幸い、千葉県・Yさんの奥さんが電気石がついたアマゾナイトの美晶を表面採集し
東京・Mさんが晶洞を開けるなど、まずまずの採集会だった、と思い返している。
私のHPの愛読者、東京・Hさんを案内して4年ぶりに「大株沢」を訪れた。Hさんは
関西の出身で、「田上山」で磨いた腕を遺憾なく発揮し、初めての黒平にもかかわ
らず晶洞を2つも開け、「天河石」も採集した。
( お蔭で、私も小さいものながら、晶洞2つに巡り会えた )
山梨県のO鉱山が採集禁止になり、ここをフィールドにしていた人たちが黒平に
移動した、という噂を聞いたが、「天河石」を産する沢には、ここ数ヶ月人が入った
形跡がなかった。
『行っても採れる保証はないが、行かなければ絶対採れない』 くらいの気持ちで
訪れれば、 ”幸運の女神が微笑む”こともあるだろう。
三重県石榑(いしぐれ)の「アマゾナイト(天河石)」情報とサンプルを恵与していた
だいた愛知県の石友・K夫妻に厚く御礼申し上げる。
( 2007年6月採集 )
ただ、航空写真を読んだ経験がほとんどない私にとって、どこが尾根で、どこが
沢なのかの判別も付かず、慣れるまで時間がかかりそうである。
慣れて、”ガレ場”などが読めるようになれば、”新産地”探索の効率は良くなり
そうだ。
(1) アマゾナイト(天河石)/微斜長石【Amazonite/MICROCLINE:KAlSi3O8】
アマゾナイトあるいは天河石(てんがせき)は俗名で、鉱物種としては微斜長石に
含まれ、あえて表現すれば『青緑色をした微斜長石(bluish-green MICROCLINE』
となるらしい。
長石と同じ質感で、青緑色をしているが、乾いていると”白っぽい”ので見逃す
危険性がある。そこで、怪しい物は持参した飲み水や”唾液”で濡らして確認して
いる。
Hさんは、短柱状結晶を採集したが、私の採集品は、へき開片がほとんどだった。
アマゾナイトの青緑色の原因は、『微量の鉛』 とされている。しかし、黒平では
鉛を含む「方鉛鉱」などを採集したこともなければ、そのような鉱物が産出した話すら
聞いたこともない。
私見だが、この謎をとく鍵は「希元素鉱物」であろう。「希元素鉱物」には、ウラニ
ウム(単にウラン:U)やトリウム(Th)といった放射性元素を含むものがある。ウラ
ンやトリウムは”徐々に”鉛(Pb)に変化する。下の表にある”半減期”とは、Uあるいは
Th(これらを”親”元素と呼ぶ)原子の半分がPb(これを”娘”元素)に変化するまでに
要する時間のことである。
この過程(”壊変”あるいは”崩壊”と呼ぶ)で放射線【アルファ線】を放射し、これに
よって石英や長石の結晶格子が破壊され薄く着色する。
この影響は、透明水晶が煙水晶に変化したり、希元素鉱物の周囲数ミリが着色
する”ハロ【Halo:放射性色暈(しきうん)】”と呼ぶ現象を引き起こす。
放射性元素 | 崩壊後の元素 | 半減期 | 備 考 | ウラン238 | 鉛206 | 45億年 |
黒平で採集できる 放射性元素を含む 代表的な希元素鉱物
@ガドリン石 |
ウラン235 | 鉛207 | 7億年 | トリウム232 | 鉛208 | 140億年 |
「山梨県地質誌」によれば、黒平などにある「御岳昇仙峡花崗岩」は、誕生した
のが、約1,100万年前とされている。半減期が7億年(7×108年)と比較的短い(!)
ウラン235について、どのくらいが鉛(Pb)に変化したかを考えるみる。
N=N0e-λt ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・式1)
ここで、
N:現在のウラン235の原子数(ケ)
N0:もともとあったウラン235の原子数(ケ)
λ:壊変あるいは崩壊常数( /年)
式1)を用い、ウラン235の半減期から
N/N0=1/2=e-λ・7×108
両辺の自然対数をとり
ln1/2=-λ×7×108
λ=0.6931/(7×108)≒10-9
t:花崗岩が生まれてからの経過年数=11×106 (年)
式1)を変化した割合を求めるように変形し、これらの数値を代入すると
N/N0=e-0.01≒0.99
つまり、99%がウラン235のままで、約1%が鉛(Pb)に変化したと考えられる。
この極めて少量の鉛(Pb)が、発色の原因になっていると考えられる。
( ここで、素朴な疑問が湧いてきた。この花崗岩ができたばかりのとき、つまり
t=0のとき、N/N0=1、つまり鉛は全くなかったことになり、アマゾナイトも存在
しなかったのだろうか?
