群馬県桐生市黒川鉱山の緑マンガン鉱

      群馬県桐生市黒川鉱山の緑マンガン鉱

1. 初めに

   松原先生の「日本の鉱物」の巻末に、北海道から九州まで、日本各地の鉱物産地が
  地図入りで詳しく紹介されている。この情報を元にして、それまで知らなかった岐阜県
  中川辺のセラドン石を採集するなど、この本の恩恵に浴している。
   関東の骨董市をのぞいたついでに、どこか産地がないかパラパラとページをめくっていると
  「群馬県桐生市黒川鉱山跡」が目に入った。本文を読んでみると「緑マンガン鉱」の立派な
  写真が掲載されており、早速訪れた。
   本の産地案内地図が私には分かり難く、途中で場所を聞いて、何とか訪れることが
  できた。鉱山は昭和40年まで稼行していたとあるだけに、ズリ石は豊富で、叩く石には
  事欠かなかった。しかし、塊状のマンガン鉱がほとんどで、”結晶派”の私には今ひとつ
  であったが、緑マンガン鉱の立派な標本を採集することができた。
   ズリ石が豊富にあり、マンガン鉱山の入門コースとして最適の産地だと思います。
   (2005年10月採集)

2 .産地

   桐生市から足利市に向かう県道を走ると「菱町2丁目」の信号があります。松原先生の
  本では、ここを左折するようにありますが、約10mほど先にある「←泉龍寺」の標識で
  左折し北に向かいます。1kmも行くと黒川を渡る橋の先が2叉になり、そこを右に折れ
  坂道を登っていくと、右側に「黒川ダム」があります。
   さらに舗装された道を進むと左側に「山神宮」があります。山神神社は鉱山に祀られる
  ことが多いのですが、鉱山が閉山して40年以上経った今でも綺麗に清掃されている事から
  ここは、鉱山には直接関係なのかも知れません。

    山神宮

   さらに1km弱進むと、舗装道路は終わりになり、ここに駐車する。実はこの約500m
  手前に進入禁止”(−)”の標識があるのだが、何故あるの理解できず舗装の終点まで
  乗り入れた。ここから、道は2叉になっている。右側の林道を沢を右に見ながら約200mも
  登って行くと、右側から枯沢が合流しており、その周辺に真っ黒いマンガン鉱物のスリ石が
  散乱している。
   沢を渡り、この枯沢を約100mも行くと、滝がありその右下に坑道が開いており、今も
  坑口からは水がコンコンと流れ出している。
   この坑口から沢の合流点までが産地です。

       
     ズリ【林道から見る】             坑口    
                  黒川鉱山

3. 産状と採集方法

   吉村先生の「日本のマンガン鉱床補遺・後編」によれば、桐生市周辺には数多くの
  マンガン鉱山があり、一口に黒川鉱山と言っても、「大合付坑」「穴城坑」そして「大滝坑」
  などがあり、今回訪れたのは、地図上の位置的な関係や坑口の脇に大きな滝があること
  などから「大滝坑」と思われる。
   「鈴木石」で有名な「茂倉沢鉱山南入坑」とは、山を隔てた反対側にあたる。

    桐生市北方のマンガン鉱山

   昭和29年(1954年)に編まれた「日本鉱産誌」には、黒川鉱山の記載がなく、それ以降に
  開発された鉱山だと思われるが、この一帯のマンガン鉱山と同じように、古生層中のチャート
  ・粘板岩を母岩とする鉱床で、縞状チョコレート鉱、テフロ石、バラ輝石よりなる鉱石を産した。
   坑内には、流紋岩が認められ、その附近のマンガン鉱石に黄鉄鉱の鉱染が認められる
  のは、そのせいとされる。
   坑口から沢の合流点附近一帯に、真っ黒い二酸化マンガンに覆われたズリ石が多量にある
  ので、それらを叩き割って、新鮮な面を出し採集する。マンガン鉱石は堅くて割りにくく、硬い
  叩き台石の上に置いて、大き目(2kg以上)のハンマーで叩くのが良いのだが、破片が飛び
  それらが身体に突き刺さると思わぬ怪我をする。
   必ず、めがね(ゴーグル)、手袋、長袖着用を守ること。特に、大勢で採集する場合、思わぬ
  方向から(に)破片が飛ぶので、注意が必要である。30分もハンマーを振るっていると全身汗
  まみれになる。そんな訳で、ここは初冬や春先に訪れるのが良いだろう。
   表面は真っ黒なのだが、二酸化マンガンで汚れた粘板岩やチャートもあるので、見た目や
  持った感じ(重さ)で、マンガン鉱石を見分ける眼力も養える。

