山梨県甲府市黒平イサリ山(チョキ)の鉱物

      山梨県甲府市黒平イサリ山(チョキ)の鉱物

1. 初めに

   東京の石友・Tさんから、「イサリ山にご一緒しませんか?」とメールをいただいた。
  イサリ山は、別名「チョキ」と呼ばれ、この地名にはある思い入れがあり、2つ返事で
  お願いした。

   もう7、8年前、黒平の老婦人に「紫水晶」をいただいたことがあった。産地名は
  「チョキ」ということだった。黒平を一緒に探査している石友・Mさんと訪れようと言い
  ながら、私の単身赴任などがあり、果たせていなかった。

   千葉のYさん、神奈川のKさんも加わることになった。山梨で合流し、Tさんが持参
  した地質図には、イサリ山頂上付近にペグマタイトがあることになっている。
   私の車で産地を目指す。林道に入り、ものの300mも走らない内にゲートが現れた。
     
 この林道を通るのは、2年ぶりに
なる。
 以前はなかったゲートが設置された。
コンクリートの回りに雑草が1つも
生えていないところから、設置された
のは2009年になってからのようだ。

 ゲート閉鎖の理由として
『 この先、危険なため・・・・・』、とある。


   しかたなく、車を路肩に停め、歩くことにする。林道脇にあるペグマタイトの周辺で
  産出鉱物の観察をしていたので、1時間弱かかりチョキへの尾根道入口に到着。
   平坦なのは、約100mで、そこから急な登りになる。甲武信鉱山の第1テラスに行く
  ”直登”並だ。病み上がりのYさんにとって厳しい探査行だ。
   救いは、ここからの富士山の素晴らしい眺めだ。

       
             イサリ山遠望         中腹からの富士山

   さらに、同じような急な尾根をもう一度登った末、イサリ山(チョキ)頂上に着いた。
   頂上付近には、風雨で汚れた花崗岩のカケラがあるものの、『ペグマタイト』の片
  鱗すら見られない。

   『 チョキ は パー (なにもない) 』

   これでは、黒平地区初挑戦のKさんが可哀想なので、この近くで晶洞が開く可能
  性が高い産地へ案内した。ガレ場で、晶洞が来そうな場所を説明し、ものの10分も
  経たない内に、Kさんが「晶洞みたいです!!」、と歓声を上げた。

   晶洞からは、1,200万年の眠りから起こされた小さいながらピカピカの水晶、長石
  が次々と姿を現した。

   Kさんにとって、最後は 『 グー! (Good) 』 になったようだ。

   私は、「Kさん晶洞」のガマ粘土をいただいて帰って、『精密パンニング』したところ、
  希元素鉱物の「苗木石(変種ジルコン)」、「褐簾石」が確認でき、私にとっても最後
  は 『 グー! (Good) 』 だった。
   このミネラル・ウオッチングを 『 チョキ パー グー 探査行 』、と名付けてみた。

   同行いただいた、Tさん、Yさん、Kさんに厚く御礼申し上げる。
   ( 2006年9月採集 )

2. 産地

   登山地図に「イサリ山」の名は目にする。登山関連HPを見て「チョキ」は「イサリ山」
  のことだと知った。
   「イサリ山」は標高1,883mで、「黒平富士」とでも呼べそうな姿をしている。地質調
  査機関の資料では、チョキの頂上付近はペグマタイトになっている。

   しかし、頂上にある「三角点」の礎石が一番立派な「花崗岩」なくらいで、錆びたような
  花崗岩の小塊が落ちているだけだ。ペグマタイトは見当たらない。

        
                 チョキ周辺地図                    三角点
                                           【薄く「チョキ」とある】

3. 産状と採集方法

    チョキは、第四紀黒富士火山の噴火に伴う輝石安山岩が覆っており、その下に
   御岳花崗岩が隠れているようだ。
    チョキを沢を挟んだところから観察すると、『千貫岩』、とでも名付けるべき、火道
   がそそり立っているのが観察できる。

     対岸からの「チョキ」

    チョキでは採集すべき鉱物を見出せず、私が多くの石友を案内しているポイントに
   行くことにした。
    ここは、黒平に共通なガレ場とその周辺の露頭で晶洞(バマ)を開けての採集が
   基本になる。したがって、晶洞(ガマ)がどのようなところに来るのかを知っているか
   いないかで成果が大きく変わる。

    私が小さいながら晶洞(ガマ)を開け、何本かの松茸水晶を採集した。ここで、
   Kさんなどに、どのような場所に晶洞(ガマ)がある可能性が高いかを現場でレク
   チュアさせていただいた。
    まさに、『OJT( On the Job Training )』、である。( Job じゃなくて趣味か )

