山梨県甲府市で水晶探し −その2−







           山梨県甲府市で水晶探し −その2−

1. 初めに

    2011年7月、HPの読者のSさんから、「友人・Aさんと2人を山梨県の水晶産地を案内し
   て欲しい」、とのメールをいただいた。仕事は忙しいのだが、何とか目鼻もつき、お盆休み
   は人並みに休むことにし、休みの2日目に案内する事にした。

    Sさん、Aさんと昇仙峡の駐車場で落ち合った。Sさんとは、メールを何回か交換したことは
   あったが、お会いするのは初めてだった。早い時間だったにもかかわらず行楽客の車が
   多かったがお互い観光客には見えない服装なので、すぐに識別できた。
    初対面の挨拶の後、途中から道が悪くなるので、私の車(正確には、妻の車)に乗って
   いただいた。
    駐車スペースに車を止め、夏のMW行で恒例になっている「スイカ」を手が切れるように
   冷たい沢水に漬けておく。
    沢筋を上流に進むと、点々と石英や長石のカケラや露頭にはカラッポだが晶洞が見え始
   め、産地が近いことを教えてくれる。

    歩き始めて小一時間、青緑色の長石が落ちている。「天河石(アマゾナイト)」だ。急な斜
   面を登り切ると、この日の最初のポイントのガレ場だ。この日は快晴で、真夏の強い日差し
   が肌にチクチクするほど痛い。ガレ場の真っ白いマサから反射する光で上下からコンガリと
   焼かれてしまいそうだ。

      ガレ場

    広いガレ場に散らばって晶洞を探すことにする。始めて間もなく、私の掘った場所に小さ
   いながら晶洞が姿を現した。2人を呼んで、レクチュアする。続きを2人に任せて晶洞の中
   の長石や水晶を回収してもらい、お土産として持ち帰ってもらう。
    間もなく、レクチュアが功を奏したのか、Sさんが自力で晶洞を開けた。水晶や長石がぎっ
   しり詰まっている。長石の表面はこの産地特有のガラス光沢で”ツヤツヤ”しているのがSさ
   んにとって魅力のようだ。

      「お初ガマ」に喜色満面のSさん

    2時間ほど晶洞探しを楽しんで、昼食を食べ、更に沢の奥に進む。かなりの急傾斜だ。
   露頭に大きな穴が掘りこまれている場所の周辺で、2人は晶洞、私はズリの土砂をパン
   ニングして「希元素鉱物」探しだ。採集した「苗木石(変種ジルコン)」も2人のお土産だ。

    別なガレ場を探索すると水晶や長石の大きなカケラはあるが完形品は見つけられず、
   2人の疲労も考え、少し早めに下山する事にした。
    駐車場に戻り、沢水に冷やしておいたスイカをパンニング皿の上で切り分け、持参した
   塩を振りかけて食べると元気が回復した。

      パンニング皿の上で切り分けたスイカ

    産地を後にする前にAさんのカメラで記念写真。立木が三脚代わりなので、フレームが
   斜めになっているのは御愛嬌。

      一行3人【撮影:Aさん】

    帰宅後、Sさんからお礼のメールを頂いた。

    『  ・・・・・・,懇切丁寧に指導していただいたおかげで,充実した採取行になりました。
      改めて御礼申し上げます。
       今回の採取行で改めて「石」の魅力と採取の難しさを思い知らされると共に,自分達
      の未熟さも知ることが出来ました。もう少し,足腰を鍛え,目を養わなければなら無さ
      そうです…。
       得られた経験や教えていただいた知識は,何物にも変えがたいものであり,今後に
      生かせるよう,努力していきたいと思っております。
       今まで手探り状態であった採取に,何かはっきりとした道筋が見えた気がしたのも,
      今回の採取行の大きな成果と考えております。お邪魔でなければ,涼しくなった頃に
      でもまたご一緒していただけると幸いです。
       次にお会い出来るまでにはもう少し鍛え上げておきますので…。           』

     Sさんも、『ガマ(晶洞)出し』のプロセスと標本の魅力に気付いた1人のようだ。
     ( 2011年8月 採集 )

2. 産地

    甲府市北部の水晶で有名な場所の1つなので詳細は割愛する。

3. 産状と採集方法

 3.1 産状
     甲府市北部の水晶産地は、約1,200万年前の地質活動で生まれた御岳花崗岩系の岩
    石を伴っている。

     ガレ場のマサ砂の上に水晶が”コロン”と落ちていることもあり、運が良ければ拾える
    こともあるのだが、良品を手にしようとすると、ガレ場とその周辺の露頭で晶洞(ガマ)を
    開けての採集が基本になる。

