ミネラル・ウオッチング用語集 その2







         ミネラル・ウオッチング用語集 その2

1. 初めに

    2006年に還暦(満60歳)を迎えた私が、ミネラル・ウオッチング(旧 鉱物採集)を始め
   たのは1985年ごろだった。それ以来、多くの産地を訪れ、大勢の石友にも巡りあった。そ
   れらの方々とは年に数回(中には、十回以上)お会いして、産地を訪れている。 一方
   では、私のHPの「五無斎」が縁で2000年ごろに知り合った千葉・Mさんのように、一度
   も直接お会したことがない、という方もいて、インターネット時代ならではだ。

    産地を訪れる道すがら、採集中、あるいは宿での雑談の中から、”新語”が生まれる
   ことがある。
    それらを、思い出すままに、『ミネラル・ウオッチング用語集』として、書き並べて
   みた。
    単なる、”仲間内の駄洒落”に過ぎないものもあり、”座興”と思って読み流していた
   だければ幸甚である。

    2011年、関東地方のある人から某産地の情報を乞われ、お送りしたところ、私が
   当たり前だと思って使っている「露頭(ろとう)」や「ズリ」が『 具体的に何を意味し
   ているのか判らない 』、とのメールをいただき驚愕した。
    逆の立場で考えれば、私にとって「AKB48」や「KARA」が何を意味するのか、漠
   然としたイメージはあるものの、さりとてあらたまって人に聞くこともできないのと似てい
   るような気がする。

    そんな訳で、『 ミネラル・ウオッチングの基本語 』 をいくつか追加してみた。
   ( 2006年11月編集 2011年1月追補 )

2. 用語集

  用    語         文法・出典         意            味
ズリ休み 「ズル休み」の
鉱物採集行
平日活用
鉱物採集に行くため
休日でない日に会社や
学校を休むこと
 ズリ(鉱山の廃石捨て場)を
掘る目的で行使するのが
正しい用法
ただし、同じ理由は
何回も使えない
真小某大 「針小棒大」の
鉱物採集版
本当(真)は小さい
採集標本が、某氏(嬢)の
話では、大きくなる
【副詞的用例】
「いくらでもある」
「ゴロゴロしている」
【数詞的用例】
「センチオーバー」
「数mmの肉眼サイズですら
稀とされる鉱物の1cmを
超える結晶を採った。
しかも母岩付き!!」
産地横付け 「車横付け」の
鉱物採集版
林道が整備され
狸しか通らない道も
舗装されている
車からものの数分(数十歩)で
到達できる産地が増えた
産地荒廃の原因の1つとされる
長島乙吉氏が秩父鉱山を
探索した時、宿に帰って
”わらじ”を脱ごうとして
底に緑色の柘榴石が
付いているのを見て,
産地を探し出したと
「日本昔話」にある
現金採集 草下先生の
「鉱物採集フィールドガイド」
「現金」で鉱物標本を
手に入れること
以前は、鉱物標本を
購入できる「ミネラル・ショー」は
年に2、3回しかなかったが
21世紀になって、
「ネット・オークション」なる
ものが出現し、毎日が
「現金採集日」になっている
人もいるらしい
『売るために採る』輩が出現し
産地荒廃の原因の1つとされる
ハイエナ採集 「ハイエナはライオンなどが
捕獲した動物の食べ残しを
漁る」のが原義
そこから転じて、先行者や
同行者がズリを掘った
跡や崩した露頭下から
採集すること
「乞食採集」と軽蔑する
人もいるが、考えようでは
最も効率の良い採集法
苔(こけ)にされる 「虚仮(こけ)にする(される)」の
鉱物採集版
「虚仮にする(される)」は
「馬鹿にする(される)」が原義
鉱物採集では、苔類
木の葉、木の実などが目的とする
鉱物に似ていて「ヤッタ!!」と
と一瞬喜び、ぬか喜びに
終わることが多い
緑色の”苔”が緑鉛鉱や
緑柱石に似ていることから
使われ始め、広まった
【具体的用例】
杉の実・・・福井県赤谷の自然砒
広葉樹の落ち葉・・・雨塚山、鉛澤の紫水晶
叩(たた)く 「掘る」「ふるう」と並び
鉱物採集基本動詞の1つ
ハンマで露頭やズリ石を
強打し、目的の鉱物を欠き
取ることをさす
ズリ石の場合、”割る”が
同義語として使われることがある
ハンマの重さは0.9kg
1.8kgなど切りの良くない
数字が使われているが、今から
130年以上昔の文明開化で
欧米から、ヤード・ポンドを
導入した名残
1ポンド(Lbと書く)=0.48kg
掘る 「叩く」「ふるう」と並び
鉱物採集基本動詞の1つ
ズリの土砂を崩したり
穴を掘って鉱物を探すこと
「熊手(くまで)」を使う
ことが多い
熊手には、「千歳飴」の袋に
描かれていた(過去形)
老夫婦のどちらかが持っていた
落ち葉をかき集める竹製のものも
あるが、鉱物採集では役に立たない
鉄製で農作業用のがっちりしたものが
望ましい
潮干狩り用の丸棒を曲げたものは
初心者用
ふるう 「叩く」「掘る」と並び
鉱物採集基本動詞の1つ
ズリや川床の土砂から
道具を用いて目的鉱物を
選別する動作をさす
【大きさで選別する場合】
フルイ・・・・・・トパーズや柘榴石
【比重で選別する場合】
パンニング皿、ゆり板
・・・・・・砂金や希元素鉱物など
比重が石英(2.7)より大きな鉱物向き
最近、パンニング皿の上に
フルイを置いて、1回で
2度楽しむ方法『親亀・小亀作戦』
が山梨・某氏により
考案され、名古屋方面に
広がりはじめている
ミネラル・ウオッチング バードウオッチングの
鉱物採集版
鉱物を意味するミネラルと
観察を意味するウオッチングと
を合成した造語で
山梨・某氏が使い始めた
20世紀までは、「鉱物採集」が使われて
いたが、産地が荒廃し、地元住民の
反発などで、採集や立ち入り
禁止、あるいは持ち出し禁止になる
産地が相ついだ
産地を愛護することを
アピールするための言い換え
語の1つ
某紙に載った「鉱物ウオッチング」も
同義語
バンニング(Banning) 出典不明
 
