それから1年近く私が山梨県を離れ、その間の変化も知りたくて、A・Sさんと山梨県
の水晶産地を回ることした。2日目に訪れたのが黒平の△△△△沢だった。
手分けして晶洞を探し、A・Sさんがその兆候を見つけたが足場が悪すぎた。足場を
こしらえ、掘り進むと大きな晶洞が姿を現した。今回も、2人の名前をとって、”黒平
第2中沢晶洞”と名づけた。
ここが普通の晶洞と違ったのは、長石に接する石英に”ハロ”を示す部分があったこ
とと、石英の空隙を埋める絹雲母(セリサイト)に似た小球状白雲母の中に一見して
『ベリリウム鉱物』と思われる緑色、ガラス光沢の結晶が見られたことだった。
A・Sさんは、水晶以外このような鉱物にはあまり興味がないので、この部分は、私が
より慎重に掘り進み、採集品は全て持ち帰った。
帰宅後、クリーニングして実体顕微鏡で確認すると、次のような各種の「希元素鉱物」
を確認できた。
”ハロ”部分・・・・・・・・・@「変種ジルコン【苗木石】」 A「フェルグソン石」
B不明鉱物(「トルトベイト石」?)
小球状雲母部分・・・・・@「ガドリン石」 A「ジルコン」
不明鉱物は識者の鑑定を受けなければならないが、仮に「トルトベイト石」だと
すると山梨県で初めての発見ではないだろうか。
今回の私の採集品は、見栄えのしない小さなものが主体で、ほとんどの人は現地で
捨ててしまうような代物だった。
この日の採集とその後に訪れた「大株沢」での採集を通して、希元素鉱物の採集方
法がおぼろげながら見えてきた。同行いただいた石友、A・Sさんに厚く御礼を申し上げ
る。
( 2006年6月採集 )
理 由 | 対 応 策 | 備 考 | 訪れる場所がわからない | 地形図を持参 25,000分の1の地形図に 各種情報にある産出ポイントを 事前に書き込んでおく | 最初の頃、私もやっていた 古典的方法 |
航空写真(有料)を持参 晶洞を見つけやすいのが ”ガレ場”なのでそれを 事前にチェックし 探索効率アップ |
静岡の石友・Kさんから 2000年頃に教えてもらった方法 (以下、略称のある石友は 全員私のHPに登場する実在人物)
最近(2007年)では、東京の石友 |
以前、訪れた場所を 思い出せない
そのくらい範囲が広く | GPSを持参 訪れたルートをGPS で記録し 次回、それをトレースする | A・Sさんは十ン万\のGPS 購入 この時も持参
HさんはGPS付き携帯を持参
私もGPSを買ったが使っていない |
どこを探せば(掘れば) 良いかわからない | 理論的 真砂の上の石英片などを 手がかりに、晶洞を追う
直感的 |
一般的な話はできるが これで確実、という方法があれば 私が知りたい。 |
何度も書くが、黒平は、『行っても採れる保証はないが、行かなければ絶対採れない』
くらいの気持ちで訪れれば、 ”幸運の女神が微笑む”こともあるだろう。
こうすれば確実、という採集方法はないが、石友のMさん、A・Sさんなどを見てい
ると、広い範囲をくまなく探索する人が晶洞を開ける確率が高いようなので、私も
見習っている。
(2) フェルグソン石【FERGUSONITE-(Y) :YNbO4】
黄褐色で先端の尖った細柱状結晶として長石の中に産する。写真の標本は鮮緑
色、透明な「ガドリン石」の晶洞の中や、これを貫くように成長して、隣接する石英に
”ハロ”を起こしている。
(3) ガドリン石【GADORINITE-(Y) :Y2FeBe2(SiO4)2O2】
石英の中の空洞に、『アクアマリーン(緑柱石)』を思わせる鮮やかなエメラ
