山梨県甲府市黒平の希元素鉱物 その3

      山梨県甲府市黒平の希元素鉱物 その3

1. 初めに

   「松茸水晶シリーズ」の第2弾で訪れたのは、山梨県甲府盆地北方に広がるペグマタイト
  産地の1つ、「黒平(くろべら)」であった。
   埼玉県の石友・ASさんと、2年前に開拓(?)した産地の1つ、○○○で松茸水晶が多産し
  たことを思い出したからであった。

   この時期に訪れると、厳しい冬の間に風化した花崗岩が崩落し、真砂(まさ)の上に、
  ”チョコン”と水晶や長石が落ちていて、晶洞(ガマ)の道しるべとなってくれる。

   今回もASさんと訪れ、目的の松茸水晶をガレの表面や晶洞を開けて、水晶、長石など
  のペグマタイト鉱物と共に採集できた。

   私にとって最大の収穫は、「苗木石(変種ジルコン)」 などの希元素鉱物や「板チタン石」
  「鋭錐石」などを晶洞から母岩付きで採集できたことである。

   今回、女性や子供でもアプローチできるルートと楽しめる産地をキープしてきたので、ここ
  も次回のミネラルウオッチングの候補地の1つである。

   同行いただいたASさんに、厚く御礼を申し上げる。
  ( 2007年5月採集 )

2. 産地

   私のHPを含め、黒平の産地案内は多数あるので、詳細は割愛する。

3. 産状と採集方法

   黒平は、「晶洞型のペグマタイト鉱物産地」で、水晶はじめペグマタイト鉱物は晶洞の中
  に産する。
   したがってここでの採集は、真砂(まさ)の上に落ちている水晶、長石の破片や微晶を手
  がかりにその周辺や上に登り、崖の表面を良く観察したり、積もっている真砂を取り除き
  晶洞を探す。
   厳しい冬の寒さで、晶洞が崩落して、水晶などのペグマタイト鉱物が真砂の上や沢筋に
  落ちていることもあり、運が良ければ、表面採集でも美晶を採集できることもある。
   今回訪れた地域の花崗岩は真砂化して崩れやすく、ドラーバー程度のもので簡単に掘り
  出すことができ、非力な人向きの産地でもある。

       
         ガレ場              表面採集               晶洞(がま)
                          産地と産状

4. 産出鉱物

 (1) 松茸水晶/石英【scepter quartz/QUARTZ:SiO2
      元の水晶と後からできた水晶の結晶軸が完全に一致して傘をかぶった典型的な
     松茸水晶と後からできた水晶の結晶軸がズレているせいか、両錐の水晶を頭に戴
     せたタイプの2通りが確認できた。
      ここでは煙水晶がほとんど見あたらず、採集できたのは透明タイプのものだけだ
     った。

        
          典型             両錐成長
             松茸水晶のパターン
 (2) 変種ジルコン/ジルコン【Altered Zircon/ZIRCON :(Zr,Hf,Y,etc)(Si,Nb,Ta)O4
      緑褐色ガラス光沢をしめす、頭の尖った細柱状のものと六角厚板状の2種が母岩
     付で晶洞の中に確認できた。
      前者は、「苗木石」と呼ばれているもので、後者は”ボタン状”と形容される典型的な
     変種ジルコンの産状を示している。

   
 産 状   採集標本   備考
 全 体 拡 大
苗木石
【Naegite】
 放射能の影響か
下の水晶が煙水晶に
なっている
ボタン状
【Button Type】
   六角板状

 (3) 正常ジルコン【ZIRCON :ZrSiO4
      緑褐色ガラス光沢をしめす正方錐(サイコロの両端がピラミッド状に尖っている)結
     晶が松茸水晶の根元に成長した標本を得た。

   
 産 状   採集標本   備考
 全 体 拡 大
(正常)
ジルコン
【ZIRCON】
    

 (4) 鋭錐石【ANATASE :TiO2
 (5) 板チタン石【BROOKITE :TiO2
      共にチタン鉱物で組成は全く同じだが、鋭錐石は正方、板チタン石は斜方と結晶系
     が違う、いわゆる”同質異像”関係にあるのは承知の通りである。

      鋭錐石は、黒鋼色、金属光沢で、鋭く尖った両錐形の結晶で、いくつも結晶が連なっ
     て成長(反復双晶)し、ところどころにくびれがある。また、長軸方向と直角方向に条線
     が観察できる。

      板チタン石は、無色〜黄褐色透明のものから真っ黒不透明のものが観察できた。
     八角薄板状で、表面に一方向に条線が見られる。
      真っ黒いものは、針鉄鉱(褐鉄鉱)で覆われているだけで、蓚酸などでクリーニング
     すれば本来の輝きと透明性を回復できるはずである。

      これらのチタン鉱物は、水晶の表面や内包物(インクルージョン)として観察できる。
     中には、鋭錐石と板チタン石が仲良く並んでいる標本も得られたが、チタン鉱物御三家
     の残り1つ、「ルチル【RUTILE:TiO2】」は発見できなかった。

   
 産 状   採集標本   備考
 全 体 拡 大
鋭錐石
【ANATASE】
    
板チタン石
【BROOKITE】
   八角板状

 (6) 褐鉄鉱/針鉄鉱【limonite/GOETHITE:FeOOH】
      茶褐色の”芋状”をした団塊で晶洞の中に産する。割れた内部には、腎臓状の集合
     が見られ、鉄分を含んだ水から生成したことがわかる。薄い膜が幾重にも重なって
     いるため、虹色の”干渉色”を示す部分もある。
      2007年GWのミネラルウオッチングで大阪のOさんが同様なものを採集し、某所で
     『レインボー褐鉄鉱』と鑑定された、とメールをいただいた。

    レインボー褐鉄鉱

 (7) 磁硫鉄鉱【PYRRHOTITE:Fe1-xS】
      六角板状結晶が積み重なった形で産するが、この鉱物は錆びやすいため、針鉄鉱
     に変化してしまっている。

    磁硫鉄鉱【針鉄鉱化】

5. おわりに

 (1) 黒平では、各種の希元素砿物が産出していると考えられる。ただ、その大きさが極め
    て小さいため見落とされたり、今回母岩付で紹介したが母岩の水晶や長石の見栄えが
    良くないため産地に捨てられてものも多いと思われる。

 (2) 今回、各種の希元素鉱物を母岩付で採集でき、岐阜県苗木地方の苗木石とは違った
    良さを再認識した。
     愛知県の石友・KNさんや埼玉県の石友・ASさんが”がま(晶洞)出し”にこだわる理由
    も理解できた。

 (3) 今回、女性や子供でも比較的簡単にアプローチできるルートを確定し、楽しめる産地を
    キープしてきたので、ここも次回のミネラルウオッチングの候補地の1つである。

6. 参考文献

 1)長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
 2)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
 3)松原 聰:日本産鉱物種,鉱物情報,2002年
 4)松原 聰:日本の鉱物,学習研究社,2003年
 5)松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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