山梨県黄金沢鉱山の水晶

            山梨県黄金沢鉱山の水晶

1. 初めに

   私のHPを見て頂き、産地の情報を提供したり、案内して差し上げた人たちと年に数回
  ミネラル・ウオッチングを開催するようになって9年目を迎えた。
   ちょうど1年前の2008年6月、山梨県甲州市(旧塩山市)の黄金沢鉱山はじめいくつかの
  産地を延べ48名の皆さんと訪れた。

   黄金沢鉱山、とりわけ”カーマイン・レッド”の『洋紅石』を目当てに参加された方々も多か
  た。帰宅後、標本整理・写真撮影された何人かから、写真を送っていただき、黄金沢
  鉱山の代表的な鉱物の『洋紅石』『ミメット鉱』をシッカリ採集された参加者も多かった。

         
            洋紅石              ミメット鉱
       【採集、撮影:愛知Tさん】    【採集、撮影:大阪Oさん】

   色鮮やかで、まさに、”カーマイン・レッド””アップル・グリーン”の競演である。

   一方、このような色鮮やかな鉱物と違ったものを採集された方もおられた。
   滋賀の石友・Nさんから、ミネラル・ウオッチングの1週間ほどして、次のようなメールをいた
  だいた。

    『 洋紅石一個と顕微鏡サイズながら車骨鉱が二個出てきました。まさか車骨鉱が
     自己採集出来るとは思っていなかったので大変感激しています。          』

   あれから1年あまりが経ち、産地のフォローアップを兼ねて妻と2人で訪れた。最近は
  訪れる石人もないのか、ズリは掘り返された気配もなく、以前と同じ静かなたたずまい
  に戻っていた。

   「 水晶がある!! 」、と妻が言うので近づいてみるとある範囲に水晶がポツポツと
  落ちていた。他の産地なら持って帰らないような大きさのものだったが、山梨県の産地の
  水晶なので持ち帰った。
   私は、この産地の目玉の「洋紅石」と「車骨鉱」が採集でき、『 古泉に水枯【涸】れず 』
  を実感した。
   ( 2009年7月採集 )

2. 産地

    産地は、「氷長石(ひょうちょうせき、こおりちょうせき)の産地として有名な、山梨県
   甲州市(旧塩山市)平澤の近くで、すでに学会発表もされている有名な場所なので
   詳細は割愛する。

      黄金沢鉱山跡【2009年7月】

3. 産状と採集方法

   この一帯にあった鉱山のうち、「鈴庫鉱山」と「朝日鉱山」については「日本鉱産誌」に
  その盛衰が記されている。
   「鈴庫鉱山」は、黒雲母花崗岩中の金銀石英脈で、方鉛鉱、硫砒鉄鉱、黄銅鉱、黄
  鉄鉱、閃亜鉛鉱などを採掘していたが、1950年には休山していた。
   日本では珍しい花崗岩中の低温生成の鉱脈である。
   「日本鉱山総覧」によれば、昭和10年、「鈴庫鉱山」を宮部武雄氏が稼行し、この年
  金鉱368tを産出、準重要鉱山に名を連ね、従業員は45名であった。
   同じ年、隣接鉱区の「朝日鉱山」を谷口乙蔵氏ほかが稼行し、金鉱を83t産出した。
   後に、両鉱区とも日本鉱業(株)の手に移り、改めて「鈴庫鉱山」と命名し稼行したが
   その後衰え、普通鉱山となり、上記のように戦後間もなく休山した。

   単身赴任先に鉱山関係の書籍を持ってきていないので調べられずにいるが、黄金沢
  鉱山も鈴庫鉱山や朝日鉱山と同時期に試掘や小規模な採掘が行われたようだ。付近
  にコンクリートで塗り固められたり、崩落した坑道跡が見られて、その前にズリが残され
  ている。

