2004年 鉱物採集納め -Part1- 山梨県甲府市黒平の鉱物

       2004年 鉱物採集納め  -Part1-
        山梨県甲府市黒平の鉱物

1. 初めに

 2004年も残り少なくなった12月の末、東京の石友・Mさんから、「黒平に行きませんか」
とのお誘いをいただいた。
 2004年は、西は沖縄県、北は栃木県、群馬県まで足を伸ばしたが、地元山梨県の産地を
蔑ろにしていたこともあり、罪滅ぼしの意識もあり、2つ返事で案内をお願いした。
 Mさんが、数日前に開けたという晶洞をさらに広げ、握りこぶし大の微斜長石と
それに共生する曹長石やチンワルド雲母などのペグマタイト鉱物を採集できた。
 また、別な場所では、マッチの軸のような電気石を採集できた。さらに、自力で
塊状の電気石を産する晶洞を開けることができた。
 黒平の奥深さを改めて知り、2004年鉱物採集納め-Part1-を見事な採集標本で締めくくる
ことができた。
 案内いただいたMさんに、厚く御礼申し上げます。
(2004年12月採集)

2. 産地

 この日は、水晶産地として知られる「松木尾根」を攻める予定だったが、林道の
ゲートが閉まっていたため、徒歩では片道1時間以上かかると聞かされ、ギブアップ。
 すぐ近くの”ガレ”に向かう。2004年は台風が多く、黒平地区にも多量の雨が降り
膨大な量の土砂が崩れている。
 晶洞発見の期待が高まるが、世の中そんなに甘くはなく、崩れて欲しいペグマタイト脈を
含む部分は、それほど崩れていない。
 ”ガレ”の表面を丹念に見ると、2mほど上に長石や石英の巨晶部分が見える。
直登と思ったが、雪こそないものの、ガレは凍結し、滑りやすい。滑落すれば、10m下の
大岩に叩きつけられる。時間を掛けて回り込んで、巨晶部分を掘ると、小さな晶洞があり
塊状の電気石が充填されていた。
 黒平に慣れているさしものMさんも、ここは危険と察知し、次の産地に移る。
 2004年、初めて行った、秋葉原のミネラルマーケットに「金石沢」の水晶があったことを
思い出し、金石沢に行くが、初めての産地で、採れるかどうかも分からず、場所(入口)を
確認しただけで、引き上げる。
 次に、Mさんが「御岳林道」の奥に”ガレ”を見たというので、行く事にした。ここは
神奈川の石友・Oさんも以前から狙っていた場所。林道には、林道工事で崩した露頭にあった
と思われる結晶面を数面付けた長石が落ちていて、期待が膨らむ。”ガレ”が見える場所に
近づいてみると、谷を渡らねばならないようで、厳しそうなのでここも何時の日かに回す
ことにした。
 本日の本命、Mさんが、数日前に開けたという晶洞に案内していただいた。表面から見ると
ペグマタイトらしからぬが、30cm×50cmはある正真正銘の晶洞である。ここをMさんの
名前をとって”M晶洞”と命名した。

     ”M晶洞”

   バーベキュー串を使った探索棒でガマを調べてみると、晶洞は左右に広がっており
タガネと2kgハンマーを使って慎重に広げていく。
 子どもの頭大の長石の結晶群や曹長石がでる。水晶は柱面の幅が5cmもあるものが
出るのだが、頭がない。完全な水晶は小さなものが多いが、黒平独特の透明度が高く
光輝の強い煙水晶である。チンワルド雲母もでるので、トパーズなども期待したが
見当たらない。
 晶洞を浚い尽すのに2時間近くがかかり、タップリと楽しませていただいた。
 次にMさんが発見した”電気石”を伴う晶洞に案内していただいた。晶洞は綺麗に
浚われていたが、その近くで、4cmほどのマッチ軸状の電気石を自力採集できた。

