山梨県甲府市黒平の水晶 巨晶・美晶

      山梨県甲府市黒平の水晶 巨晶・美晶

1. 初めに

   水晶が好きな石友、A・Sさんと黒平・□□沢で”黒平第3中澤晶洞”を開け
  今までで一番大きくて美しい「煙水晶」を採集した。ここの煙水晶にはチタン鉱物の
  「鋭錐石」と「ルチル(金紅石)」が伴っていた。
   A・Sさんが『オレンジ〜赤で結晶面が数面見える』、とメールをくれた鉱物の正体
  は、私の採集品にも同じものがあったことで、「鉄礬石榴石」だと判明した。

   息子が開けたこの晶洞を見たいと言うAさんを案内し、3人でその週末に訪れた。
  前回目星をつけたポイントへ移動するため、先頭を歩いていた私の目に入ったのは
  晶洞壁(ゲス板)にへばり付いた、10cm余りの水晶だった。
   ( 前回と若干違うコースを歩いたのが良かったようだ )

    水晶【この1本から、全てが始まった・・・・】

   この上に、晶洞があるのは間違いない、と読んで急な斜面を登ると、大きな倒木
  の根っこに水晶や長石が引っかかっているではないか。
   その木が立っていた根元附近を掘りはじめると、水晶や長石がポツポツと出始め
  やがて、Aさんが掘り出した水晶は、径12cm、長さ10cm余りの頭付巨晶だった。
   すわ、”第4晶洞”と一同色めき立って、斜面を掘る手にも力がこもった。が、一向
  に晶洞に行き当たる気配がない。この1本が出た後、”パタッ”と出なくなり、前回
  開けた”黒平第3中澤晶洞”へ移動せざるを得なかった。

   最初に採集したポイントは、私が過去に経験したことがない、『不思議な産状』
  だったので、それを推理するため採集品を洗浄・分類してみた。

   @ 長石には「真っ白」と「薄茶色」の2種類がある。
   A 水晶はほとんどが「煙」で、濃淡がある。
   B 巨晶には、キズが見られ、転がってきた可能性が高い。
   C 水晶、長石は、地表に近い赤土層と地下1mほどの2層から出た。

   以上のことから、次のように考えている。
   @ 晶洞が崩落したときに転げ落ちた水晶と長石が溜まった”自然崩落ズリ”
   A 崩落に時間差があり、2つの違った晶洞のものが混じった。
   B 赤土層は約1万年前の火山噴火、地下1mの地層はそれ以前の真砂の崩落
     でできたと思われる。

   過去に、石川・Yさん、東京・Mさんが”拾った”巨晶は、このような産状だったようだ。

   ”ガレ場”は、水晶を発見しやすい故、だれかが先に採集してしまう可能性も大きく
   巨晶・美晶にあたる確率は高くない。
    前回、今回の採集で身につけた知見を今後フィールドで活用してみたいと考えて
   いる。同行いただいた石友・Aさん親子に、厚く御礼を申し上げる。
  ( 2007年10月採集 )

2. 産地

   黒平について、多くの情報があるので、詳細は割愛する。多くの人の採集記事を
  インターネット上で眼にする事も多い。

3. 産状と採集方法

   水晶や長石そして希元素鉱物などのペグマタイト鉱物は、ペグマタイトの晶洞
  (Pocket)とその周辺の石英、長石帯にある。
   ”ガレ場”の真砂の上に落ちている水晶、長石の破片や微晶を手がかりに上に
  登り、崖の表面を良く観察したり、積もっている真砂や表土を取り除き、ペグマタイ
  ト部分を探す。
   晶洞が崩落して、水晶などのペグマタイト鉱物が真砂の上や沢筋に落ちている
  こともあり、運が良ければ、表面採集でも美晶や興味深い標本を採集できること
  もある。

   黒平には多くの人が入っており、”こんな所まで”、と思われる場所も掘られてい
  る。前回、今回とも晶洞が出たのは、”常識的”には、誰も掘らない場所だった。

    『 マジでココ掘るんスカ 』、『 ウソ〜! 』【「広辞苑」待機組】

    掘りはじめ

4. 産出鉱物

   黒平の晶洞は、「水晶」よりも「長石」が多い傾向がある。しかし、このズリでは、
  重さで1:1と、半々だった。
   以下、今回の採集品のごく一部を紹介する。

 (1) 煙水晶(石英)【Smokey QUARTZ(QUARTZ):SiO2
      向こう側が透けて見える、色の薄い上品な煙水晶で、個体によって色に
     濃淡がある。