   「洋紅石」で有名になったズリは、廃石の量も少なく、試掘程度で終わったものと考え
  られる。

   山土や落ち葉に埋もれたズリ石を掘り出して、割り、割れ口をルーペで観察すると
  ”カーマイン・レッド”の「洋紅石」のほか、「ミメット鉱」「ビューダン石」などの砒酸塩2次
  鉱物や「車骨鉱」、「毛鉱」などの硫化鉱物が観察できることがある。ただ、この産地は
  東京から近いこともあり、大勢が訪れ、叩くような大きなズリ石はほとんどない。

4. 産出鉱物

 鉱 物 名
 (英語名)
化 学 式  説    明採  集  標  本 備  考
 水晶
 (QUARTZ)
SiO2  結晶を上から見ると、
ベンツ・マークのような
ものが多い。
 3面の成長速度が大き
かったことを示している。

 折れた面を見ると
その後水晶がが再成長
した跡がみられる。

 これは、次のようなことが
過去に過去に起こったことを
暗示している。

 @ 水晶ができた後に
   水晶が折れるような
   地殻変動があった。
 A 折れた面に結晶を
   成長させる珪酸分に富んだ
   熱水が何回か浸入した。

 その極め付きが、「接着水晶」
だろう。

 折れた水晶の折れ目に
珪酸分が浸入し、”ノリ”の
役割を果たし、接着された。

   
        上から


     再成長した折れ口

   
     折れ口が接着した

 水晶は、ズリの特定の
範囲に見られる。
 大きさは最大30mmの
ものが観察できた。

 綺麗な、あるいは大きな
水晶好みの方にとって
魅力は??

 車骨鉱
 (BOURNONITE)
CuPbSbS3  新鮮なものは、
鋼灰色、ピカピカの
金属光沢(鏡面)を示すが
表面が酸化すると鈍い
灰黒色に変化する。
 双晶をなし、歯車の
ようにみえるところから
『車骨(歯車)』鉱と
名づけられた、という
説がある。

 ズリに落ちていた
洋紅石
 (CARMINITE)
PbFe3+2
(AsO4)2(OH)2
 いわゆる”カーマイン・
レッド”と呼ばれる
”真紅”の小さな錐状
結晶が集合した状態で
産出する。

 1時間ほどの採集で
発見できたのは1個体
(割ったので標本は2つ)
のみ

 

ミメット鉱
 (MIMETITE)
Pb5(AsO4)3Cl  黄褐色・半透明〜白色
の針状結晶が放射状に
集合した状態で産出する。

青緑色球状のスコロド石
【SCORODITE:
 Fe3+AsO4・2H2O】や
赤黄色のビューダン石
【BEUDANTITE:PbFe3+
(AsO4)(SO4)(OH)6】も共生


 

5. おわりに

 (1) 『 古泉に水枯【涸】れず 』
     この産地は、東京から近いこともあり大勢の人が訪れ、ズリは綺麗に掃き清めた
    かのように、叩くべき石が見当たらなかった。
     それでも、小さなズリ石に、「車骨鉱」が入ったものや「洋紅石」を含むものなどが
    あって、諺(自作)は生きているようだ。

     水晶も大きくはなく、特別なものではないが、山梨県の産地の水晶ということで
    ”Our Collection”に仲間入りした。

6. 参考文献

 1) 澤田久雄:日本鉱山総覧,日本書房,昭和15年
 2) 伊藤 貞市、桜井 欽一:日本鉱物誌 第3版上,中文館書店,1947年
 3) 日本鉱産誌編纂委員会:日本鉱産誌 T−a  主として金属原料となる鉱石
                   東京地学協会,昭和30年
 4) 柴田 秀賢、須藤 俊男:原色鉱物岩石検索図鑑,北隆館,昭和39年
 5) 地学辞典編集委員会編:地学辞典:平凡社,昭和45年
 6) 加藤 昭:硫化鉱物読本,関東鉱物同好会,1999年
 7) 松原 聰、宮津 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2003年
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