山梨県甲府市黒平の希元素鉱物

山梨県甲府市黒平の希元素鉱物

1. 初めに

 長島 乙吉・弘三氏が著わした「日本希元素鉱物」の「黒平」のページを読むと
次のような記述がある。
 『上黒平より金峰山道を4粁(km)左手のガレの上にある水晶採掘跡から
  緑柱石・ガドリン石・トパズを産出するが極めてまれである。
  トパズは時にモナズ石を包有していることもある。この他毛状の電気石・
  チンワルド雲母を産する。』
 昨年暮れからこの春にかけて、何回か黒平を訪れ、希元素鉱物を採集したので
まとめてみた。
 いずれの標本も極めて小さく、見落とされてズリに捨てられているものも
多いと思われる。
(2003年4月採集)

2. 産地

 黒平に行くには、次の3つのルートがあります。
@甲府・韮崎方面から昇仙峡の奥を黒平の集落に向かう。
A焼山峠からクリスタルラインで黒平の集落に向かう。
B増富鉱山方面からクリスタルラインで木賊峠を越える。
名古屋方面の人には@B、東京方面の人にはAが便利が良いでしょう。
ただ、A、Bは、冬の間(〜4/25)クリスタルラインが通行止めですので使えません。
 @のコースの場合、荒川ダムの脇を通る道路は、土砂崩れが起こりやすく
通行止めになっている事が多く、「燕岩岩脈」を通ったほうが無難です。
(今回も通行止めだったが、2002年夏、長野県のSさんが、黒平に行ったときは
逆だったそうなので、道路脇の「通行止」の表示を良く見ないと、とんだロスを
しかねません。)
 産地は、「御岳五郎沢」「大株沢」を初めとする、花崗岩が真砂化して崩落
して草木が生えていない個所(ガレ場)が中心ですが、花崗岩露頭の晶洞からも
採集できることがあります。

3. 産状と採集方法

 希元素鉱物は水晶や長石などに伴ってペグマタイトの晶洞(Pocket)部分にあります。
真砂の上に落ちている水晶や長石の破片や微晶を手がかりに上に登り、崖の表面を良く
観察したり、積もっている真砂を取り除き、ペグマタイト部分を探します。
晶洞が崩落して、水晶などのペグマタイト鉱物が真砂の上や沢筋に落ちている
こともあり、運が良ければ、表面採集でも美晶を採集できることもあります。

       ガマ(晶洞)     採集するK氏とT氏
          黒平採集風景【2003年4月】

4. 産出希元素鉱物

  ここで採集した希元素鉱物を紹介します。
 残念ながら、「日本希元素砿物」に記述のある、緑柱石・ガドリン石・トパズは採集
できていませんが、逆に記述のない、ジルコンや鉄コルンブ石が採集できています。

(1)変種ジルコン・苗木石【Naegite:(Zr,Hf,Yetc)(Si,Nb,Ta)O4】
   ジルコン【Zircon:ZrsiO4】に他の成分を含む変種を”変種ジルコン”と呼ぶ。
   ペグマタイトに産するジルコンは、純粋なものは少なく、多少の差こそあれ
   何らかの他成分を含んでいる。また放射能があるので、”変種ジルコン”を
   ”放射性ジルコン”と呼ぶこともある。

   変種ジルコンに与えられた変種名はたくさんあるが、「日本希元素鉱物」に引用
   された木村・弘中氏の分類によれば、次の通りである。
   @水をたくさん含むものをマラコン【Malacon】
   Aベリリウム(Be)をたくさん含むものをアルブ石【Alvite】
   B希土類元素をたくさん含むものをシルト石【Cyrtorite】
   C希土類元素および土酸元素(ニオブ(Nb)、タンタル(Ta))をたくさん含むものを
    苗木石【Naegite】
   D希土類元素およびリン(P)をたくさん含むものを山口石【Yamaguchilite】

   黒平の苗木石は、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)を含むコルンブ石と同じ場所で
   採集したもので、暗緑色の柱状で先端が錐面になり、水晶の中に埋没して産し
   周囲の水晶にハロ(Halo:放射性色暈と呼ぶ希元素鉱物の周囲の石英や長石の
   結晶格子が破壊されて薄く着色する現象)を与えている。

        苗木石        苗木石周囲の”ハロ”

(2)ジルコン【Zircon:ZrSiO4】
   正方柱状と錐面よりなり、色は無色〜薄黄〜薄緑〜ピンク〜赤〜褐色と種々。
   ”変種ジルコン”に対して”正常ジルコン”とも呼ばれる。
   正常ジルコンでも、多くは微量の放射性物質を含み、ごく弱い放射能を示す。
   下の写真は、石友のMさんが黒平で採集し、不明鉱物として鑑定を依頼されたもので
   ”絵に描いたようなジルコン”と判定したものです。
   放射能が弱いせいか、ハロは見られなかったとのこと。
正常ジルコン【採集・撮影Mさん】
(3)コルンブ石【Colunmbite:(Fe,Mn)(Nb,Ta)2O6】
   真っ黒でガラス光沢のある、先端が尖った板状結晶が多数平行連晶をなして
   産する。Fe,Mn,Nd,Taの量は自由に変化しうる。
   Nb>Taをコルンブ石、Ta>Nbをタンタル石と言い、Feの多いものを鉄コルンブ石
   Mnの多いものをマンガンコルンブ石と呼ぶ。
    黒平のものは”鉄コルンブ石”である。
鉄コルンブ石
     (4)モナズ石【Monazite:(Ce,La,T,Th)PO4】
   黒平のモナズ石は、黄褐色〜褐色で樹脂光沢のある柱状結晶で産する。
   下の写真のものも、石友のMさんが黒平で採集し、不明鉱物として鑑定を依頼された
   ものである。
    私は、福島県川辺産の1cmを越える黄褐色・半透明薄板状結晶と京都府大路産の
   10cmの巨晶しかモナズ石は採集したことがなく、「日本希元素鉱物」や「図鑑」と
   首っ引きで、消去法でモナズ石と判定しました。
   黒平のモナズ石は、「朝鮮成歓砂金地」産のものと似た結晶と思われます。

 黒平【採集・撮影Mさん】           川辺          大路
                   日本各地のモナズ石
(5)チンワルド雲母【KLiFeAl(Si3Al)O10(OH)2】
   鱗雲母と鉄リチア雲母の中間種で、淡褐色の六角板状の集合体で産する。水晶の上に
   結晶したものを採集した。
   希元素鉱物の道案内をしてくれる鉱物である。
チンワルド雲母【水晶の上に結晶】

5.おわりに

(1)黒平では、各種の希元素砿物が産出しています。ただ、その大きさが極めて
   小さいために、見落とされているのが多いと思われます。
   今回入手したジルコンも、もともと同行したASさんが発見したものです。
   入手の経緯は、次の通りです。

   AS『中川さん、この水晶の黒いのは何ですか?』
     パッと見て(今回の目的鉱物は大きいので、ルーペを車に置いてきた)
   中川『電気石のインクルージョンか、ハロがあるので希元素鉱物かな?』
   AS『頭もないし、良かったら中川さんにあげますよ。』

   と言って、頂いたものです。
(2)何となく、黒平で希元素鉱物が産出する場所の産状(雰囲気)がつかめた気が
   しますので、引き続き、アタックしてみたいと思います。

6.参考文献

1)長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
2)柴田秀賢、須藤俊男:原色鉱物岩石検索図鑑,北隆館,昭和48年
3)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
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