山梨県甲府市黒平の希元素鉱物-その2-

山梨県甲府市黒平の希元素鉱物-その2-

1. 初めに

 長島 乙吉・弘三親子が著わした「日本希元素鉱物」の「黒平」のページを読むと
次のような記述がある。

 『上黒平より金峰山道を4粁(km)、左手のガレの上にある水晶採掘跡
 (黒平鉱山らしい)から緑柱石・ガドリン石・トパズを産出するが極めて
  まれである。
   トパズは時にモナズ石を包有していることもある。この他、毛状の電気石・
  チンワルド雲母を産する。』
 2002年暮れから2003年春にかけて、石友と何回か黒平を訪れ、各種の希元素鉱物を
 採集した。

 2003年7月に、石友のAさん親子に誘われ、以前採集会を開催し皆さんを案内し
「天河石(アマゾナイト)」を採集した場所で、「天河石」「チンワルド雲母」
「モナズ石(ガドリン石を含む?)」を採集した。
 このとき、Aさんのご好意で、幻といわれる、「緑柱石」も入手できた。
 さらに、希元素鉱物を求めて何回か訪れ、「ガドリン石」も
採集でき、十数年前に中澤氏からいただいた「トパーズ」なども含め、黒平の
希元素鉱物を、ほぼ網羅でき、私の永年の夢である「甲斐國(山梨県)鉱物誌」に
向かって一歩前進できた。
 Aさん親子との採集行の帰途、黒平集落の入口にある「マウントピア黒平」に
立ち寄り、特製のアイスクリームを食べ、展示してある黒平や乙女鉱山産と思われる
各種の水晶を見せてもらった。
 怪しげな、観光土産用接着群晶もありますが、一度立ち寄られると良いでしょう。
    「マウントピア黒平」の水晶
(2003年7月採集)

2. 産地

 黒平については、私のHPを初め、多くの参考資料が出ていますので詳細は
割愛させていただきます。

3. 産状と採集方法

 希元素鉱物は水晶や長石などに伴ってペグマタイトの晶洞(Pocket)とその周辺の
石英、長石帯部分にあります。
 真砂の上に落ちている水晶、長石の破片や微晶を手がかりに上に登り、崖の表面を良く
観察したり、積もっている真砂を取り除き、ペグマタイト部分を探します。
 晶洞が崩落して、水晶などのペグマタイト鉱物が真砂の上や沢筋に落ちている
こともあり、運が良ければ、表面採集でも美晶を採集できることもあります。
 また、最近誰か(某グループ?)が掘り込んだ跡のズリでも、良品が採集できる
ことがあります。
    採掘跡

4. 産出希元素鉱物

  今まで採集(入手)できた、黒平の希元素鉱物を紹介します。

(1)変種ジルコン・苗木石【Naegite:(Zr,Hf,Yetc)(Si,Nb,Ta)O4】
   ジルコン【Zircon:ZrsiO4】に他の成分を含む変種を”変種ジルコン”と呼ぶ。
   ペグマタイトに産するジルコンは、純粋なものは少なく、多少の差こそあれ
   何らかの他成分を含んでいる。また放射能があるので、”変種ジルコン”を
   ”放射性ジルコン”と呼ぶこともある。

   変種ジルコンに与えられた変種名はたくさんあるが、「日本希元素鉱物」に引用
   された木村・弘中氏の分類によれば、次の通りである。
   @水をたくさん含むものをマラコン【Malacon】
   Aベリリウム(Be)をたくさん含むものをアルブ石【Alvite】
   B希土類元素をたくさん含むものをシルト石【Cyrtorite】
   C希土類元素および土酸元素(ニオブ(Nb)、タンタル(Ta))をたくさん含むものを
    苗木石【Naegite】
   D希土類元素およびリン(P)をたくさん含むものを山口石【Yamaguchilite】

   黒平の苗木石は、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)を含むコルンブ石と同じ場所で
   採集したもので、暗緑色の柱状で先端が錐面になり、水晶の中に埋没して産し
   周囲の水晶にハロ(Halo:放射性色暈と呼ぶ希元素鉱物の周囲の石英や長石の
   結晶格子が破壊されて薄く着色する現象)を与えている。
    この標本は、石友のAさんの友人、ASさんが、発見したものを、頂いたものです。
      
           苗木石        苗木石周囲の”ハロ”

(2)ジルコン【Zircon:ZrSiO4】
   正方柱状と錐面よりなり、色は無色〜薄黄〜薄緑〜ピンク〜赤〜褐色と種々。
   ”変種ジルコン”に対して”正常ジルコン”とも呼ばれる。
   正常ジルコンでも、多くは微量の放射性物質を含み、ごく弱い放射能を示す。
   下の写真は、石友のMさんが黒平で採集し、不明鉱物として鑑定を依頼されたもので
   ”絵に描いたようなジルコン”と判定したものです。
   放射能が弱いせいか、ハロは見られなかったとのこと。
    正常ジルコン【採集・撮影Mさん】

