2007年11月 山梨県甲府市 ”黒平” の近況

   2007年11月 山梨県甲府市”黒平”の近況

1. 初めに

   2007年8月から10月にかけて、山梨県甲府市黒平町の水晶産地を何回か訪れ
  その結果については、HPに掲載した通りである。

山梨県黒平・向山鉱山の巨晶・美晶
( Big , Beautiful QUARTZ from Mukouyama Mine , Kurobera Town
 Kofu City , Yamanashi Pref. )

山梨県甲府市黒平の煙水晶
( Smokey QUARTZ from Kurobera , Kofu City , Yamanashi Pref. )

    これらのページを読んだり、既に案内した石友に案内されたりして、大勢の
   人々がこれらの産地を訪れているようだ。
    ( 訪れるたびに、露頭の形が変わっている )

   2007年11月に入って未だ旬日(10日間)も経っていないが、石友を案内したり、
  新産地の探索で、既に3回黒平地区を訪れた。

   @ 茨城県・Kさん(初心者)を「大株沢」に案内
   A 石友・Mさんと「新産地」探索
   B 愛知県の石友・KW氏、その友人・T氏と△△△探査・採集

   黒平産地の近況は以下の通りである。
   @ 「入山禁止」などの表示や縄張りは全て撤去されている。
     ( キノコの時期のみ入山禁止だった、らしい )
     黒平集落の何人かの人たちと話す機会があったが、皆さん好意的だった。
     ( 人によって、かも知れない )
     ただ、12月に入ると林道で通行止めになる箇所がある。
   A 10月末の台風20号の大雨の影響で、ガレ場、沢筋が荒れている。
      おかげで、表面採集で”巨晶”、”美晶”が拾えた。
      ( 同行したKW氏も、6cmほどの透明感ある煙水晶を沢筋の表面で拾い
       ”ごっつあん”状態で、『台風などの後には回ってみなきゃ・・・・・・』 )
   B ポイントに当たれば、「水晶」「長石」「希元素鉱物」などが採集できる。
      Kさん、Tさんも「ガマ(晶洞)」を開け、直接採集

    今回の「新産地」探索行では、黒平集落の皆さんから、貴重な情報と現物を
   いくつか頂いた。同行していただいた石友の皆さんには、教えていただくこと
   も多かった。皆様に厚く御礼申し上げます。
    ( 2007年11月 採集 同月 雲母に伴う苗木石とチタン鉱物追加)

2. 産地

   黒平について、多くの情報があるので、詳細は割愛する。一口に”黒平”と言っても、
  昇仙峡の先から長野県との県境「金峰山」までの広大な範囲にまたがっている。
   ペグマタイト鉱物が採れるポイントは、”スポラディック(sporadic:散在する)で、
  事前に産地情報を調べてから行かないと、”手ぶら”で帰ることになりかねない。

 
 産地  同行者    説     明    備     考
大株沢茨城県・Kさん  小さい「ガマ(晶洞)」なら、
ほぼ確実に開けられるので
初めての人を案内
 「大株沢」は全長約2km
流域面積約4km2
新産地石友・Mさん  2004年に開拓し、そのまま
になっていた産地を詳しく
探査
 黒平集落での聞き込みも
併せて実施
△△△石友・KW氏
T氏
 どん詰まり(源流部)まで探査
した事がなかったので、今回
KW氏が”Google Earth”の写真と
GPSを持参し、”科学的”探査
 私が今まで採集していたポイント
以外ではペグマタイト鉱物が
見られなかった
”勘と経験”が当たっていた?)

3. 産状と採集方法

   水晶や長石そして希元素鉱物などのペグマタイト鉱物は、ペグマタイトの晶洞
  (Pocket)とその周辺の石英、長石帯にある。
   ”ガレ場”の真砂や”地山”の上に落ちている水晶、長石の破片や微晶を手がかり
  にして、上に登り、崖の表面を良く観察したり、積もっている真砂や表土を取り除き、
  ペグマタイト部分を探す。
   晶洞が崩落して、水晶などのペグマタイト鉱物が真砂の上や沢筋に落ちている
  こともあり、今回のように台風通過直後などには、運が良ければ、表面採集でも巨晶*
  美晶や興味深い標本を採集できることもある。

    * 巨晶:一般的には”大きな結晶”のことだが、私の場合、最小の大きさは
        産地によって変えている。
        黒平地区では、10cm以上を指す。

      
         ガレ場      晶洞を掘るKさん”お初ガマ”
             産状と採集方法

4. 産出鉱物

    この3回の採集・探査行で採集できたのは、@希元素鉱物A水晶B長石、そして
   Cチタン鉱物である。
    以下、私の興味が深いものから、順に紹介する。

 (1) 苗木石/変種ジルコン/ジルコン【Naegite/Altered Zircon/ZIRCON :ZrSiO4
      鮮緑色〜褐色、油脂〜ガラス光沢をしめす、頭の尖った短柱状の結晶で
     典型的な「苗木石」【Naegite :(Zr,Hf,Y,etc)(Si,Nb,Ta)O4】である。
      下の写真の標本は、カリ長石(微斜長石)の結晶の上に結晶が成長しているが
     周辺の長石に”ハロ【Halo:放射性色暈(しきうん)】”は見られない。
      この標本に隣接した部分から、違った産状の「苗木石」が採集できた。
      @ 黒雲母に挟まれたもの( 教科書通り? )
      A 文象花崗岩に接する長石の中に粒状で、フェルグソン石を伴う。弱い
        ”ハロ”が見られる。

        
            全体               拡大
                 微斜長石の上に結晶

               
                  雲母に伴う【産状@】

                 苗木石(変種ジルコン)

