ご承知のように、パンニングは鉱物種の比重の差を利用して、目的とする鉱
物種を選り分ける技法で、母岩や土砂よりも比重が大きな砂金、錫石など重鉱
物の選鉱に古くから利用されてきた。
2006年春、兵庫県の石友・Nさん夫妻と岐阜県の某所でミネラルウオッチング
を楽しんだ数日後、Nさんから 『 ご一緒したとき、重さ600gあまりの
トパーズを採集していた!! 』 との、驚くべきメールをいただいた。
半信半疑ながらも、「 もしかしたら、あの産地なら、あり得るかも 」と
期待(羨望の念)を抱いていた。
それから数ケ月後、Nさん夫妻にお会いしたとき、持参した件(くだん)の
「トパーズ」の外観は、”酒黄色”、”細かいひび割れ”が”虹色の光沢”を
放ち、鑑定には悩まされる代物だった。
しからば、科学的な鑑定法で一番手っ取り早い、「比重」を測定してみた。
結果は、S.G=2.7 となり、”立派な石英(水晶)”で決着した。
鉱物鑑定法のひとつとして、古くから「比重」が使われており、その測定方
法と精度良く測定するポイントをまとめてみた。
( 2007年2月作成 )
似たような単位に「密度」(Density)がある。これは、『 単位体積当
たりの重さ 』 のことで、単位は(g/cm3)となる。
「比重」も「密度」も、数値の部分は同じ値になるので、便宜上、”数値
は同じ”と扱っても支障はない。
比重の計算式は
比重(S.G)=W1/(W1-W2) ・・・・・・・・・・(式1)
ここで
W1:空気中での標本の重さ(g)
W2:水中での標本の重さ(g)
この式の分母『(W1-W2) 』の意味は、『 液体中の物体は、その排除
した体積分だけ”浮力”を受け、重さが軽くなる 』 と解釈すると、密
度1.0の水の中では、間接的に”体積”(cm3)を測定していることにな
る。
3.2 比重測定法のバリエーション
鉱物学の教科書に書かれている「比重」の測定方法が「密度」の測定方
法と同じだと考えると、測定方法にはいろいろなバリエーションが考えら
れる。
密度(D)=W1/V・・・・・・・・・・・・(式2)
ここで
W1:空気中での標本の重さ(g)
V:標本の体積(cm3)
(1)重さの測定
私が重宝している重さの測定器(つまり秤)は、郵便局で無料でもらった
手紙の重さを測る秤と骨董市で購入した天秤ばかり(棹秤)の2種である。
前者は、1g未満〜50g以下の小さなもの
後者は、50〜500gの大きなもの
に使い分けている。
(2)体積の測定
体積測定には、いろいろな方法が考えられる。
@ 計算で求める
単純な形状の標本であれば、直方体、菱面体、N角柱そして円錐など
で近似して、体積を計算で求めることができる。
水溶性の標本など、水に浸すことが不可能な場合、有効な手法
A 水に浸し、増えた水の量から知る
料理用の軽量カップ(100円)に水を入れ水の量を測り、標本を沈め
た後に水の量を測ることで、増えた水の量=体積 を知る。
一見して『 トパズ 』だろうと思ったが、今まで高取鉱山で採集したトパズに
比べ、あまりにも大きく、綺麗なので、かえって自信が揺らいだ。
そこで、郵便物の重さを測る秤を使って重さを測り、電卓で「比重」を計算
してみた。
項 目 | 測定値/計算値 | 備 考 | 空気中での重さ | 1.1g | 糸の重さは無視 | 水中での重さ | 0.8g | 比重 | 3.67 | SG=1.1/(1.1-0.8)=1.1/0.3=3.66・・・(計算値) トパズの比重は、おおよそ 3.6 |
その結果、比重(S.G)=3.67 でトパズに間違いないことが判った。
4.2 精度良く測定するために
精度良く「比重」を測定するためのポイントをまとめてみた。
(1)同じ秤を使う
最近、中学校の理科の実験で使った「上皿天秤はかり」を骨董市で
入手した。100mg(=0.1g)単位で精密に測定できる優れモノである。
( つまり、絶対精度(Accuracy)は高い )
しかし、これは水中での重さの測定はできない。
上の例のトパズのケースで、空気中の重さは正確には1.8 であるこ
とが解かったが、水中での重さを郵便用秤の測定値を用いると、比重
S.G=1.8/(1.8-0.8)=1.8 と、あり得ない数値になってしまう。
多少、絶対的な精度は悪くても、同じ秤で空気中での重さと水中での
重さを測定することが重要である。
絶対的な精度が必要ではなく、(式1)から判るように、相対的な精
度があれば良いのである。
(2)水中の重さ測定での注意点
水中での重さを測定するときに、標本が容器の底に当たらないよう
また、容器の壁面に触れないようにする。
(3)標本全体を水に沈める
標本の一部でも水面から姿を現していると水中での重さが正確に測
定できない。
実際に経験したわけではないが、琥珀のように、比重が水に近い標
本の測定の場合、一部が浮いてしまうことがあり、注意が必要であろ
う。
この場合、錘(おもり)をつけ全体を沈め測定するという手がある。
こうなると、”銀の混じった金の王冠”、つまり”アルキメデス”の
世界である。