福島県石川町黒江鉱山の希元素鉱物

         福島県石川町黒江鉱山の希元素鉱物

1. 初めに

  長島 乙吉、弘三親子が著わした 「日本希元素鉱物」によれば、『 福島県石川町
 野木沢にかつて黒江鉱山があり、水田の下に斜坑を掘り、珪長石を採掘し、ポンプで
 坑内水を汲み上げていた 』
  ここでは、閃ウラン鉱、変種ジルコン、モナズ石などの放射能鉱物の立派なものが
 産出し、櫻井 欽一博士や加藤 昭氏が熱心に研究されたそうです。
  2001年に訪れた時は、特徴のある結晶形を示す鉄礬柘榴石と緑柱石だけを狙い、”フルイ掛け”
 で採集したので、希元素鉱物は全く採集できなかった。
  2005年10月、隣の玉川村川辺鉱山でのパンニングによるモナズ石をはじめとする
 希元素鉱物の採集成果に気を良くして、黒江鉱山でもパンニングによる採集を試みた。
  その結果、「モナズ石」「鉄コルンブ石」などの希元素鉱物が採集でき「日本希元素鉱物」
 の記述を裏付けた。
  2001年11月の採集結果をHPに 『放射能鉱物は見つかりませんでした。(見逃している?)』
 と書いたとおり、”フルイ掛け”では、採集できなかったのです。
  (2001年11月採集)(2005年10月再訪)

2. 産地

   「日本希元素鉱物」の記述によれば、『大橋川に沿って右手に塩沢大石の堀場が
  あり、さらに数百メートル細い道を行くと左手に黒江鉱山がある。』
   ここは、採掘権者の名前からか粕屋鉱山とも呼ばれ、本格的に採掘されたのは戦後で
  石川としては新しい産地だったようです。

3. 産状と採集方法

   「日本希元素鉱物」によれば、ここは、ペグマタイト脈で幅が広いところでは6m位あり
  延長50mのレンズ状で鉱体の真ん中から放射能鉱物の良品が産出したらしい。
   『日本では一番大きく叉形の良いモナズ石を産出する(した)』 とあり、本邦初産の
  燐ウラン石も産出した、とある。
   今回は、希元素鉱物をメインに採集したので、ズリの土砂を土嚢袋に入れて運び
  川の中でパンニングして、各種の鉱物を採集した。
   比重の大きい希元素鉱物や鉄礬柘榴石は、パンニング皿の底に最後まで残るが
  多量の柘榴石や鉄電気石のカケラも混じっているため、そのまま自宅に持ち帰り
  乾燥させた後、選別した。

4. 産出鉱物

 (1)モナズ石【Monazite-(Ce):(Ce,La,Nd)PO4】
    モナズ石は、セリウムを主成分とする燐酸塩鉱物で、核燃料となるトリウムを含むため、
   放射能を持っています。
    川辺鉱山に比べると産出量は1/10以下と少なく、1時間ほどのパンニングで得られた
   標本は、カケラを含め20ケ程度であった。
    黄褐色〜黒褐色、ギラギラと脂ぎったガラス光沢を一部に残し、薄板、厚板あるいは
   細長い柱状で産出するが、完全な単結晶は1ケのみであった。それは、『日本では
   一番大きく叉形の良いモナズ石を産出する』 という「日本希元素鉱物」の記述を裏書き
   するような厚板状で錐面がシッカリついた存在感のある標本であった。

    モナズ石単結晶

 (2)鉄コルンブ石【Ferrocolumbite:(Fe,Mn)(Nb,Ta)2O6】
     黒色〜鋼黒色の亜金属光沢を示し、小さな板状結晶が集合(平行連晶)した形で産出する。
    今回採集できたものは、劈開片であったが、鉄コルンブ石の形態を良く示している。

    鉄コルンブ石

 (3)このほか、緑柱石、チタン鉄鉱、鉄礬柘榴石、鉄電気石、白雲母なども採集できる。
    特に、鉄礬ザクロ石は、扁平な独特の形状で、大きさも2cmを超え、表面の光沢が強い
   ものや一部透明感のあるものなどが採集できることがあり、訪れる度に楽しみです。

    鉄礬ザクロ石【24mm】

5. おわりに

 (1)ここは、4年前に訪れた時とズリの様子が全く変わっておらず、忘れられた産地のようです。
   希元素鉱物のほかに、他の産地では例を見ない扁平な特徴ある形態をした鉄礬柘榴石の
   良品も期待できます。

 (2)今回、影も形もみることができなかった「閃ウラン鉱」、「変種ジルコン」そして「燐ウラン石」を
   次の機会には採集したいと考えています。

 (3)ここは、人家が近く、採集していると大概地元の人に声を掛けられるくらい人通りもあり
   くれぐれもトラブルを起こさない注意が必要です。
    私が川の中でパンニングしていると、この日も高齢の女性が通りかかり、「お嫁に来た当時
   このあたりに坑口があったが、埋め戻してしまった」など、あれこれと話してくれた。
    別れ際には『良い石を採って行がんしょ(行きなさい)』と声を掛けてくれ、鉱物採集には
   好意的であった。

6. 参考文献

 1)長島 乙吉、弘三:日本希元素鉱物,日本鉱物趣味の会 長島乙吉先生祝賀記念事業会
               昭和35年
 2)松原 聰:日本の鉱物,滑w習研究社,2003年
 3)益富地学会館:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
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