山梨県京の沢のデュモルチ石

山梨県京の沢のデュモルチ石

1.初めに

京の沢の産地までたどり着けず、心残りに思っていた矢先、石友のYさんから
私のHP「鶏冠山林道のデュモルチ石」を見て「京の沢のポイントを教えて欲しい。」
との電話をいただいた。
ポイントといっても、場所がうろ覚えなくらいだったので、変なことを教えても
失礼と思い、直接案内することにした。
産地直前の林道が10年前と変わっており、試行錯誤の末、見覚えのある京の沢の
産地にたどり着きズリと露頭でデュモルチ石はじめ京の沢の代表的な標本を採集できた。
(2002年6月採集)

2.産地

京の沢に到るルートは次のどちらかです。【下図参照】
(1)西沢渓谷を遡り、京の沢を目指す。
(2)林道「川上牧丘線」の途中から、鶏冠山林道西線に入り、京の沢へ下る。
(2)のコースは、鶏冠山林道のゲートが閉まっていることが多い。
仮に、開いていても、工事関係者に断って入る必要があります。
京の沢
川上牧丘線で乙女鉱山の入口を左に見て、約700m走ると右手に鶏冠山林道の
ゲートがある。林道を約2km行くと、2又があり、左に進む。
剣が峰の西を巻くように進み、奥千丈岳の南になり、左に朽ちかけた東屋がある。
更に進むと右側は断崖、左は絶壁のような場所が続き、「きょうのさわいちごうはし」
を渡る。ここが、京の沢の源流に近いところです。
約1km進むと右に下りる林道があり、ここを下って行く。ここまで、ゲートから
約11kmですので、歩いていくには根性がいります。
約2.3km行った林道の路面に、デュモルチ石を含む母岩が落ちています。
デュモルチ石を採集できる林道
更に700mほど進むと、工事中のアザミ沢があります。ここで橋を渡り、
さらに約1.5km下って行くと2又があり、右側を行くのですが、この先で、路肩が
崩れかかっていたり、路面に大きな転石があり、車はここまで。
ここから先、約1km歩いていくと京の沢を渡る大きく左にカーブしている場所が
産地の入口です。
沢を上流に約200m遡上すると、2段になった砂防ダムがあり、この周辺が産地です。
京の沢砂防ダムとズリ

3.産状と採集方法

デュモルチ石は、変質した安山岩質の母岩や黒雲母花崗岩に鉱染状に入っています。
京の沢の左岸、川床から約30m高いところに林業用の軌道(レール)を敷設するため
邪魔な岩を砕いた時にデュモルチ石が出てきたと推定しています。
その証拠に、ズリでは、削岩機で穿孔した穴を持つズリ石が見られます。
京の沢のズリ石
したがって、露頭とズリの両方から、デュモルチ石は採集できます。

左:ズリで採集するYさん   右:露頭【折れ曲がったレールが見える】

4.産出鉱物

(1)デュモルチ石【Dumortierite:Al7(BO3)(SiO4)3O3】
デュモルチ石は、アルミと硼素を含む鉱物で、紫色から青色までの微細な繊維状結晶です。
安山岩質母岩のものは紫色、花崗岩質母岩のものは青色がかっています。花崗岩質母岩の
ものには黄鉄鉱と共生するものがあります。
安山岩質母岩のものには大きなデュモルチ石があり、Yさんと半分にしても、こどもの
頭くらいありました。

左:花崗岩質母岩【黄鉄鉱と共生】 右:安山岩質母岩
(2)苦土電気石【Dravite:NaMg3Al6(BO3)Si6O18(OH)4】
花崗岩〜珪質岩を脈状で真っ黒く染め、晶洞部分に菊の花状の柱(針〜毛)状結晶が
見られます。一本の結晶の中でも透明〜真っ黒まで色が変わっているものもあります。
大きさは、辛うじて肉眼で結晶が見える程度です。
京の沢の苦土電気石

5.おわりに

(1)京の沢では、デュモルチ石や苦土電気石のほかに、葉蝋石、明礬石、
さらにトパーズやズニ石を見つけたとの記述もありますが、肉眼で確認できたのは
デュモルチ石と苦土電気石だけでした。
(2)産地手前の林道は車や人の通行がないとみえ、京の沢の川岸で木の葉を食む
カモシカの姿を見ることができた。
京の沢のカモシカ
(3)前の日の大雨が嘘のように、快晴に恵まれ、鶏冠山林道からは、残雪を頂く
富士山や南アルプスが新緑の間からクッキリとみえました。
Yさんと、この景色を見ただけでも、鉱物採集にきた甲斐があったと日ごろの行いの
良さ(?)を喜び合いました。
鶏冠山林道からの富士山

6.参考文献

1)田中収編:山梨県地学のガイド,コロナ社,1988 inserted by FC2 system