        
        @兆候をつかむ       Aガマを開ける        B慎重に取り出す

    @ 兆候をつかむ
        ガマは、石英や長石が混じった、いわゆる『文象(もんしょう)花崗岩』に
       囲まれている。
        文象花崗岩は回りの花崗岩よりも風化に強く、ガレ場でも飛び出している
       いるように見える。
        これが、晶洞の始まりである場合、終りである場合、そして単なる脈である
       ケースがある。
        始まりであることを信じて(祈って?)、タガネとハンマで叩く。

    A ガマを開ける
        ガマの始まりは、10円玉程度の穴に見えることが多い。ラグビーボールでも
       床に接している面積(広さ)は、500円玉程度であることと同じだ。
        広がりがありそうなガマ、と判断したら、手前側から回りを崩していく。
        ( 穴を広げるイメージ )
        このときには、バールが活躍する。テコの原理で、人間の力の10倍以上の
       力が働き、堅い晶洞壁もバリバリ割れる。

    B 慎重に内臓物を取り出す
        ガマの中には、ガマ粘土が積もり、その中に晶洞から脱落した水晶や長石
       の素晴らしい結晶が埋もれていることが多い。
        こうなると、ドライバー(1番ウッドではなく、先端がマイナスのねじ回し)が
       出番だ。少しずつ、ガマ粘土と一緒に水晶や長石にキズをつけないようかき
       出す。
        晶洞が大きいと、つい素手でかきだそうとし勝ちだが、手指を切るので必
       ず手袋をしてやるべきだ。
        ( 手袋は、革が良いという人もいるが、私はフィット性が良いゴム手だ)

    C 【番外】 ガマ粘土も持ち帰る
       あなたが、トパズなどの「希元素鉱物」に興味がおありなら、ガマ粘土も持ち
      帰るべきだろう。
       今回、私が開けたガマと「K晶洞」のガマ粘土をそれぞれ350ミリリットルほど
      持ち帰り、『 精密パンニング 』したところ、「K晶洞」のものからは、「苗木石
      (変種ジルコン)」と「褐簾石」が発見できた。

4. 産出鉱物

   黒平の晶洞は、「水晶」よりも「長石」が多い傾向がある。ここでの採集品を紹介
  する。

No    鉱物種名
    俗名
  【英名:組成】
  標 本 写 真  備  考
1 石英
松茸水晶
【Scepter Quartz
 /QUARTZ:SiO2
     ここの水晶の多くは
「松茸水晶」になっている
ことが多い
2 変種ジルコン
苗木石
【Naegite/ZIRCON
 :ZrSiO4

           パンニング品


            母岩付き

 パンニング品の
結晶は四周完全な
ものが多い
 粘土様に変化した
鉱物と共生し、自然に
剥がれ落ちたようだ。
(球状白雲母の中には
 観察できた    )








 母岩は、「微斜長石」
3 褐簾石
【ALLANITE-(Y)
 :CaYAl2Fe2+
  (SiO4)(Si2O7)(OH)】
   
           頭付完全結晶

   
            大きな結晶

 小さなものは
頭が付いている。

 下から見ると真っ黒い
”(亜)貝殻状”の破面が
見え、大きなものと
同じ鉱物だとわかる。








 大きなものは、鉄(Fe)が
多いためか、真っ黒い外観で
「鉄電気石」のよう

 断面が「菱形」なのが
特徴

5. おわりに 

 (1) 自宅から1時間エリアのミネラル・ウオッチング
      この産地は、自宅から30kmだった。朝5時に起き、「疾風」の散歩をさせて
     朝食の後、自宅近くの集合場所で石友の到着を待った。
      この日は、3連休の初日で、しかも夏休みに入って最初の休日、その上休日
     1,000円乗り放題で中央道の下り線は大渋滞だった。
      帰りも上り線が大渋滞し、皆さん大変だったようだ。

      一方私は自宅から1時間以内(この間、信号機は1つ)のところに、このような
     産地が多数ある恵まれた環境にあるのを感謝している。

      石人・W氏夫妻が、山梨に自宅を建て引っ越してくると聞いたが、その気持ちが
     良く分かる。

 (2) 「チョキの紫水晶」
      黒平の老婦人からいただいた「チョキの紫水晶」は、どこのものだったのだろ
     う。

      この地域の探査をご一緒したことがある愛知・Kさんにチョキの探査結果を
     メールしたところ、「 Mineralhunters のことだからこれで探査終りではない
     でしょう 」、と返信があった。

      チョキを見た限り、水晶などのペグマタイト鉱物が産出する可能性は低く、ゲ
     ートが設置されアクセスも悪くなり、どうしたものか、迷っている。

6. 参考文献

 1) 長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
 2) 益富 寿之助:鉱物 −やさしい鉱物学− ,保育社,昭和60年
 3) 松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
山梨県甲府市黒平の紫水晶 inserted by FC2 system