新潟県糸魚川市ヨシオ沢のひすい

        新潟県糸魚川市ヨシオ沢のひすい

1. 初めに

   秋も深まり、冬の訪れを感じさせる時期になると、荒れる日本海で「ひすい探し」を
  してみたくなる。そんな折、兵庫県の石友・Nさん夫妻が、新潟県糸魚川市周辺での
  ひすい観察を主にした「ミネラルウオッチング」を計画してくれた。
   しかし、今までご一緒したひすい探しで、私達夫婦は”これぞひすい”というものを
  探したことがない。
   今回、2005年に出版された松原先生の「鉱物ウオーキングガイド」にある小滝川上流
  「ヨシオ沢」のひすい採集にトライした。「ヨシオ」ならぬ ”「ダメオ」で元々” と気楽に
  訪れたのが良かったのか、はたまたNさんの奥さんという良き講師に恵まれたせいかは
  定かではないが、はじめて、” これぞひすい ” と呼べるものを採集できた。それは、
  「7.5kgのラベンダーひすい」と「緑色も鮮やかな翠(みどり)ひすい」であった。
   これが、Nさんの奥さんの”ひすい熱” に、さらに火を付けたようで、近いうちに
 「ラベンダー2号」を探しに、再チャレンジを予定しているとのメールをいただいた。
  ” ひすい ” には、縄文時代の昔から人を魅了する力があるのですね。
   案内していただいたNさん夫妻に、厚く御礼申し上げます。
  (2005年11月採集)

2. 産地

   松原先生の「鉱物ウオーキングガイド」に詳しく書かれていますので、詳細は割愛
  します。

    ヨシオ沢付近

3. 産状と採集方法

   小滝川の中流には、「小滝ひすい峡」として、天然記念物に指定された区間があり
  当然ここでは採集ができません。発電所から上流は採集可能とあり、ここで採集します。
   採集方法は、表面採集が主で、”白っぽい”河原の石を丹念に見て回って探します。
  何トンもある巨塊はいくつか目に入るのですが、如何せん大きすぎます。持って帰れる
  手ごろな大きさ、となるとなかなか見つかりません。

    ヒスイの上に腰掛けて”御免なさい”

4. 産出鉱物

 (1)ラベンダーひすい【Lavender Jadeite:NaAlSi2O6】
    ひすいは、ナトリウム(Na)とアルミニウム(Al)という、地球上ではごくありふれた元素を
   含む珪酸塩( シリコン(Si)と酸素(O)が結晶した )鉱物で、「ひすい輝石」と言うのが
   正式な鉱物名である。純粋なひすい輝石は、無色透明である。
    薄紫色したものを一般に”ラベンダーひすい”と呼び慣わしている。”紫色”に着色する
   原因は酸化チタン(TiO2)が0.6〜1%含まれるから、とされている。
    ラベンダーひすいは、青海地区にしか産出しないものだと思われがちですが、地元の
   ひすい愛好家たちは小滝川や姫川でも産出することを昔から知っていたようです。
    今回採集したものは、長さ30cm×幅16cm×高さ12cmで、重さが7.5kg、安定感があり
   ” これぞひすい ” と呼べるものであろう。
    しかも、帰りの歩く距離を考えると、持って帰れる限界に近いものであった。

       
           全体                部分
                 ラベンダーひすい

 (2)翠(みどり)ひすい・オンファス輝石【Green Jadeite/Omphacite:(Na,Ca)(Al,Mg,Fe)Si2O6】
     真っ白いひすい輝石の巨岩には、ところどころラベンダーひすいや緑色ひすいを含む
    ものがあり、そこから採集した。緑色の脈状に走っているのは、ひすい輝石ではなく
    オンファス輝石であるが、ここでは、一般に呼ばれているように”翠ひすい”としておき
    ます。

    翠ひすい【オンファス輝石】

    ひすいといえば、漢字の”翡翠”に入っている”翠”つまり”緑色”をしているものだとの
   永い間思い込んでいた。「緑色に着色するのは、クロムが含まれているからだ」などと
   もっともらしく書かれている本もあるようです。
    緑色の部分は、翡翠輝石ではなくオンファス輝石であるというのが最近の研究で
   解ってきたようです。白色ひすいと緑色ひすいに含まれる元素を分析(定性分析)した
   結果、白色のひすい輝石に比べ緑色のオンファス輝石には、マグネシウム(Mg)
   カルシウム(Ca)そして鉄(Fe)が多く含まれ、オンファス輝石の緑色の原因は、遷移元素の
   1つである、鉄(Fe)であろうと考えられている。

   
           白色ひすい               緑ひすい
         定性分析結果【「とっておきのひすいの話」より引用】

 (3)これら色のついたもの以外に、真っ白いひすいもあります。

5. おわりに

 (1)ヒスイを求めて糸魚川、青海そして宮崎海岸に通って何年になるだろうか。15年を越える
   のではないだろうか。これまで、”これぞ、ヒスイ”というもの自ら探したことがなく、ヒスイとは
   縁がないと、私たち夫婦は思っていた。
    しかし今回、今まで知らなかった産地を初めて訪れ、”これぞ、ヒスイ” をゲットすることが
   できた。
    松原先生様々です。

 (2)化学式のお遊び、と言ってしまえばそれだけだが、ひすい輝石ができる化学反応として
    次の4つが考えられる。@は従来から考えられた曹長石モデル。

   @曹長石モデル
     NaAlSi3O8(曹長石)   →NaAlSi2O6(ひすい輝石)+SiO2(石英)
   A方沸石モデル
     NaAlSi2O6・H2O(方沸石)→NaAlSi2O6(ひすい輝石)+H2O(水)
   Bカスミ石+曹長石モデル
     NaAlSiO4(カスミ石)+NaAlSi3O8(曹長石)→2(NaAlSi2O6)(ひすい輝石)
   Cソーダ沸石モデル
     Na2Al2Si13O10・2H2O(ソーダ沸石)+SiO2(石英)
                        →2(NaAlSi2O6)(ひすい輝石)+2H2O(水)

    カスミ石がどのようなものか分からないが、糸魚川や青海では見つかっていないようです。
   曹長石は巨岩で発見されており、しからば「方沸石」や「ソーダ沸石」など ” ひすいに
   なり損ねた(?)沸石族 ”
 があるのではないか、と考えていた矢先、妻が面白いものを
   発見した。
    これについては、続編で報告したいと考えています。乞うご期待

6. 参考文献

 1)松原 聰:鉱物ウオーキングガイド,丸善株式会社,2005年
 2)宮島 宏:とっておきのひすいの話 増補改訂版,フォッサマグナミュージアム,2004年
 3)松原 聰:日本産鉱物種,鉱物情報,1992年
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