長野県川上村甲武信鉱山の日本式双晶

       長野県川上村甲武信鉱山の日本式双晶

1. 初めに

   私の持論の1つに、『鉱物採集は、水晶に始まり、水晶に終わる』がある。これは
  釣人の間で、「釣りは、鮒(ふな)に始まり、鮒に終わる」、と言われているのを聞き
  これをもじったものである。

   この意味は、”何たって、水晶はいい”、という、至極単純明快なもので、散々浮気
  して、死ぬ間際に本妻のところに転がり込んでくる道楽者、というような深い(?)意
  図は全くない。

   私のHPの「掲示板」にwakabaさんが書き込んでくれたように、紫水晶や日本式双晶
  は文句なく美しく、誰もが欲しがるのも無理もない。私の多くの石友の中で、埼玉の
  Aさん親子や愛知のKNさんなどが水晶以外の鉱物にほとんど興味を示さないのも理
  解できる。

   日本式双晶は全国各地で産出しているが、現在でも確実に採集できる場所となると
  甲武信鉱山だろう。

   日本屈指の蝶コレクターでもある長野県の石友・Yさんが甲武信鉱山で”蝶形
  双晶(バタフライ・ツイン)”
を採るのに同行した。行く前に、湯沼鉱泉社から
  愛知県の石友・KNさんが10年ほど前、3cmオーバーの緑水晶双晶が5、6枚ついた
  群晶を出した場所を聞いておいた。

   坑道の中で、露頭を崩すと、晶洞が現れ、よく観察すると双晶が見えることがあり
  壊さないように、慎重に取り出した。甲武信鉱山では珍しい”軍配形”も採集できた。

   3cmオーバーの緑水晶双晶には巡り会えなかったが、出そうな気配は感じられた。
  同行、案内していただいた石友・Yさんと湯沼鉱泉社長に厚く御礼申し上げる。
  ( 次の日、湯沼鉱泉社長にご足労かける羽目になってしまった )

   湯沼鉱泉に宿泊し、社長から場所や注意事項を良く聞いて訪れると良いだろう。
   ( 2007年7月採集 )

2. 産地

   甲武信鉱山についてはたくさん情報があるので、詳細は割愛する。「双晶」の産地
  については、湯沼鉱泉に宿泊し、「水晶洞」で現物を確認したり、社長から場所や注
  意事項を良く聞いて訪れて欲しい。

3. 産状と採集方法

   産地はスカルン帯の一部で、「灰鉄柘榴石」「方解石」を伴う石英脈が見られる。
  その晶洞部分に水晶があり、その間に”日本式双晶”が佇んでいる。

   ハンマとタガネで露頭から直接欠き採るのだが、堅くて割るのに四苦八苦した。
  事実、この露頭には、打ち込んで抜けなくなって、刺さったままのタガネが数年前
  から放置されていた。

   産地でトリミング(小さく整形)すると、肝心の双晶が吹っ飛んでしまうので、大き目
  の母岩ごと持ち帰るのが賢明である。

    露頭【左上に抜けなくて放置されたタガネ】

4. 産出鉱物

 (1)  水晶/石英【Rock Crystal/QUARTZ:SiO2
     石英の晶洞の中に、各種形態の日本式双晶が観察できた。ただ、ここの石英
    はミルキー(乳白色)で、透明感に乏しいのが、難点である。

        
          軍配             蝶形                 L型
                        日本式双晶

      一方、単晶の中には、真っ白いものに混じって、緑色、針状の緑閃石【ACTINOLITE:
     Ca2(Mg,Fe)5Si8O22(OH)2】を含み、緑水晶と呼べる標本も観察できる。このタイ
     プの日本式双晶の存在を匂わせている。

     緑水晶【緑閃石入り】

 (2)  方解石【CALCITE:CaCO3
      晶洞の中に、水晶、氷長石などの上に、菱面体(マッチ箱をひしゃげた形)の自形
     結晶が観察でき、一番最後に生まれたことを示している。採集した結晶の大きさは、
     最大のものは1辺10cm、写真のものは3cmである。

     方解石【自形結晶】

 (3)  氷長石/正長石【Adularia/ORTHOCLASE:KAlSi3O8
      白色、菱形の結晶が方解石や水晶を伴って産出する。「日本の鉱物」にも紹介されている
     ように双晶も観察できる。”こおりちょうせき”ではなく、”ひょうちょうせき”が正しい
     呼び名である。

     氷長石

5. おわりに

 (1) この産地を知ったのは、2年前、2005年10月に開催した「秋のミネラルウオッチング」の
    時だった。途中で合流した三重県のYさんがここの露頭で『軍配形双晶』を出したのを目
    撃し、いつか訪れようと思っていた。
     今回、ようやくその願いが叶い、案内、同行いただいた湯沼鉱泉社長と石友・Yさんに
    御礼申し上げる。

 (2) 実のところ、この産地には2日連続で訪れ、2日目は湯沼鉱泉社長に案内・同行をお願い
    した。古い、九十九折れ(つづらおれ)の鉱山道といつものテラスをつなぐ直線コースの間
    の、露頭、崩れた坑道跡とその前のズリ(?)を縫うように登って行くと、足元にはピカピカ
    の結晶面をもつ水晶が散らばっている。

     水晶転石

     甲武信鉱山には、まだまだ、人知れずに眠っている鉱物があることを予感させる。

 (3) ここの双晶は、比較的母岩にシッカリ固定しているが、道具が不十分で気持ちに余裕が
    ない現地でトリミング(小さく整形)すると、肝心の双晶を母岩から吹っ飛ばしてしまうことが
    多い。
     そこで、大き目の母岩のまま持ち帰って、自宅でトリミングするのが賢明である。
     トリミングのやり方については、近いうちお知らせしたい。

6. 参考文献

 1)松原 聰:日本の鉱物,株式会社 学習研究社,2003年
 2)松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
inserted by FC2 system