長野県川上村国師ケ岳にペグマタイト鉱物をたずねて











      長野県川上村国師ケ岳にペグマタイト鉱物をたずねて

1. はじめに

    私のHPを見て頂いたのが縁で産地の情報を提供したり、案内して差し上げた人たちと春と秋に
   ミネラル・ウオッチングを開催するようになって、この秋で16年目を迎えた。
    案内した石友に良い思い出と標本を持ち帰っていただくため、産地を選定する上で心がけて
   いるのは次のような点だ。

    1) 新産地
        (再)発見されて間もない新産地は荒れていないので、すばらしい標本を手にしていただ
       ける。
        【古くは栃木県鉛沢の紫水晶、最近では長野県の水晶産地など】
    2) 古典的産地や史跡
        五無斉こと保科百助や長島乙吉先生らが訪れた地で、その足跡と採集鉱物をたどる。
        【長野県落合の「九曜紋」、山梨県竹日向の「ガドリン石」など】
    3) 一度は訪れたい有名産地
        鉱物図鑑に必ずと言ってよいほど標本が載っている有名産地。鉱物種・量ともに豊富な
       ので、”ハズレ”が少ない。
        【長野県川上村甲武信鉱山など】
    4) 丸秘産地
        定宿「湯沼鉱泉」の社長や親しい石友に教えてもらった、一般にはほとんど知られていな
       い、丸秘産地
        【長野県のベスブ石巨晶、長野県の水晶双晶産地など】

    2014年8月下旬、T大生をミネラル・ウオッチングに案内し、湯沼鉱泉に3泊したある日、社長に
   秋のミネラル・ウオッチングの候補にしている「甲武信鉱山の奥のペグマタイト」産地を案内して
   くれるように頼んでおいた。
    9月は、MH農園の秋野菜の種まき・苗の植え付けで忙しかったり、天候が不順だったりして、
   案内してもらったのは10月に入ってからだった。
    昔は車横付けの産地だったが、林道が荒れ果て、車を降りてから40分ほど歩いて産地の入口
   に到着した。この辺りの地質は、花崗岩で山梨県側と似ている。社長と別れて広い範囲を探索し
   て見ると、沢筋には水晶の群晶が落ちていたり、尾根の風化に耐えた部分には大きな石英塊が
   確認できた。
    昼食の後、昔社長が水晶を採集した晶洞の続き掘って、水晶と長石からなる群晶と「鉄明礬石」
   を採集したが皆さんを案内する条件、上の 1)〜4) のどれにも該当せず、秋のミネラル・ウオッ
   チングの目的地は、別な産地に決めた。

    できれば、新産地を探し出したいとがんばってはみたが、”ホームラン”にはならなかった。これ
   からも地道に新しい産地を探し続けるつもりだ。産地を案内してくれた、湯沼鉱泉社長に御礼申し
   上げる。
    ( 2014年10月 採集 )

2. 産地

    長野県川上村はミネラル・ウオッチングの”メッカ”とも呼べる地域だ。古くは武田信玄が金を掘
   ったとされる「梓(あずさ)」や「長尾」金山から「川端下(かわはけ)水晶坑」までの通称”甲武信鉱
   山”と呼ぶ2キロ弱四方の広い範囲に坑道、ズリ、金山遺構が残っている。
    明治時代、保科五無齋も訪れた「赤顔山(あかずらやま:正しくは穴沢)の扁平電気石」。”水晶
   がゴロゴロしている”という表現が決してオーバーでない小川山や西股沢などなど、初心者から
   ベテランまでが楽しめる産地がそこかしこにある。

    
               川上村南東部の鉱物産地
        【○ は産地名で必ずしも場所ではないので要注意】

    私が川上村でミネラル・ウオッチングを楽しむようになって四半世紀(25年)になる。ほとんどの
   地域を回り尽した積もりでも、まだ訪れていないエリアが残っている。
    その一つが、山梨県境にある「国師ケ岳」(2592m)周辺だ。何年か前、湯沼鉱泉社長から、
   「(国師ケ岳に発する)梓川の上流域にペグマタイト脈があって、30年も前に水晶を採って『湯沼
   水晶洞』に飾ってあるが、いいもんだ」、と聞き、気になっていた。

    いつも車を停める甲武信鉱山登山口を横目に見て、悪路の林道を進むと川と呼べるような幅広
   い沢で断ち切られている。ここから林道に沿って2キロも歩くと花崗岩の転石や”ガレ”と呼ぶ真砂
   (マサ)化した露頭が見えてくる。このあたり一帯が産地だ。

    
           先導する湯沼鉱泉社長

    【後日談】
     田中澄江の「花の百名山」に「国師ケ岳=クモイコザクラ(サクラソウ科)」の章がある。国師ケ
    岳は、林道川上牧丘線の大弛(おおだるみ)峠にある大弛小屋から(標高差で)200メートルも
    登って頂上に着く。田中が登ったとき(昭和50年代後半か)、雁坂峠から東破風(はぶ)、西破
    風、木賊(とくさ)、甲武信の稜線をたどって3日目に国師ケ岳に着いた若い娘の一団に出会い
    その体力を羨まし思ったと記している。この本の地図にある、「国師のタル」から北西に伸び
    る尾根が産地だ。

