たいと思っていた瑞浪鉱石展示館を見て、蛭川村
木積沢、関戸川で採集した後、中津川鉱物博物館で「田上地方の鉱物展」を見る
計画であった。
(1)瑞浪鉱石展示館
ここを訪れるのは約10年ぶりで、展示方法もリニューアルされ見やすくなり
入館料も無料になっているのが有難い。
外国産の標本も多いが、国産の標本の一級品もあり、鉱物愛好家にとって一見の価値が
あります。
私が感動したのは、@群馬県西ノ牧鉱山の「若林鉱」A洞戸鉱山杢助の透輝石巨晶
です。

      若林鉱        透輝石巨晶【6cm】
ここには、愛媛県槙ノ川のピンクダトー石や魚眼石の美晶が展示してあり、未だ見ぬ
四国の鉱物産地を夢見ています。
槙ノ川のピンクダトー石
(2)蛭川採石場
今は稼動していない古い採石場跡で、蛍石のついた晶洞を採集。早々に切り上げ。
(3)木積沢
トパーズを求めて、フルイ掛けするが、全然だめ。ここも、早々に引き上げる。
(4)関戸川
この夏、採集会を開催した場所へ行く。採集会の後、兵庫のNさん家族や奈良のAさん
などがリピータで訪れ良品を採集しているとの情報があり、4ケ月ぶりに訪れた。
産地は荒れておらず、川擦れながら10cmの水晶や頭付きトパーズなどを採集。
(5)中津川鉱物博物館「田上地方の鉱物展」
中澤さんが田上山で発見した、所謂「中澤晶洞」からでた美麗なトパーズをはじめ
各種のペグマタイト、希元素鉱物を展示していた。
田上地方の鉱物展示
この日が最終日にもかかわらず、見学者は私達夫婦だけで、ここも貸切状態でした。
展示目録、絵葉書などを購入。
ここには、「日本鉱物誌」などの鉱物関係の古書や「地学研究」のバクナンバーなどを
常備しており、希望する部分のコピー・サービスもしてくれるとの事。
活用しなくちゃ。
最終日の閉館間際だったので、厚かましくも「田上地方の鉱物展」のポスターを
頂いてきました。

5.おわりに

(1)奈良県での鉱物採集は初めてでしたが、AさんとT君の案内で、五代松の
日本式双晶などが代表的な標本を採集でき、予想以上の成果に大満足です。
案内していただいたAさんとT君に改めて感謝申し上げます。
T君は、この夏の採集会で田口鉱山のパイロクス・マンガンの美晶を発見するなど
目聡いとは思っていましたが、この夏岩手県玉山金山で採集した日本式双晶に脱帽。
(2)今回は、ダイジェスト版を作成しましたが、それぞれの産地の詳報を
逐次掲載する予定です。
(3)道路網が整備され、遠いと思っていた産地が比較的簡単に行けるようになり
有難いことだと思っています。
公共事業のあり方が議論されていますが、このような社会インフラは、どしどし
整備して欲しいと願っています。
(ドイツを旅してみると、半世紀以上前に着工された、速度制限なしでしかも無料の
アウト・バーンが如何に日常生活や余暇時間を便利で快適なものにしているか実感
できます。)

6.参考文献

1)京都地学会編:京都の地学図鑑,京都新聞社,1993年
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