食い違い水晶

                食い違い水晶

1. 初めに

    ミネラル・ウオッチングの『オフ・シーズン』を迎え、今までHPに書こうと思いながら後
   回しになっていたテーマ(?)を少しずつ、片付けようと思う。
    私のHPには、「○○鉱山の△△石」、というようなスタイルが多い。つまり、ある産地、
   時として骨董市や古本屋で入手した標本や資料について紹介するスタイルだ。

    標本を整理していると、同じような標本を過去に採集(入手)したことを思い出す。そこ
   で、1つの標本をキーにして、過去に入手した標本と産地、産状などを比較してみたい。
   つまり、今はやりの「仕分け」を”横串”でやる試みだ。

    最初に取り上げたのが、『食い違い水晶』(Sheared QUARTZ)だ。ここで、食い違い
   水晶とは、地殻変動などで一度折れた水晶がその後の水晶成長作用の中で接合した
   水晶を指す私の造語だ。

    2007年6月、長野県川上村の甲武信鉱山で『第3松茸水晶ズリ』を開拓したことをHPで
   紹介した。

   ・長野県甲武信鉱山「第3松茸」水晶産地の鉱物
    ( Minerals from Kobushi Mine 3rd Matsutake Vein , Kawakami Village , Nagano Pref. )

    ここは、規模も小さく、堀先生はじめ少数の石友を案内しただけで絶産状態になって
   しまったが、満足のいく「松茸水晶」をいくつか”Our Collection”に加えることができた。
    兵庫県のN夫妻がここで採集した「鋭錐石」の写真を送ってくれ、多様な鉱物が生成
   する環境にあったことがうかがえた。

      
     鋭錐石【採集、撮影:兵庫・N夫妻】

    ここで採集した標本の中に、一度折れた水晶がその後の水晶成長作用の中で接合し
   た、『食い違い水晶』が1本ならず2本もあったのは驚き、と同時に単なる偶然ではなく、
   この地域の広い範囲で地殻変動が起こったことが推測できた。
    その後も注意して採集してみると、「山梨県水晶峠」や「山梨県甲州市黄金沢鉱山」な
   ど、甲武信鉱山近くでも『食い違い水晶』を採集でき、仮説が裏付けられたような気がす
   る。

    ”横串”で標本を見直し・見比べることにより、採集・クリーニング・ラベル付け・保管の
   ステップでは気付かなかったことも教えられ、『1粒で2度美味しい』、オフ・シーズンならでは
   の楽しみになりそうだ。
   ( 2009年12月観察 )

2. 各地の『食い違い水晶』

    長野県、山梨県で採集した『食い違い水晶』を一覧表に示す。

  産  地
  【所在地】
 採集年月 産地の説明     採  集  標  本 備  考
甲武信鉱山
第3松茸ズリ
【長野県川上村】
2007年6月
   〜7月
古い鉱道
(露天掘り?)
のズリ

 
       標本1

松茸水晶

 
       標本2

まりも
(球状白雲母)
入り水晶
水晶峠
【山梨県甲府市】
2007年6月 水晶採掘
のズリ


       標本3
    【左右反転画像】

黄鉄鉱
入り水晶
黄金沢鉱山
【山梨県甲州市】
2009年7月 金採掘(試掘?)
のズリ

 
       標本4

 

3. 食い違い水晶の分析

    現在まで、採集できた標本は3産地、4標本である。数は少ないが、これらを分析して
   みた。

 3.1 作用した力
      水晶が一度折れたとすると、きわめて大きな力が作用した、と考えられる。接合面
     を見ると、隙間が均等になっていて、木の枝を”曲げて”折ったときと違う。
     つ まり、水晶に働いた力は、地質学の”断層”や”しゅう曲”による、ずらそうとする
     ”剪断力”(Shear Force)が働いたことをうかがわせる。

 3.2 接合面に介在する鉱物
      尾平鉱山では、同じような食い違い水晶の接合面には、「方解石/クトナホラ石」が
     介在する、とされている。

      甲武信鉱山第3松茸水晶産地では、大きな「方解石」の塊が出たのを確認したが
     標本1〜4は、石英だけと思われる。
      なぜなら、水晶をクリーニングする際、「塩酸」や「蓚酸」に浸漬したが接合面での
     発泡や溶解などは全く観察できなかった。

4. 食い違い水晶の成因と推理

    どのようにして、『食い違い水晶』ができたのか、次のような疑問が残る。

     @ 大きな力が直接水晶に働いたとしたら、剪断破壊する前に壊れやすい水晶は
        ”粉々(こなごな)”になるはずだが、ほとんど無傷。
     A 折れたときになぜ”バラバラ”にならなかったのか。

    2002年に山梨県早川町の露頭から採集した『くいちがい石』のように、周辺が違う鉱
   物などで封じ込められていた、と考えると納得がいく。

    ・南巨摩郡早川町のくいちがい石
     (Sheared Gravel of Hayakawa Town , Minamikoma County , Yamanashi Pref.)

     @ 水晶の周りに均等に力が作用したので、割れたり、欠けたりしなかった。
     A 折れても、周囲から支えられていれば”バラバラ”にならない。
     B 周囲の鉱物が水晶に比べ風化しやすかったり、すれば”痕跡”が残らない。

5. おわりに

 (1) 『 オフ・シーズン 』 の楽しみ
      千葉に住む3男夫婦の間に生まれた初孫娘のお宮参りと1ケ月定期検診が終わり
     お蔭様で母子ともに順調なのを確認し、ほぼ2ケ月ぶりに山梨に戻った。
      山梨の山々の頂き周辺は真っ白い雪に覆われ、『 オフ・シーズン 』になっている。

      この季節の楽しみがいくつかある。

       @ 産地情報の電子データ化
           全国の石友やHPの愛読者から、産地情報の提供依頼があり、産地の地
          図をベースにした「産地情報」を電子データにまとめはじめた。
           その後依頼があった産地は「万珠鉱山」や「野州鉱山」などで、皆さん”美
          しい”、”珍しい”鉱物には引きつけられるようだ。

            提供した情報をもとに、産地を訪れ、産状を確認でき、標本を採集できた
           グループと産地が良く分からなかったが標本だけは採集できた、といろい
           ろな感想が寄せられている。

       A 産地情報収集と整理
           ミネラル・ウオッチングのシーズン中に入手した鉱物・鉱山関連の文献や
          資料を読破し、産地情報を集積し来春からに備える。
           文献や資料などで、面白いものは逐次HPにアップする予定だ。
        

 (2) 『 一粒で2度おいしい 』
      私が子供だった50年(半世紀!!)以上前、タイトルのようなキャッチコピーで売っ
     ていた菓子メーカがあった。

      今回のページのように、”横串”で標本を見直し・見比べることにより、採集・クリー
     ニング・ラベル付け・保管のステップでは気付かなかったことも教えられ、『1粒で
     2度美味しい』
、オフ・シーズンならではの楽しみになりそうだ。

6. 参考文献

 1) 斎藤 忠:人物叢書 木内 石亭,吉川弘文館,昭和37年
 2) 地団研地学辞典編集委員会編:地学事典,平凡社,昭和45年
 3) 田中 収編著:山梨県 地学のガイド,コロナ社,昭和62年
 4) 益富 壽之助:石・昭和雲根志,白川書院,2002年
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