われわれ、鉱物を採集・収集するものにとって、標本をいかに新鮮な状態で
永い間保存するかは、大きな関心事である。
2007年2月、群馬県の茂倉沢鉱山で、「鈴木さん」「長島さん」を探しに行っ
た時、”外道”で、「緑マンガン鉱」を採集した。
割った直後は、鮮やかな緑色だが、何ケ月か後には、真っ黒な2酸化マンガン
に変質してしまう宿命であった。延命措置として、透明マニキュアを塗ろうか、
とも考えたが、最近届いた「ペグマタイト誌」に『ホッカイロを使った藍鉄鉱の
保存方法』という記事があったので、それを試してみることにした。
割った一方をホッカイロを入れた密閉ガラス瓶に収め、他方は比較のため空気
中に保管する実験をスタートし、2週間あまりが過ぎた。
今のところ、緑色の鮮やかさには目立った差が見られないが、今後定期的に
観察し記録を残す予定である。
( 2007年2月作成 )
このように、標本の変質は避けられない。とりわけ保存が難しいとされる
鉱物種は、次のようなものとされている。
鉱物名 (英語名) | 組成(化学式) | 保存の難しさ | 備考・主な産地など | 濁沸石 (LAUMONTITE) | Ca(Al2Si4O12)・4H2O |
結晶内部の水分が なくなり、半透明結晶が 白濁、もろくなり粉末状に 変化する | 山梨・妙法 | オパール (OPAL) | SiO2・H2O |
内部の水分がなくなり 遊色を示すものが 白濁、ひび割れを生じる | 福島県・宝坂 | 藍鉄鉱 (VIVIANITE) | Fe3(PO4)2・8H2O |
空気中の酸素と鉄が反応し 透明・緑色の結晶が 不透明・黒色に変化 メタ藍鉄鉱 | 栃木県・足尾など | 磁硫鉄鉱 (PYRRHOTITE) | Fe1-xS |
空気中の酸素と硫黄が反応し (亜)硫酸となり ボロボロになる | 埼玉県・秩父など | 白鉄鉱 (MARCASITE) | FeS2 |
空気中の酸素と硫黄が反応し (亜)硫酸となり ボロボロになる | 山梨県・宝など | 緑マンガン鉱 (MANGANOSITE) | MnO |
空気中の酸素とマンガンが 反応し、鮮緑色から黒色の 2酸化マンガンに変化 | 群馬県・茂倉沢など |
(1) 鉱物内部の水分が抜ける
(2) 空気中の酸素の影響を受ける
3.1 水分抜けの対策
水分が抜ける問題については、『水中保管』という保存法が古くから知られ
普及していると思われる。
使用する水は、”沸騰水”が良いとか、言われているが、これについては別
な機会に譲りたい。
3.2 酸素除去対策
酸素との接触を断つ方法として、私が知っているのは、次の2つの方法であ
る。
(1) 水中に保管する
(2) マニキュアなど透明な皮膜で覆う
この中の「マニキュア法」は、緑マンガン鉱の保存方法として、私のHPでも
紹介させていただいた。
3.3 使い捨てカイロによる酸素除去法
ここでは、「ペグマタイト」誌に記載された、『密閉容器にホッカイロと一緒
に保管』する方法を紹介させていただく。
(1)方法
「ペグマタイト」の神谷氏の論文1) によれば、保存方法は次のように
極めて簡単である。
『 密閉ガラスビンの底に、使い捨てカイロを敷き、その上に、(マウントに
固定した)「藍鉄鉱」を置く。1年〜3年に一度、ホッカイロを交換し
8年間、新鮮な状態で保管できている 』
(2)理論的裏付け
「ペグマタイト」誌の同じ号で、高田氏が『使い捨てカイロの酸素吸収
能力』と題して、実験を踏まえ、次のようなグラフを添えて、理論的考察を
加えている。
このグラフから、次のようなことが読み取れる。
@ 初期速度は、1時間に440ml(0.45l(リットル))
500mlくらいの容器なら、一時間ほどで酸素を吸収できる。
A 累積吸収能力は、5l
容器の大きさは、最大 5l(リットル)=17cm×17cm×17cm
100円ショップで下記の品を購入、費用合計200円
@ 使い捨てカイロ(小サイズ)
A 広口丸いガラスビン(容量500ml(リットル))
ガラスビンは、コーヒー用クリームの茶色いガラスビンを再利用する手も
あると後で思いついた。
4.2 保存実験方法
@ 使い捨てカイロのビニール包装を破り、中のホッカイロをビンに入れ
る。
A 洗浄・乾燥した標本をその上に置く。
B ビンの蓋をキッチリと閉める。(密封)
C ビンを直射日光の当たらない場所に保管
D 比較用サンプルを蓋の上に置く(環境を合わせる)
今後、定期的に、2つの標本の変質の状況を比較、観察する予定である。
(2)神谷氏の論文には、緑マンガンやキミマンなど、空気中に放置しただけで
変質する酸化速度の速い鉱物にこの方法は向かないかもしれない、との記述
があるが、あえて「緑マンガン鉱」で試してみた。
( 効果の程度が短時間で評価できるメリットがある )
(3) 一口に、「緑マンガン鉱」といっても、その変質の速さはまちまちで
茂倉沢鉱山のものは、変質の速度が緩やかのような印象である。
もし、変質しやすい標本を採集することが予想される産地を訪れる場合
ビンとホッカイロを持参し、採集直後に密封・保存する手もある。
(4) 割った一方をホッカイロを入れた密閉ガラス瓶に収め、他方は比較のため
空気中に保管する実験をスタートし、2週間あまりが過ぎた。
今のところ、緑色の鮮やかさには目立った差が見られないが、今後定期的
に観察し記録を残す予定である。
(5) この方法を「藍鉄鉱」にも早速適用した。