 (2) フェルグソン石【FERGUSONITE-(Y) :YNbO4
      黄褐色〜黒色で先端の尖った細柱状結晶として文象花崗岩に接する長石の
     中に放射状に集合して産する。隣接する長石に目立った”ハロ”は見られない。

        
            全体               拡大
                  フェルグソン石

       これらの希元素鉱物を伴うブロックから、「タレン石【THALENITE:Y3Si3O10(OH)】」
      と思われる標本を得て、只今鑑定中である。

       【後日談】
        どうやら、「タレン石」では、なさそうだ。残念だが・・・・・・・・・。

 (3) 水晶/石英【QUARTZ:SiO2
      △△△で産出する水晶は、透明水晶、透明感のある煙水晶から部分的に白
     濁した水晶まで色の違いや、平行連晶とその一種の松茸水晶など形の違うもの
     が楽しめる。

      @ 松茸水晶
          どちらの水晶も、表面に反復成長の跡(条線の大きなもの)が見られ、
         ”ジャカレー(鰐:ワニ)水晶”の様相を示している。

        
       煙【長さ128mm】       透明【長さ75mm】
                 松茸水晶
    

      A 平行連晶
          約20本の群生する水晶の錐面(柱面)が”全て平行”になっているのに
         は、益富先生ならずとも、”不思議さ”を感じる。

      平行連晶【横80mm】

 (4) 微斜長石【MICROCLINE:KAlSi3O8
      △△△としては、珍しい細柱状結晶で、「バベノ双晶」である。

        
          採集品          結晶図【「鉱物」から引用】
               微斜長石【バベノ双晶】

 (5) チタン鉱物
     △△△の直線距離で約2km離れた場所で、チタン鉱物を採集している。今回の
    ポイントでも、微小なものだが2種のチタン鉱物を確認した。

   @ 鋭錐石【ANATASE :TiO2
      赤みがかった黒、金属〜ガラス光沢、8面体(正方錐)で、長軸と直角方向に
     条線がある特徴的な結晶として、雲母にサンドイッチされた形で長石の上に見ら
     れる。

         
             採集品             結晶図
                    【”System of Mineralogy ”から引用】
                      鋭錐石 

   A ルチル(金紅石)【RUTILE :TiO2
      真っ黒い金属光沢、細柱状結晶で、雲母に挟まれ、長石の上に、鋭錐石と共
     に産出した。

       ルチル(金紅石)

5. おわりに 

 (1) 茨城県・Kさんは、黒平のようなペグマタイト産地での採集が初めて、とのことで
    どのような場所を、どのような採集道具を使って、どのように掘るのか、私のやり
    方が参考になった、とお礼のメールをいただいた。

     『 守 破 離 』

 (2) 愛知県のKW氏に、航空写真を使って、”ガレ場をしらみ潰し”に踏破する作戦
    を教えていただいたのは、5年ほど前だった。最近、KW氏から、”Google Earth”の
    存在を教えていただき、インストールしたのは、2007年8月ごろだった。

     今回、希元素鉱物を採集した長石がついた晶洞壁は、2年ほど前に「苗木石」を
    採集したものの片割れだった。
     ( 2年ほど前、希元素鉱物が付いていると思わず、大割りした片割れが真砂の
      中に埋もれてしまっていたのが、台風20号の豪雨で再び姿を現した )
     これを最初に発見したのはT氏だったが、長石としての標本価値が少ないので
    私に現地で譲ってくれ、小割りして、希元素鉱物を発見した。

 (3) 石友・Mさんとの探査行で、黒平集落の方々から、水晶産地の情報を聞いた。
    普段、60歳代の人を見かけることが少ない老齢化が進んだ過疎の集落だが、
    この日は「黒戸奈神社」の神事があったらしく、5、6人の私と同年代の人たちに
    会うことができた。

     @ 「バッタリ鉱山」と「水晶峠」の関係と現物
     A 10年ほど前に紫水晶産地として、老婦人から聞いた地名■■■の場所
        老婦人の記憶違いや私の聞き間違いを懸念したが、■■■の地名と
       場所は、今回お聞きした、3人が3人とも知っていた。
     B 「紅石英(紫水晶?)」の現物と産地

     など、などの現物と情報を得ることができた。

     これらの情報を元に、次なる探査行を計画している。

        
    緑水晶【バッタリ鉱山産】      紅石英(紫水晶?)
                          【結晶面あり】
                  入手標本

 (4) この時期、黒平周辺は”紅葉真っ盛り”で、青空の下、歩き回っているだけでも
    気持ちが清々する。( 採れると、なお更気分が良い )
     時折、鹿が伴侶を求めて鳴く声が遠くから聞こえる。

     『 奥山の紅葉踏み分け鳴く鹿の
           声聞くときぞ秋は悲しき 』
   (猿丸太夫) 「古今集」 

     柄にもなく、古歌が思い出される。

        
           暮色迫る               紅葉
                     黒平の秋

6. 参考文献

 1) Edward S. Dana: A System of Mineralogy 6th Edition
               John Wiley & Sons, INC ,1920年
 2) 長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
 3) 山梨県・山梨県地質図編纂委員会編:山梨県地質誌 山梨県地質図説明書
                           同委員会,昭和45年
 4) 益富 壽之助:鉱物  −やさしい鉱物学 -,保育社,昭和60年
 5) 中川 清:山梨県の水晶 水晶Vol.11 No.1,鉱物同志会,1998年
 6) 松原 聡:日本の鉱物,滑w習研究社,2003年
 7) 加藤 昭:鉱物種一覧,小室宝飾,2005年
 8) 松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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