山梨県甲府市黒平の紫水晶
山梨県甲府市黒平の紫水晶
1. 初めに
2006年2月、「竹日向のガドリン石」探索行が早めに完了を迎えたので、10kmも
離れていない黒平を久しぶりに訪れると、上黒平集落の先に厳重なゲートが新たに
設置され、『 4月下旬まで通行止 』とあり、やむなく引き返した。
このことをHPに書いたところ、何人かの石友から 「鉱物採集を締め出すための
ゲートだろうか? 」 と心配のメールをもらった。地元や甲府市にそのような動きは
見られず、単に冬季の事故防止が目的であるらしかった。
静岡県の石友・Kさんから、「GWに黒平を訪れたが、以前一緒に行ったガレが緑化
工事が完了し、全く採集できなかった 」との報告をいただいた。あれだけの広いガレ
を緑化でき訳がない、と半信半疑であった。
やがて、埼玉県の石友・Aさんからも同じような情報が寄せられ、同時に「紫水晶が
採れたので、案内する」 とのお誘いを受けた。
2、3年ほど前、Aさんが、黒平で採集した(拾った)「紫水晶」を見せてもらったことが
あったが、大きさは3cmほどで小さいが、品のある紫色で、すぐに案内してもらう
ことにした。
まずは、ガレの様子がどう変わったのかを見ることにした。それを見て驚いた。あれ
だけの広いガレが、緑化工事で緑の草が生い茂り、小さな木も植えられ、数年後には
ここにガレがあったことすら忘れられそうである。
Before【2004年2月】 After【2006年6月】
黒平ガレの変貌
ここは見学だけにして、「紫水晶」の産地に案内してもらった。紫水晶の出たという
晶洞の延長を掘ってみたが、水晶のカケラも出てこない。探索範囲を広げると、真砂の
上に小さな煙水晶があり、周囲を掘ってみるが”ヌケガラ晶洞”である。
場所を替えよう、と移動するとき、Aさんが散らばっている長石に気付いた。そこを
掘り進むと、大きな晶洞である。2人の名前をとって、”黒平中澤晶洞”と洒落てみた。
長石は続々と出てくるが、目指す紫水晶どころか水晶が全く出てこない。この晶洞で
4時間近く楽しませていただき、結局紫水晶はゼロ、水晶そのものが少なく最大3cmが
数本といった不思議な晶洞であった。
緑化工事で、痛々しい姿のガレが緑に覆われるのは嬉しいのですが、それだけ採集
できる場所が少なくなり、複雑な心境である。
結局、「黒平の紫水晶」は、Aさんに恵与いただいた1本だけであった。案内していた
だいた上に、紫水晶を恵与いただいたAさん親子に御礼申し上げます。
( 2006年6月採集 )
2. 産地
黒平については、私のHPを初め、多くの参考資料が出ていますので詳細は割愛さ
せていただきます。
3. 産状と採集方法
水晶や長石そして希元素鉱物などのペグマタイト鉱物は、ペグマタイトの晶洞(Pocket)
とその周辺の石英、長石帯部分にあります。
真砂の上に落ちている水晶、長石の破片や微晶を手がかりに上に登り、崖の表面
を良く観察したり、積もっている真砂や表土を取り除き、ペグマタイト部分を探す。
晶洞が崩落して、水晶などのペグマタイト鉱物が真砂の上や沢筋に落ちているこ
ともあり、運が良ければ、表面採集でも美晶を採集できることもある。
また、誰かが掘り込んだ跡のズリでも、希元素鉱物などは良品が採集できること
がある。
『黒平中澤晶洞』
4. 産出鉱物
(1) 紫水晶【Amethyst:SiO2】
煙水晶のてっぺんに、後から生成したと考えられる透明度の高い水晶が、紫色
を示す。紫水晶によくある、”冠水晶”タイプである。ただ、先細りになっているので
石友の間では、”逆松茸”と呼んでいるものである。
紫色を示すのは、てっぺんの極めて狭い範囲で、光の加減でも見えたり見えな
かったりするので、気付かれないままの標本もあるかも知れない。
全体 拡大
紫水晶
(2) 水晶【Rock Crystal:SiO2】
紫水晶の出た晶洞の延長で、”逆松茸”タイプの水晶を採集したが、「紫」では
なかった。やはり、「紫水晶」は極めて稀な産出である。
”逆松茸”水晶
(3) 正長石/微斜長石【Orthoclase:KAlSi3O8/Microcline:KAlSi3O8】
多量のカリ長石が産出した。柱状結晶が少なく、錐面が発達したものがほとんど
であった。もともと黒平の中部は長石が優位なのだが、これほどまでに水晶が少な
い晶洞も珍しかった。
長石
このほか、長石に少量の黒雲母を伴うだけで、希元素鉱物も見られなかった。
5. おわりに
(1) 「黒平で紫水晶が産出するのは、○○○だ」 と、黒平に住む古老に教えていた
だいたことがあったが、今回Aさんが案内してくれた場所は、そこではない。
と言う事は、「紫水晶」は黒平のいくつかの場所で採集できる可能性がありそう
である。
(2) 今回Aさんから恵与いただいた「紫水晶」は、”黒平産”であることに、大きな意味
(価値)がある。
御蔭さまで、「水晶」は言うに及ばず、「天河石」「トパーズ」「苗木石」「緑柱石」
そして「紫水晶」と、黒平産のペグマタイト鉱物は、一通り入手することができ
心残りなく、山梨を留守にできそうである。
改めて、Aさんに御礼申し上げます。
(3) 7月1日から、茨城県にある某社に技術コンサルタントとして赴任することになった。
還暦(60歳)を過ぎ、「晴鉱雨読」の生活を楽しもうと思っていた矢先だったが
招請に応えることにした。
仕事が軌道に乗るまで、鉱物採集のハンマーには封印せざるを得ないと覚悟し
ている。従って、HPの更新もほとんど(全く?)できないと思われるが、事情をご理
解下さい。
早く仕事を軌道に乗せ、石友の皆様と一緒にフィールドに出たり、鉱物関連の
情報を交換できる日が一日も早くなるよう頑張る所存です。
読者の皆様のご健康とご活躍を祈念しています。
6. 参考文献
1)長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
2)柴田秀賢、須藤俊男:原色鉱物岩石検索図鑑,北隆館,昭和48年
3)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年