山梨県黄金沢鉱山の「自然金」

          山梨県黄金沢鉱山の「自然金」

1. 初めに

   私のHPの読者・山形県のIさんから、「山梨県・埼玉県・長野県の産地を案内して欲しい」
  とメールをいただいたのは、2009年7月だった。埼玉県の産地は詳しくないので、山梨県と
  長野県の産地を案内することにした。

   初日、Iさんの強い希望で、「甲州市黄金沢鉱山」を案内した。この日、身延町湯之奥金
  山博物館主催の「砂金掘り大会」があり、私がボランティアをしていた関係でIさんと約束の
  場所で会ったのはすでに15時だった。

   Iさんの狙いは当然「洋紅石」を初めとする砒酸塩鉱物だが、産地に着くころに雷が鳴り
  出し、雨もポツポツ落ち始め薄暗く、ルーペを使ってのミネラル・ウオッチングにとって最悪
  のコンディションだった。

   それでも、Iさんはいくつか「洋紅石」らしきものを確保でき、その日の宿・湯沼鉱泉で採集
  品を洗ったところ、確かな「洋紅石」がいくつかあり、満足いただけたようだ。

   私の方は、「洋紅石」は全くなかったが、方鉛鉱などがきているズリ石を叩くと、真っ黒い
  閃亜鉛鉱の中に、『薄板状の自然金』があった。”黄金沢”、の名の通り、金を目的に採掘
  したのだろうが、この産地の自然金を今まで目にしたことがなかっただけに、大満足である。

   今回も、『情け(親切)は、人の為ならず』採集行、となり、同行いただいたIさんに厚く御礼
  申し上げる。
   ( 2009年8月採集 )

2. 産地

    産地は、「氷長石(ひょうちょうせき、こおりちょうせき)の産地として有名な、山梨県
   甲州市(旧塩山市)平澤の近くで、すでに学会発表もされている有名な場所なので
   詳細は割愛する。

      黄金沢鉱山跡【2009年8月】

3. 産状と採集方法

   この一帯にあった鉱山のうち、「鈴庫鉱山」と「朝日鉱山」については「日本鉱産誌」に
  その盛衰が記されている。
   「鈴庫鉱山」は、黒雲母花崗岩中の金銀石英脈で、方鉛鉱、硫砒鉄鉱、黄銅鉱、黄
  鉄鉱、閃亜鉛鉱などを採掘していたが、1950年には休山していた。
   日本では珍しい花崗岩中の低温生成の鉱脈である。
   「日本鉱山総覧」によれば、昭和10年、「鈴庫鉱山」を宮部武雄氏が稼行し、この年
  金鉱368tを産出、準重要鉱山に名を連ね、従業員は45名であった。
   同じ年、隣接鉱区の「朝日鉱山」を谷口乙蔵氏ほかが稼行し、金鉱を83t産出した。
  後に、両鉱区とも日本鉱業(株)の手に移り、改めて「鈴庫鉱山」と命名し稼行したが
  その後衰え、普通鉱山となり、上記のように戦後間もなく休山した。

   黄金沢鉱山も鈴庫鉱山や朝日鉱山と同時期に試掘や小規模な採掘が行われたようだ。
  付近にコンクリートで塗り固められたり、崩落した坑道跡が見られて、その前にズリが残さ
  れている。

   「洋紅石」で有名になったズリは、廃石の量も少なく、試掘程度で終わったものと考え
  られる。

   山土や落ち葉に埋もれたズリ石を掘り出して、割り、割れ口をルーペで観察すると
  ”カーマイン・レッド”の「洋紅石」のほか、「ミメット鉱」「ビューダン石」などの砒酸塩2次
  鉱物や「車骨鉱」、「毛鉱」などの硫化鉱物が観察できることがある。ただ、この産地は
  東京から近いこともあり、大勢が訪れ、叩くような大きなズリ石はほとんどない。

4. 産出鉱物

 鉱 物 名
 (英語名)
化学式  説    明採  集  標  本 備  考
自然金
 (GOLD)
Au  真っ黒い「鉄閃亜鉛鉱」の
塊の中に、薄板状の
自然金がいく筋か観察
できる。

        拡大


      全体【横 4cm】

 「閃亜鉛鉱に伴う自然金」
といえば、埼玉県秩父鉱山
大黒坑のものが有名だ。

 秩父鉱山から直線距離で
30kmしか離れていない。
 「車骨鉱」「ブーランジェ鉱」
など産出する鉱物種も似ていて
鉱床学的に共通点がある
ようだ。

5. おわりに

 (1) 山梨の自然金
      2009年7月に訪れたときに、「この産地は、東京から近いこともあり大勢の人が訪れ
     ズリは綺麗に掃き清めたかのようで、叩くべき石が見当たらなかった」、と書いた。
      産地の状況は、悪くなることはあっても良くなっていない。それでも、小さなズリ石
     だが、「自然金」を確認できた。

      山梨県のこの場所に、金を掘った鉱山があったことを実感でき、貴重な標本を手に
     することができ、同行いただいたIさんに感謝している。

 (2) 大弛峠越え
      大弛峠を越えてこの日の宿・長野県湯沼鉱泉に向った。山梨県側は全面舗装され
     快適な山岳ドライブが楽しめるのだが、長野県側の悪路に、慎重な運転のIさんは
     苦戦したようだ。
      ( 私の車は車高が高く、ほとんど路面を気にしないで走れる )

      湯沼鉱泉に着いたのは暗くなりかけた19時だった。社長は「来ないかと思った」、と
     言いながら、お姐さんそして”モコモコ”の川上犬と共に歓迎してくれた。
      標高1,300m余り、クーラーがいらない湯沼鉱泉で、お姐さんの美味しい料理をビー
     ルを飲みながらいただくと、この日の下界の暑さと疲れを忘れることができた。

      翌日の、「甲武信鉱山案内記」は、近々報告したい。

6. 参考文献

 1) 澤田久雄:日本鉱山総覧,日本書房,昭和15年
 2) 日本鉱産誌編纂委員会:日本鉱産誌 T−a  主として金属原料となる鉱石
                   東京地学協会,昭和30年
 3) 加藤 昭:硫化鉱物読本,関東鉱物同好会,1999年
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