         
         巨晶【高さ10cm】      単晶群【最大8.5cm】
       【Aさん親子の取り分】     【私の取り分の一部】
                   煙水晶
     

      前回の晶洞と直線距離で約100mしか離れていないのに、ここの水晶には
     「電気石入り」が見られたが、チタン鉱物は観察できなかった。

 (2) 微斜長石【MICROCLINE :KAlSi3O8
      白色、ガラス光沢の短柱〜長柱状結晶で、晶洞の内壁を埋めるように産出
     する。この地域では、長柱状のものは極めて希で、短柱状〜平板状にみえる
     ものがほとんどを占めている。
      また、微斜長石の結晶面には、曹長石【ALBITE:NaAlSi3O8】の”アルバイト式
     集片連晶”
が見られるものもあり、第3晶洞との共通点を示している。

         
            色白美人             小麦肌健康美人
    【曹長石アルバイト式連晶を伴う】 
                        長石

 (3) 鉄電気石【SCHORL:NaFe3Al6(BO3)3Si6O18(OH)4
      真っ黒、ガラス光沢の針状結晶が長石の中から表面に向かって、放射状に
     伸びている。
      水晶のインクルージョンになっているものは、”流れ星”状に成長し、それら
     がいくつか組み合わさっている。

         
        長石の上の放射状結晶       水晶の中の”流れ星”
                      鉄電気石

5. おわりに 

 (1) この日採集できた巨晶は1本だけだった。こうなると、この1つをどう分配するかが
    問題だった。
     『宝島』ではないが、宝物を発見したとたんに人間のエゴがむき出しになり、それ
    までの”Collaboration(協同)”関係が一転して”Conflict(闘争)”に変わる例は枚挙
    にいとまがない。
     分配のルールは、次のいずれかであろう。

      @ このポイントを発見した人のもの
      A これを掘り出した人のもの

     読者の皆さんがこのような場面の当事者になったら、@、Aのどちらがに加担
    しますか?

     結局この日は、『巨晶1本』『残りの水晶・長石全部』の2つに分け、ジャンケンで
    勝った方が好きなほうを獲るルールになり、ジャンケンに負けた私は、『巨晶』を
    手にする事はできなかった。

     私の取り分は、水晶だけで8.5cmを筆頭に18本、加えて微斜長石、曹長石が
    同数以上あり、『第一発見者』としては、報われたと考えている。

 (2) 前回、今回の採集方法は、従来の「ガレ場」を攻めるのではなく、「地山」の表面を
    観察し、晶洞を探すという新しい手法だった。
     2回連続でうまく行ったので、これに味を占め、このページの翌週に3度目のトライ
    をした。山の中を何往復も行ったり来たりして非常に疲れた割りに、成果は『12cm
    あまりの巨晶』1本に終わった。この方法を主に採集するのはリスクが大き過ぎる
    という結論に達した。
    ( 何事も、改革・革新には痛みが伴う )

 (3) 1ヶ月前に目星をつけたポイントのはるか手前で”美晶・巨晶”を掘り当ててし
    まい、肝心なポイントに行き着けていない。
     これから寒くなると、”ガマ(晶洞)”から水晶、長石などを取り出す際に、割って
    しまうのが恐ろしく、来春に持ち越しそうだ。
     ( 今のうち回っておきたい産地も多いし・・・・ )
    

6. 参考文献

 1) Edward S. Dana: A System of Mineralogy 6th Edition
               John Wiley & Sons, INC ,1920年
 2) 谷山 四方一:鉱物鑑識の実際と鉱山探検,厚生閣,昭和14年(1939年)
 3) 長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
 4) 山梨県・山梨県地質図編纂委員会編:山梨県地質誌 山梨県地質図説明書
                           同委員会,昭和45年(1970年)
 5) 益富 壽之助:鉱物  −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年(1985年)
 6) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
 7) 松原 聡:日本の鉱物,滑w習研究社,2003年
 8) 加藤 昭:鉱物種一覧,小室宝飾,2005年
 9) 松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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