第1日目・・・・・・・甲州市黄金沢鉱山、鈴庫鉱山、平澤
古典的産地と新産地
第2日目・・・・・・・川端下、梓(甲武信)鉱山
鉱物の宝庫、2008年に湯沼鉱泉社長が開拓した新産地も巡検
黄金沢鉱山、とりわけ”カーマイン・レッド”の『洋紅石』を目当てに参加された方々も多か
た。帰宅後、標本整理・写真撮影された何人かから、写真を送っていただき、一部はすでに
HPに掲載した。
黄金沢鉱山の代表的な鉱物といえば、『洋紅石』と『ミメット鉱』だろう。
色鮮やかで、まさに、”カーマイン・レッド”と”アップル・グリーン”の競演である。
一方、このような色鮮やかな鉱物と違ったものを採集された方もおられた。
滋賀の石友・Nさんから、ミネラル・ウオッチングの1週間ほどして、次のようなメールをいた
だいた。
『 洋紅石一個と顕微鏡サイズながら車骨鉱が二個出てきました。まさか車骨鉱が
自己採集出来るとは思っていなかったので大変感激しています。 』
さらに2週間ほどして、新たな報告をいただいた。
『 黄金沢の鉱物ですが、その後、白鉛鉱・毛鉱・ビューダン石・ミメット鉱・スコロド石
を確認することができました、青色の不明鉱物もあるのですが何でしょうね。 』
最近出版された松原、加藤先生の「鉱物採集ガイド」の鈴庫鉱山の章を読むと、『車骨鉱』
『ブーランジェ鉱』なども採集できるとあるが、それまでお目にかかっていなかった。
同じような鉱床の黄金沢鉱山でも採集できるのでは、とは思っていた通り、『車骨鉱』を
6月のミネラルウオッチングで採集したのは既報の通りである。
Nさんが『毛鉱』を採集していたと聞き、私も採集品をジックリ調べてみると、『あった!!』
細かい針状結晶が集合した『毛鉱』だ。
しかし、『毛状をしたブーランジェ鉱』を『毛鉱』と誤る例が多いようだ。結局”甘茶”の
私は、加藤、松原先生の「鉱物観察ガイド」にあるように、「共存鉱物」から『毛鉱』と
判断せざるを得なかった。
( 2008年7月採集 )
単身赴任先に鉱山関係の書籍を持ってきていないので調べられずにいるが、黄金沢
鉱山も鈴庫鉱山や朝日鉱山と同時期に試掘や小規模な採掘が行われたようだ。付近
にコンクリートで塗り固められたり、崩落した坑道跡が見られて、その前にズリが残され
ている。
「洋紅石」で有名になったズリは、廃石の量も少なく、試掘程度で終わったものと考え
られる。
山土や落ち葉に埋もれたズリ石を掘り出して、割り、割れ口をルーペで観察すると
”カーマイン・レッド”の「洋紅石」のほか、「ミメット鉱」「ビューダン石」などの砒酸塩2次
鉱物や「車骨鉱」、「毛鉱」などの硫化鉱物が観察できることがある。ただ、この産地は
東京から近いこともあり、大勢が訪れ、叩くズリ石が少なくなっている。
鉱 物 名 (英語名) | 化 学 式 | 説 明 | 採 集 標 本 | 備 考 | 車骨鉱 (BOURNONITE) | CuPbSbS3 |
新鮮なものは、鋼灰色、ピカピカの 金属光沢(鏡面)を示すが、表面が 酸化すると鈍い灰黒色に変化する。 双晶をなし、歯車の ようにみえるところから 『車骨(歯車)』鉱と 名づけられた、という 説がある。 |
2008年6月採集
| 毛鉱 (JAMESONITE) | Pb4FeSb6S14 |
毛状、鉛灰色金属l光沢 黄鉄鉱と共生するので ”毛鉱”と判断 |
|
最近、改めていろいろな鉱物図鑑や鉱物誌を読み直すと、車骨鉱の結晶の形の
表現として次のようにいくつかあることがわかった。
表現 | 出典 | 著者 | 備 考 | 歯車状 | 日本鉱物誌 第3版上 | 伊藤 貞市・桜井 欽一 | 1947年 | 十字形または車骨形 | 原色鉱物岩石検索図鑑 | 柴田 秀賢・須藤 俊男 | 昭和39年 | 車軸状 | 地学辞典 | 編集委員会編 | 昭和45年 | 車輪状 | 日本の鉱物 | 松原 聡 | 2003年 |
”車輪”と言えば、丸いものだし、”車軸”は”心棒”のことで、これも丸いし、やはり
”歯車”状と言うのが、一番ピッタリの表現だろう。下の”歯車”の写真の一部と
2007年に採集したものは、よく似ていると思う。
歯車【車骨】
精密機械を専攻した私にとって歯車は身近な部品なので、それに似た「車骨鉱」
は何とか自分で採集してみたい鉱物の1つだった。
『車骨鉱』、と言えば秩父鉱山で、石友・Mさんと2002年ごろ何度か通い、いくつか
採集したが、明らかな”歯車状”のものはなかった。
2007年、初めて黄金沢鉱山を訪れ、これぞ「車骨鉱」と呼べるような標本を採集
でき、地元山梨県で立派なものがあるのを知り、”灯台下暗し”を実感すると同時に
地元の産地を丹念に探査する大切さを教えられた。
(2) 『ブーランジェ鉱』と『毛鉱』の肉眼鑑定
私が知っている”毛状、鋼黒色〜白銀色”で産出する鉱物は、『ティンティナ鉱』
『ベルチェ鉱』、『ブーランジェ鉱』そして『毛鉱』などがある。なぜか、アンチモニー
(Sb)を含むものが多い。
黄金沢鉱山で産出するのは、『毛鉱』か『ブーランジェ鉱』だろう、と勝手に絞り
込んだ。
この2つの鑑定について、最近出版された「鉱物観察ガイド」には、次のように
書かれている。
『 ・・・方鉛鉱など鉛が多い環境にはブーランジェ鉱が、黄鉄鉱などがあるか
方鉛鉱が少なく他のアンチモン鉱物があるような環境では毛鉱が産出しやすい
ような傾向が読み取れる 』
その一方、加藤先生の「硫化鉱物読本」には、次のようにある。
『 両者を産する秩父鉱山(埼玉)でも、共存鉱物や産状だけでの識別は困難
でした 』
これらを読むと、『毛状をしたブーランジェ鉱』を『毛鉱』と誤る例が多いようだ。
結局”甘茶”の私は、加藤、松原先生の「鉱物観察ガイド」にあるように、「共存鉱
物」から『毛鉱』と判断せざるを得なかった。