山梨県甲府市で水晶探し







             山梨県甲府市で水晶探し

1. 初めに

    2011年5月、長野県の石友・Aさんに地元の産地を案内していただいた。そのお返し、と言
   っては何だが、Aさんが希望した山梨県甲府市の水晶産地を案内した。神奈川の石友・Tさん
   もこの場所に行きたがっていたことを思い出し声を掛け、私の妻も含め4人でのミネラル・ウ
   オッチングになった。

    Tさんと昇仙峡で落ち合い、私たちの車に乗ってもらい、Aさんと「○○○」で合流し、林道を
   進み車から降りた。心配された天気も晴れ間が見えるほどに回復してきた。標高の高いここ
   では市街地の蒸し暑さは全くなく快適なミネラル・ウオッチング日和だ。
    沢筋を上流に進むと、点々と石英のカケラが見え始め、産地が近いことを教えてくれる。夏
   のMW行で恒例になっている「スイカ」を手が切れるように冷たい沢水に漬けておく。

      スイカを冷やす

    歩き始めて小一時間、先頭を行く私の目の前に上品な「薄い煙水晶」が落ちていた。産地
   はこの上のガレ場だ。何年か前に石友・ASさんと開(あ)けた通称「第○中沢晶洞」の下で当
   時の採り残し品を採ってもらう。

    それぞれ、小さいながらも頭付を何本か採集できたようなので、”坊主”のおそれはなくなり
   いよいよ晶洞探しスタートだ!!。Aさんも、Tさんも初挑戦だ。急斜面のガレ場にTさんの腰
   が引けている。妻は、はるか下の方で”ズリ採集”だ。

    30分も経った頃、私の目の前に小さいながら晶洞が姿を現した。Aさん、Tさんに声を掛け
   「晶洞」の様子を見ていただく。
    学習効果があったのか、やがてAさんから「晶洞があった!!」と声が上がる。「晶洞」探し
   の雰囲気はつかんでもらえたようだ。

    ここで昼食を食べ、次のポイントに移動した。「紫水晶」や「希元素鉱物」が採集できたマル
   秘ポイントの1つだ。沢筋のマサの上でAさんが「煙水晶」を発見した。15m離れてもわかる
   マズマズの大きさだ。その近くを探査するようにアドバイスする。

    空を見上げると先ほどまで真っ青だった空が灰黒色の雲に覆われている。その内、”ポツ”
   ”ポツ”と大粒の雨が降り出した。夏の午後に多い”夕立”だ。木の茂みに退避し10分もする
   と小降りになったか、と思ったら前にも増して強い勢いで再び降り始めた。皆さん、雨合羽を
   着こみ木陰で雨宿りしていたが、やむ気配もなく、撤収する事にした。

     雨の中を撤収

    行きしな冷やしておいたスイカを食べ、元気を回復し、駐車場の戻ったのが14時だった。こ
   こでAさんとお別れ。

    Tシャツ姿の私は、雨合羽を着ていないので身体がスッカリ冷えてしまった。荒川ダムサ
   イトの茶店に入り、いろいろな種類の餅を食べながら「甘酒」を飲む。冷えた身体が温まった。
    ここでTさんとお別れし自宅に戻ると雨は降っていない。俗に、『夕立ちは馬の背を分ける』
   の例え通りだ。まだ元気が残っていたので、久しぶりに、畑に行くと草ぼうぼうで、2時間ほど
   格闘し帰宅した。

    ほどなくしてAさん、Tさんからメールを頂いたが、晶洞探しの雰囲気は理解できたが難しい、
   というのが率直な感想のようだ。
    ( 2011年7月 採集 )

2. 産地

    甲府市北部の水晶で有名な場所の1つなので詳細は割愛する。途中でトイレ休憩した
   黒平(くろべら)集落の村社の「手水鉢」には水晶がはめ込まれていて水晶産地ならでは、
   と思わせる。

        
             村社                   手洗鉢
                  水晶縁(ゆかり)の集落

3. 産状と採集方法

    甲府市北部の水晶産地は、約1,200万年前の地質活動で生まれた御嶽花崗岩系の岩石
   を伴っている。
    今回訪れた産地の西側には、第四紀黒富士火山の噴火に伴う輝石安山岩が覆っており、
   その下に御岳花崗岩が隠れているようだ。