今後、時間が経つにつれ鉛(Pb)の濃度が高くなり、色が濃くなるのだろうか?
岐阜県中津川市周辺のいわゆる『苗木地方』で産出する「煙水晶」は、黒平の
薄っすらと色付いたものに比べ、”真っ黒不透明”が多い。これは、苗木地方の
花崗岩ができたのが6,000万年前、と黒平のものに比べ、5倍以上古い(老齢)
とされていることと関係あるのだろうか?
黒平の「煙水晶」も”真っ黒不透明”になるときが来るのだろうか?
もっともこれは、数千万年、あるいは数億年単位の話で、私が確認できる
はずもないのだが・・・・・・・ )
さて、賢明な読者の皆さんはお気づきと思うが、上の仮説が成り立つためには
次のような条件が満たされなければならない。
必要条件・・・・・・・ウランなどの放射性元素を含む「希元素鉱物」が近くで
発見できる。
十分条件・・・・・・・”ハロ”など放射性元素の崩壊を立証する標本がある。
(2) 変種ジルコン/ジルコン【Altered Zircon/ZIRCON:ZrSiO4】
青緑色、ガラス〜脂ぎった油脂光沢、四角柱状の頭がそげた、「苗木石」
【naegite:(Zr,Hf,Yetc)(Si,Nb,Ta)O4】タイプの変種ジルコンである。
福島県石川地方、岐阜県苗木地方、滋賀県田上山などペグマタイト産地の「苗木
石」には、UO2またはU3O8が0.7〜4.9%、ThO2が0.4〜4.26%含まれている、との
分析結果が「日本希元素鉱物」に記載されている。黒平産のものについての分析
データはないが、同程度含まれていると考えられる。
今回採集した「苗木石」は1ケだけでなく、2個体だったことから、”偶然”生まれた
のではなく、かなり放射性元素の濃度が高かったことがうかがえる。
( 既に、「苗木石」は黒平の同じ場所や○○沢でも確認しており、特段珍しくも
ないのだが、写真の柱面に寄り添っている微細・細柱状・透明結晶が気になっ
ている )
(3) 鉄コルンブ石【FERROCOLUMBITE:FeNb2O6】
黒色、亜金属〜ガラス光沢の薄板状、先端が尖っている。この標本は、鉄
雲母(従来の黒雲母)と共生している。
ニオブ(Nb)を含む「苗木石」があることや、この一帯の花崗岩とペグマタイト
鉱物が”赤い紅殻/弁柄(べんがら:Fe2O3)色”に染まっていること事などを
考え合わせると、産出して当然かもしれない。
(4) 水晶/石英【Rock Crystal/QUARTZ:SiO2】
大株沢の水晶は透明度、屈折率が高く、やや煙水晶かかったものが多い。
それらの中に、黒色、粒状のインクルージョンの周囲に”ハロ【Halo:放射性色暈
(しきうん)】”を示すものがあり、放射性元素の崩壊があったことを物語っている。
(5) 微斜長石【MICROCLINE:KAlSi3O8】
カリ長石の一種で、白色、ガラス光沢の短柱状結晶で産する。単晶以外に
各種の双晶も見られる。
双晶には、カールスバット式(Carlsbad)、マネバッハ式(Manebach)、バベノ式
(Baveno)が知られており、バべノ式は希、と文献にある。
(2) 「アマゾナイト(天河石)」の産地として、長野県田立(ただち)が有名で、過去に
3回ほど訪れたが、”ガマ”を開けての採集は難しそうだった。黒平の方が10倍
以上、晶洞(ガマ)を開けられる確率が高そうな印象だ。
(3) 愛知県の石友・Kさん夫妻が開設したブログ『 GO GO ヘナK小隊!!』に
三重県石榑(いしぐれ)で、”青緑色の石”の露頭を発見した、とある。
サンプルをいただいたが、紛れもない「アマゾナイト」だった。産地は”吸血鬼”
が出没する危険地帯で、彼らの休眠期になったら案内してもらうのを楽しみに
している。
(4) 黒平には、険しい絶壁もあり、滑落事故など起こさないよう、安全確保には充分
注意したい。
上の写真に示す”ガレ場”は一見何でもないように見えるが、先のほうで急な
崖になっている。急傾斜の岩床に真砂(砂粒)が浅く積もっていると、砂粒がコロ
の働きをして、ズリ落ちて急崖に吸い込まれるようで、大きく迂回せざるを得な
かった。
( 静止摩擦係数 >> 動摩擦係数 -------> ♪ どうにも〜止まらない ♪ )