3. 産状と採集方法

 黒平での採集は、真砂の上に落ちている水晶、長石の破片や微晶を手がかりに上に登り
崖の表面を良く観察したり、積もっている真砂を取り除き、ペグマタイト部分を探しますが
 Mさんのように”嗅覚”が備わっていないと、誰でもが見つけられる訳ではないようです。

4. 産出鉱物

  今回採集(入手)できた、鉱物を紹介します。

(1)微斜長石【Microcline:KAlSi3O8】
    角柱状結晶で産出する。表面に細かい曹長石・ペリクリン式双晶が組み合わさった
   格子模様が見られる。
    結晶表面を薄い曹長石膜が覆っているものもあり、ガラス光沢で、小さな結晶の場合
   ”トパーズ”と勘違いする方もいますので、注意が必要です。

     微斜長石

(2)曹長石【Albite:NaAlSi3O8】
    ペグマタイト晶洞の中で、共生する煙水晶、正長石あるいは微斜長石より少し遅れて
   晶出する。そのため、微斜長石の上に見られることも多い。
    1つ1つの結晶は小さくてわからないが、結晶のb面(010)面を双晶面として繰り返し
   連晶する。その間に少しずつズレが積もり積もってカーブするようになる。
    その結果、”波状”や”渦巻状”を呈する。今回採集したものは、微斜長石の隙間を
   埋めているが、煙水晶や微斜長石を完全に覆うまでにはなっていない。このことは
   曹長石を生んだ”熱水(?)の供給が充分でなく、途中で曹長石の晶出が終わったことを
   示している。

     曹長石【微斜長石の上の波状連晶】

(3)チンワルド雲母【Zinnwaldite:KLiFeAl(Si3Al)O10(OH、F)2】
    鱗雲母と鉄リチア雲母の中間種で、淡褐色の六角板状の集合体で産する。
   希元素鉱物の道案内をしてくれる鉱物である。
   下の写真のものは、微斜長石の上に、結晶したものである。

     チンワルド雲母

(4)煙水晶【Smoky Quartz:SiO2】
    ”煙水晶”と”黒水晶”の境目はどこか、と改めて聞かれると困りますが、私個人としては
   岐阜県苗木や蛭川村などで採集できるものは、不透明で”真っ黒”の印象で、”黒水晶”と
   呼んでいます。
    黒平産のものは、向こう側が透けて見えるほど透明感があり、結晶面の光輝も強いので
   ”煙水晶”と呼んでいます。ただ、例外のないルールがないように、黒平産でも”真っ黒”の
   ものが、例外的に存在します。
    ほんのり、煙掛かった水晶は品があり、一目で黒平産とわかります。

     煙水晶

   (5)鉄電気石【Schorl:NaFe3Al6(BO3)3Si6O18(OH)4】
    電気石(Tourmaline)の一種で、真っ黒で光輝が強い柱状〜針状結晶で晶洞の中や水晶
   微斜長石の表面に晶出している。
    黒平の場所によっては、晶洞を満たす”塊状”で産出することも多い。

         
      頭付き単晶              水晶の上の結晶
             鉄電気石【Mさん採集品】

5.おわりに

(1)2004年の鉱物採集納め-Part1-として、Mさんに黒平を案内して頂き、予想以上の成果に
   満足しています。
    案内いただいたMさんに改めて御礼を申し上げます。
(2)黒平の人気は高く、私のHPを見た大勢の方から情報提供を求められますが、”行けば
   必ず採れる”ものではありません。
   (行かなければ、絶対採れない、のも事実です。)
    1ケ月前に開けたガマが1ケ月後には、影も形もなくなっていることも稀ではなく
   情報提供にも慎重にならざるを得ないことをご了解ください。
(3)2004年は、春先の「ひすいさがし」に始まり、HPには65件の鉱物関連情報を掲載
   することができた。
   情報提供、産地案内そしてご一緒いただいた皆様に、厚く御礼申し上げます。

6.参考文献

1)長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
2)木股 三善・宮野 敬:原色新鉱物岩石検索図鑑,北隆館,平成15年
3)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
4)益富 寿之助:鉱物,保育社,昭和60年
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