    ガレ場のマサ砂の上に水晶が”コロン”と落ちていることもあり、運が良ければ拾えること
   もあるのだが、良品を手にしようとすると、ガレ場とその周辺の露頭で晶洞(ガマ)を開けての
   採集が基本になる。

       
             マサを掘る                  晶洞(ガマ)を探す
                           採集風景

    したがって、晶洞(ガマ)がどのようなところに来るのかを知っているかいないかで成果が
   大きく変わる。

    私が小さいながら晶洞(ガマ)を開け、何本かの松茸水晶を採集した。ここで、AさんとTさん
   に、どのような場所に晶洞(ガマ)がある可能性が高いかを現場でレクチュアさせていただい
   た。

        
        @兆候をつかむ       Aガマを開ける        B慎重に取り出す

    @ 兆候をつかむ
        ガマは、石英や長石が混じった、いわゆる『文象(もんしょう)花崗岩』に
       囲まれている。
        文象花崗岩は回りの花崗岩よりも風化に強く、ガレ場でも飛び出している
       いるように見える。
        これが、晶洞の始まりである場合、終りである場合、そして単なる脈である
       ケースがある。
        始まりであることを信じて(祈って?)、タガネとハンマで叩く。

    A ガマを開ける
        ガマの始まりは、10円玉程度の穴に見えることが多い。ラグビーボールでも
       床に接している面積(広さ)は、500円玉程度であることと同じだ。
        広がりがありそうなガマ、と判断したら、手前側から回りを崩していく。
        ( 穴を広げるイメージ )
        このときには、バールが活躍する。テコの原理で、人間の力の10倍以上の
       力が働き、堅い晶洞壁もバリバリ割れる。

    B 慎重に内臓物を取り出す
        ガマの中には、ガマ粘土が積もり、その中に晶洞から脱落した水晶や長石
       の素晴らしい結晶が埋もれていることが多い。
        こうなると、ドライバー(1番ウッドではなく、先端がマイナスのねじ回し)が
       出番だ。少しずつ、ガマ粘土と一緒に水晶や長石にキズをつけないようかき
       出す。
        晶洞が大きいと、つい素手でかきだそうとし勝ちだが、手指を切るので必
       ず手袋をしてやるべきだ。
        ( 手袋は、革が良いという人もいるが、私はフィット性が良いゴム手だ)

    C 【番外】 ガマ粘土も持ち帰る
       あなたが、トパズなどの「希元素鉱物」に興味がおありなら、ガマ粘土も持ち
      帰るべきだろう。
       以前、ガマ粘土を700ミリリットルほど持ち帰り、自宅で『 精密パンニング 』
      したところ、「苗木石(変種ジルコン)」と「褐簾石」が発見できた。

4. 産出鉱物

    今回、私の採集品は、小さな「松茸水晶」だけだった。

No    鉱物種名
    俗名
  【英名:組成】
  標 本 写 真  備  考
1 石英
松茸水晶
【Scepter Quartz
 /QUARTZ:SiO2
     ここの水晶の多くは
「松茸水晶」になっている
ことが多い

5. おわりに 

 (1) 自宅から1時間エリアのミネラル・ウオッチング
      この産地は、自宅から30kmだった。この間、信号機は1つしかなく、渋滞など
     起きた試しがない。このような近くに、産地が多数ある恵まれた環境にあるのを
     感謝している。

      産地の入り口には、「アヤメ」が可憐な紫の花をつけて佇んでいた。

       アヤメ

 (2) 真夏に甘酒
      この日は暑くなりそうだったのでTシャツ姿で産地を訪れた。突然降り出した雨で
     雨合羽を着ていない私はずぶ濡れになり、標高が高いので雨が冷たく、身体がスッ
     カリ冷えてしまった。
      荒川ダムサイトの茶店に入り、いろいろな種類の餅を食べながら「甘酒」を飲むと
     冷えた身体が芯から温まり、人心地ついた。
      真夏に甘酒を飲むのは初めての経験だったが、Tさんによれば、「昔、甘酒は夏の
     滋養飲料だった」 そうだ。

       
             3色餅                    甘酒

6. 参考文献

 1) 長島 乙吉・弘三:日本希元素鉱物,日本砿物趣味の会,1960年
 2) 益富 寿之助:鉱物 −やさしい鉱物学− ,保育社,昭和60年
 3) 松原 聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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