(3)コルンブ石【Colunmbite:(Fe,Mn)(Nb,Ta)2O6】
   真っ黒でガラス光沢のある、先端が尖った板状結晶が多数平行連晶をなして
   産する。Fe,Mn,Nd,Taの量は自由に変化しうる。
   Nb>Taをコルンブ石、Ta>Nbをタンタル石と言い、Feの多いものを鉄コルンブ石
   Mnの多いものをマンガンコルンブ石と呼ぶ。
    黒平のものは”鉄コルンブ石”である。
    鉄コルンブ石
    

(4)モナズ石【Monazite:(Ce,La,T,Th)PO4】
   黒平のモナズ石は、黄褐色〜褐色で樹脂光沢のある柱状結晶で産する。
   下の写真のものも、石友のMさんが黒平で採集し、不明鉱物として鑑定を依頼された
   ものである。
    私は、福島県川辺産の1cmを越える黄褐色・半透明薄板状結晶と京都府大路産の
   10cmの巨晶しかモナズ石は採集したことがなく、「日本希元素鉱物」や「図鑑」と
   首っ引きで、消去法でモナズ石と判定しました。
   黒平のモナズ石は、「朝鮮成歓砂金地」産のものと似た結晶と思われます。
        
      黒平【採集・撮影Mさん】           川辺          大路
                   日本各地のモナズ石

(5)チンワルド雲母【KLiFeAl(Si3Al)O10(OH)2】
   鱗雲母と鉄リチア雲母の中間種で、淡褐色の六角板状の集合体で産する。
   希元素鉱物の道案内をしてくれる鉱物である。
   下の写真のものは、天河石【Amazonite】の上に、結晶したものである。
    チンワルド雲母

(6)ガドリン石【Gadolinite:Fe(Y)2Be2(Si2O10)】
    柱状結晶で、外側は光沢のある灰褐色を示し、断口は緑色半透明の小さな塊状集合を示す。
   周辺の長石の中にも、緑色半透明の小さな塊状のものが見られ、コルンブ石(?)を伴っている。
    黒平の近く、竹日向産のガドリン石が有名ですが、その結晶図と比較すると
   ”p”,”o”,”b”,”w”面の発達は殆ど見られない。
    ガドリン石に落ち着くまで、燐灰石やジルコンかとも考えたのですが、前者とは
   虫ピンで傷がつかない硬度の違い、後者とは結晶の形で弁別した。

      
          ガドリン石           結晶図【竹日向産】

(7)トパーズ【Topaz:Al2SiO4(F、OH)2】
    無色、半透明の塊状で産する。水晶と違い、縦に条線があり、特有の劈開面を示すので
   慣れれば、鑑定はさほど難しくないのだが、稀産である。
    約20cmの黒平産トパーズが平成13年夏に、東京大学で開催された、「和田鉱物標本展」に
   展示されていたことを記憶されている方も方も多いことでしょう。
    下の標本は、平成元年の5月連休に、次男と3男を連れて、黒平に採集に行った折
   「中澤晶洞」の発見で有名な中澤 和雄氏が来ておられ、採集したばかりのものを
   息子達にと、頂いたものである。
    トパーズ(黄玉)
    

(7)緑柱石【Beryl:Be3Al2Si6O18】
    黒平の緑柱石は、”幻の鉱物”に等しく、青緑色の透明柱状結晶で、アクアマリーン
   呼ぶに相応しい、宝石的な美しさである。
    この標本は、石友のAさんが採集したものを、恵与していただいたものであり、
   山梨県の宝として、保存したいと、考えています。
    緑柱石(アクアマリーン)
   

5.おわりに

(1)黒平では、各種の希元素砿物が産出しています。ただ、産出する場所が限られて
   いる上、その大きさが極めて小さいこともあり、発見されなかったり、見落とされて
   いるものが多いと思われます。
(2)この時期、黒平の沢沿いには「ヤマホタルブクロ」が可憐な花を咲かせています。
   「モリブデン鉛鉱」を産する福井県大野市「仙翁坑」近くで、鉱物が採れなかった代り
   真っ白な「ヤマホタルブクロ」を採集し、自宅の庭に植えた。来年の開花が今から
   楽しみです。

    ヤマホタルブクロ

6.参考文献

1)長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
2)柴田秀賢、須藤俊男:原色鉱物岩石検索図鑑,北隆館,昭和48年
3)益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
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