ルド色、ガラス光沢の短柱状結晶で産出する。空洞には小球状白雲母が詰
まっていた。周囲の石英には”ハロ”が観察できる。
写真の標本の柱面に、両錐、短柱状の自形結晶が見られ、「ガドリン石」で
あることがわかる。
また、雲母や石英の表面に茶褐色の針鉄鉱(褐鉄鉱)が見られ、鉄(Fe)を
含んでいることも推測できる。
写真の「ガドリン石」は、山梨県竹日向(たけひなた)や三重県宮妻峡(みや
づまきょう)のものに比べても、色の鮮やかさ、結晶の明瞭さなどから、遜色ない
ものだろう。
(4) ジルコン【ZIRCON :ZrSiO4】
石英の中の空洞に、透明、ガラス光沢、頭の尖った四角短柱状結晶で産す
る。「ガドリン石」を伴い、雲母に覆われていた。周囲の石英には”ハロ”が見
られるが、「ジルコン」そのものの影響なのか、「ガドリン石」あるいはその相乗
効果なのか、区別できていない。
(5) 不明鉱物
石英の中に、透明〜白色、細い針状〜細長い板状結晶が並んで成長して
いる。
このような産状のものとしては、トルトベイト石【THORTVEITITE :(Sc,Y)2Si2O7】
が思い浮かんだのだが・・・・・・・・・・・・・。
『 とらぬ狸の革算用 』・・・・・・・・・蔭の声
改めて長島乙吉・弘三著「日本希元素鉱物」を読み直してみると、『採集のこつ』
という1節があり、希元素鉱物の特徴とその採集方法が書いてある。
特 徴 | 採 集 方 法 | 備 考 | 強弱はあるものの 放射能を含む | 石英には”ハロ” 長石は桃紅か緑色に着色 | 黒雲母* の 周辺に集まる *黒色の雲母の意味 | 黒雲母あるいはその長石に 接する部分をよく見る | 黒平は黒雲母そのものが少なく 必ずしも当てはまらない ○○○や△△△△沢では 白雲母と共生が見られる |
微斜長石より 曹(灰)長石 に来る | 曹(灰)長石に注目 | 曹(灰)長石は、へき開が弱く白い 「大株沢」では微斜長石に「苗木石」 |
比重が大きい 緑柱石は例外 | パンニングが有効 | パンニングは砂鉱など分離結晶 にのみ有効 |
今回、”ハロ”が目印となったのは教科書通りだったが、「大株沢」では「曹長石」で
なく「微斜長石」に来ているなど、産地による違い(特徴)をつかむことが大切のようだ。
(2) 今回鮮やかなエメラルド色した「ガドリン石」があったことから解るように、訪れた
「△△△△沢」では、ベリリウム(Beryl)を含む鉱物が産出する。過去に写真のような
アクアマリーン(緑柱石)がでて、A・Sさんから恵与いただいた。
このように、 『 希元素鉱物は アクアマリンやトパズの道しるべ 』、と考えると
微細なものと馬鹿にできないのだ。
「△△△△沢」も、時々見回らねば、と思っている。
(3) 2007年7月、3連休の最終日、甲武信鉱山を訪れた。われわれ夫婦が下山しようと
する頃、群馬県の石友・Tさんが登ってきた。全く偶然の出会いだった。甲武信鉱山
が初めてというTさんを産地案内しながら下山し、一緒に湯沼鉱泉に戻った。
最近、Tさんは、『小さな結晶でも写真のフレーム一杯に拡大すれば立派な標本』
ということで、デジカメでの接写に凝っている、と綺麗なサンプル画像を見せながら
話してくれた。
湯沼鉱泉に泊まり込んで甲武信鉱山に通ったという宮城県の石友・Hさんは、頭の
ない紫水晶やトパズは、丸玉に研磨加工している、とこれまた携帯の美しい画像を
見せてくれた。
このように、採集した標本を生かして、幅広くしかも奥深くミネラルウオッチングを
楽しみたいものだと感じて、お二人とお別れした。