      * 「タル」とは中くぼみの地形を示す。大弛峠の「ダルミ(だるみ)」も似たような言葉で、垂
        れているという意味。山の稜線が垂れていることを示す。両者とも山の鞍部を指す。
         「コル」も鞍部をさし、英語の "col" が語源。

     ちなみに、「クモイコザクラ(雲居小桜)」の花の時期はとうに過ぎ、株は見つけることができな
    かった。

     
       「クモイコザクラ(雲居小桜)」
        【「花の百名山」より引用】

3. 産状と採集方法

    この辺りの地質は、花崗岩で山梨県側と似ている。社長と別れて広い範囲を探索して見ると、
   林道をつくるときに削った法面(のりめん)には花崗岩が真砂化した露頭が見られ、尾根の風化に
   耐えた部分には見えている部分だけでも1メートルを超える大きな石英塊が何箇所かで確認でき
   た。石英塊を叩いてみたが、空隙はあるものの、”多形(たけい”石英で、きれいな自形結晶(水
   晶)は見当たらなかった。

       
               ガレ                            石英塊

    沢筋には水晶の群晶が転がっていたが、表土が厚く被(かぶ)っていて、その出所(=晶洞)を
   突き止めることはできなかった。

    
              水晶群晶
               【転石】

    結局、昔社長が水晶を採集した晶洞の続きをハンマー、タガネ、熊手、バールを総動員して掘り
   進み、ペグマタイト鉱物を採集した。

    
                晶洞

4. 産出鉱物

 (1) 水晶/石英【QUARTZ:SiO2
      アプライト(優白色花崗岩)の晶洞部分に、カリ長石の上に水晶が成長している。大きさは、
     最大でも1センチと小さなものだが、透明感が高く美しい。ほかの水晶産地なら持ち帰らない
     代物だ。

    
               水晶

 (2) 微斜長石【MICROCLINE:KAlSi3O8
      晶洞の壁面に微斜長石がビッシリ結晶している。結晶の大きさは最大でも5ミリ程度だが、
     短柱状、白色で表面はガラス光沢があり美しい。
      加藤先生の「造岩鉱物」には、『(カリ長石系鉱物の)「玻璃長石」、「正長石」、「微斜長石」
     は同質三像関係にあり、玻璃長石・正長石・微斜長石の順に高温〜低温で安定になる。』、と
     ある。

    
               微斜長石

 (3) 鉄明礬石【JAROSITE:KFe3+S3(SO4)2(OH)6
      黄褐色、皮膜状で水晶やカリ長石の表面を覆っている。加藤先生の「二次鉱物読本」に『 花
     崗岩質ペグマタイト中に、最末期産物として生成される 』
とある産状そのものだ。”鍾乳石”状
     で水晶を覆い、長石→水晶→鉄明礬石 の順に生成したことを示している。

         
                 全体                            部分
                               鉄明礬石

5. おわりに

 5.1 川上村の秋
      川上村を訪れるのは、8月下旬のT大地学巡検以来だった。9時前に川上村に入ると気温は
     14℃しかなく、甲府市内より5℃くらい低かった。

      
                川上村の気温

      湯沼鉱泉のお姐さんの話では、「朝夕は10℃を切る」こともあるようで、『秋のミネラル・ウオ
     ッチング』の頃には、氷点下になることも予想される。暖かい服装で、お会いしましょう。

 5.2 MH農園の秋
      全国的には収穫の秋を迎えている。昨年、特Aに選ばれた「梨北米(りほくまい)コシヒカリ」
     の新米が売り出されたので早速購入した。新米は水分が多いので妻が水を控えて炊いたにも
     かかわらず軟らかすぎ、硬めが好きな私の舌には不味かった。水加減を調節すること4回目に
     してようやく美味しいご飯が炊き上がった。

      初夏に庭の梅の木から採って漬けた梅干がようやく食べられるようになった。真っ白いご飯と
     梅干、日本人の知恵が詰まっている。今週末、幼稚園の運動会があるので、梅干が大好きな
     孫娘(嫁さん?)のリクエストにあった自家製梅干も持っていくことにした。

      
                 自家製梅干
             【大きさを500円玉と比べて】

      さて、収穫の秋とは言っても甲府盆地は全国一位の気温を記録する日もあり、MH農園では
     「トマト」、「ナス」、「キュウリ」など夏野菜の収穫が続いている。畑の縁(へり)に植えたイチジ
     クの木がたわわに実を付け、よく熟したものは”天然のジャム”だ。

      
             イチジク(無花果)の果実

      とはいえ甲府盆地の秋は短い。正月用の野菜の種を蒔いたり、自宅の苗床で育てた苗を植
     えたり、ニンニクの鱗片を植えたりと、気になっている農作業は今週でやり終えた。
      こうして、『秋のミネラル・ウオッチング』の準備は着々と進んでいる。

      
           秋の農作業を終えたMH農園

6. 参考文献

 1) 田中 澄江:花の百名山,文芸春秋,1983年
 2) 加藤 昭:二次鉱物読本,関東鉱物同好会,1998年
 3) 加藤 昭:二次鉱物読本,関東鉱物同好会,2009年
 4) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年



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