比重の違いを利用して
目的鉱物を選別することを
さす
 この語の発生については、次の
2説あるが、いずれとも決していない
(1)パンニングの入門語
パンニング(Panning)を始めて間もない
人が使うことが多いからという説
(2)「ゆり板」由来説
日本古来の「ゆり板」を用いた
砂金採集方法が、趣味として
復活の兆しを見せているところ
から、「板」に”-ing”をつけて
”Banning”になったとする説
猿又(さるまた)双晶 男子用下着の
「猿又(パンツ)」に似た形状から
「猿又」に似ている
両方の頭がない日本式双晶の
蔑称
(採れない人の負け惜しみ)
 基本語追補 2011年1月 
露頭(ろとう)に迷う「路頭に迷う」の
ミネラル・ウオッチング版
鉱物を採集できる
ポイントの1つに、
露頭がある。
 露頭とは、地下の岩がむき出しで
露出している場所を示す。
 晶洞の中から、”初だし(うぶだし)”の
頭付き、ピカピカ結晶が採集できる
可能性が高い。
 しかし、どこに「晶洞」があるのかは、
神のみぞ知ることが多く、どこを叩けば
良いのか迷うことが多い様を示す。
辛酸地
(しんさんち)
 鉱物産地を発見する苦労を表わす。
「新産地」の代名詞
 新しく発見した、と言っても
そこはかつて○○鉱山として稼行していた
場所であったり、「△△坑」などと呼ばれ
小規模な試めし掘りがなされた跡であることが
ほとんどである。
 したがって、発見した、というよりも再発見と
呼ぶのが相応しい。
光りもの  宝石鉱物に代表される
”ピカピカ”、”キラキラ”と輝く
鉱物の代名詞
 原義は、現場の鉱山技師たちが
銅鉱、鉛鉱や硫化鉄鉱類を指す
粋(いき)な表現

 近年、「レインボー○○○」に代表される
”光りもの”の1種の奇天烈な鉱物が
もてはやされる時代になっている。

 カラスという鳥(採り)は、光りものが
大好きで、子どもの頃、カラスの巣を
のぞいたら、金属片などのピカピカ光る
ものがたくさんあったのを思い出した。

転石(てんせき)  鉱山(産地)発見のキッカケとなる
転がっている石
 『起承転結』の「転」と同じで、新産地を
追いかけていると、”オヤ?”と思う
場違いともいえる岩石が落ちている
ことがある。

 広辞苑には、「転石は、岩盤から離れて
流水などに押し流された岩石」と
あるらしい。

 新潟県の翡翠のように、川の下流部や
海岸の玉石となっている、遠く押し流された
岩石は「流石」と呼ぶのが相応しく、
転石とは岩盤や鉱脈から離れて山腹や
渓谷に押し出されている(角ばった)石だ、
と昔の山師が書き残している。
 

3. おわりに

 (1) ここで紹介した『用語』は、仲間内で使われ、今でも”健在語”を集めてみた。言葉
    の宿命として、使われなければ消えて行くし、新しく生まれてくるものもある。

 (2) これからも、折に触れ、書き加えて見たいと考えている。面白い用語や判らない言
    葉などがありましたら、お知らせください。
     よろしく、お願い致します。

4. 参考文献

 1) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1986年
 2) 秋葉 安一:岩石をたたいて,北海印刷,昭和62年
inserted by FC2 system