     したがって、晶洞(ガマ)がどのようなところに来るのかを知っているかいないかで成果が
    大きく変わる。

 3.2 晶洞探し

        
        @兆候をつかむ       Aガマを開ける        B慎重に取り出す

    @ 兆候をつかむ
        ガマは、石英や長石が混じった、いわゆる『文象(もんしょう)花崗岩』に
       囲まれている。
        文象花崗岩は回りの花崗岩よりも風化に強く、ガレ場でも飛び出している
       いるように見える。
        これが、晶洞の始まりである場合、終りである場合、そして単なる脈である
       ケースがある。
        始まりであることを信じて(祈って?)、タガネとハンマで叩く。

    A ガマを開ける
        ガマの始まりは、10円玉程度の穴に見えることが多い。ラグビーボールでも
       床に接している面積(広さ)は、500円玉程度であることと同じだ。
        広がりがありそうなガマ、と判断したら、手前側から回りを崩していく。
        ( 穴を広げるイメージ )
        このときには、バールが活躍する。テコの原理で、人間の力の10倍以上の
       力が働き、堅い晶洞壁もバリバリ割れる。

    B 慎重に内臓物を取り出す
        ガマの中には、ガマ粘土が積もり、その中に晶洞から脱落した水晶や長石
       の素晴らしい結晶が埋もれていることが多い。
        こうなると、ドライバー(1番ウッドではなく、先端がマイナスのねじ回し)が
       出番だ。少しずつ、ガマ粘土と一緒に水晶や長石にキズをつけないようかき
       出す。
        晶洞が大きいと、つい素手でかきだそうとし勝ちだが、手指を切るので必
       ず手袋をしてやるべきだ。
        ( 手袋は、革が良いという人もいるが、私はフィット性が良いゴム手だ)

    C 【番外】 ガマ粘土も持ち帰る
       あなたが、トパズなどの「希元素鉱物」に興味がおありなら、ガマ粘土も持ち
      帰るべきだろう。
       以前、ガマ粘土を700ミリリットルほど持ち帰り、自宅で『 精密パンニング 』
      したところ、「苗木石(変種ジルコン)」と「褐簾石」が発見できた。

 3.3 パンニング
      甲府市北部のペグマタイト鉱物は、「苗木石(変種ジルコン)」などの希元素鉱物を
     伴っていることが多い。母岩に付いているものもあるのだが、バラバラに分離して晶洞
     の中のガマ粘土に混入しているものが多いので、これを採集するには、パンニングの
     出番だ。今回訪れた産地は標高1500mを越える高い場所にもかかわらず、誰かが掘
     りこんだ跡に雨水が溜まりパンニングできる環境が整っていたので現地でパンニングを
     試みた。
      (以前は、土砂を「土嚢袋」に入れて、担いで下りて、水のあるところでパンニングした。)

       
               掘り跡                パンニング
                         希元素鉱物採集

4. 産出鉱物

    今回のタイトルが『・・・・・・水晶探し』、になっているが、私の採集品は、小さな「塊状の
   鉄電気石」と極小の「希元素鉱物」だけだった。

No    鉱物種名
    俗名
  【英名:組成】
  標 本 写 真  備  考
1 鉄電気石
【SCHORL:
NaFe3Al6(BO3)3Si6O18(OH)4
 塊状
2 苗木石/変種ジルコン
【Naegite/ZIRCON:
ZrSiO4
 パンニング採集品

5. おわりに 

 (1) 1ケ月ぶりに山梨県の水晶産地を訪れた。Aさん、Tさんを案内したときと違う場所を案内
    した。
     小さいながらもいくつか晶洞が開き、”晶洞採集の雰囲”はつかんでいただけだいただけ
    たようだ。

     「希元素鉱物」は、結晶が小さいこともあって万人が欲しがるものでもないせいか、10
    年以上前に掘りこまれた跡で今でも採集できる。

     要は、自分が好きな鉱物を決めて探せば、まだまだ採集できる、ということだろう。

6. 参考文献

 1) 長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
 2) 益富 寿之助:鉱物 −やさしい鉱物学− ,保育社,昭和60年
 3) 松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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