4. 産出鉱物

   ここでは、俗にチョコレート鉱と呼ばれるハウスマン鉱、バラ輝石、菱マンガン鉱、テフロ石は
  多量に産する。目玉の緑マンガン鉱は、1時間余りの採集で2個体採集したにとどまった。

 (1)緑マンガン鉱【manganosite:MnO】
    茶色いハウスマン鉱の中に皮膜状、鮮緑色で産出する。割った瞬間は、鮮やかな緑色を
   しているが、空気中で酸化して、短時間で色があせてしまう。
    緑色を長持ちさせるには、透明ラッカーを塗れば良いといわれ、100円ショップで買った
   透明マニキュアを塗ってみた。遅かれ早かれ黒変は免れないだろう。
    写真で記録するのがベストだと思います。

    緑マンガン鉱(採集翌日マニキュアを塗って撮影)

 (2)ハウスマン鉱【Hausmannite:Mn''Mn'''2O4】
    俗にチョコレート鉱と呼ばれるマンガンの高品位鉱で、黒〜褐色の緻密な塊状で産出する。
   この標本では、黒い幾筋かの磁性を有するヤコブス鉱【Jacobsite:Mn''Fe'''2O4】と接して
   産出した。
    真っ白い部分は、長石と思われる。

    ハウスマン鉱

 (3)菱マンガン鉱【Rhodechrosite:MnCO3】
    明瞭な結晶形を示さず、バラ輝石の間に半透明〜灰白色の層状で産する。表面がガラス光沢
   を示し、ナイフなどの先で突くと簡単に砕け、破片は劈開を示す菱面体である。

    菱マンガン鉱【白色部分】

 (4)テフロ石(マンガンかんらん石)【Tephroite:Mn''SiO4】
    灰色〜帯青灰色の塊状で産する。化学式のMnは、連続的にFe(鉄),Mg(マグネシウム)に
   よって、部分的にCa(カルシウム)やZn(亜鉛)によって置き換えられる。
    最近は、マンガンかんらん石と呼ぶのが一般的のようです。

    マンガンかんらん石

 (5)バラ輝石【Rhodonite:(Mn'',Ca)Mn''4Si5O15】
    ピンク色の緻密な塊状で産出する。茂倉沢鉱山や田口鉱山産のような粗粒のものは
   見られず、変成度が低かったことを物語っており、パイロックスマンガン石や満バン柘榴石
   など”結晶系”の鉱物は期待できない。

5. おわりに

 (1)「日本の鉱物」に記載された産地を訪ね、この本に掲載された目玉の「緑マンガン鉱」
    はじめ、各種のマンガン鉱物を採集することができた。

 (2)ここは、ズリ石が豊富にあり、マンガン鉱物採集の入門コースとして最適の産地だと思う。
    「日本の鉱物」に記載された理由が納得できます。
    ここで、眼を養い、腕を磨いてから「茂倉沢鉱山の鈴木石」に挑戦すると良いでしょう。

 (3)ここでは、黄鉄鉱に代表される硫化鉱物も結晶は微細だが多量に産出する。東京の
   石友・Tさんがここで「針ニッケル鉱」【Millerite:NiS】を採集していますので、油断で
   きません。
    針状の金属鉱物があったら、ルーペでのぞく注意深さも必要です。

6. 参考文献

 1)松原 聰:日本の鉱物,学習研究社,2003年
 2)吉村 豊文:日本のマンガン鉱床補遺 後編,吉村豊文教授記念事業会,昭和44年
 3)日本鉱産誌編纂委員会編:日本鉱産誌 BT−C 鉄、鉄合金および軽金属
                    東京地学協会,昭和29年
 4)加藤 昭:マンガン鉱物読本,関東鉱物同好会,1998年
 5)松原 聰:日本産鉱物種,鉱物情報,1992年
inserted by FC2 system