長野県川上村甲武信鉱山の緑簾石

           長野県川上村甲武信鉱山の緑簾石

1. 初めに

   長野県川上村の石友・Yさんから、『 甲武信鉱山で素晴らしい緑簾石が出た!! 』
  との電話をいただいた。何でも、愛知県の石友・KNさんと湯沼鉱泉社長が露頭を
  掘り込んで、出したらしい。

   その週末に東京のTさん、Uさん家族7人を甲武信鉱山に案内することになり、入山
  料の支払いと「水晶洞」の見学で湯沼鉱泉を訪れ、社長に例の「緑簾石」を見せてい
  ただいた。
   社長が採集したものは、鉄へスティング閃石と灰鉄柘榴石が混じった母岩の上に
  頭がそげた長さ約5cmの緑黒色、ガラス光沢を示す独特の結晶が乗ったもので
  素晴らしい標本である。

     緑簾石【採集:湯沼鉱泉社長】

   KNさんが採集したものは、社長に言わせると 『 分離単晶だが、それは素晴らしい 』
  ものだったらしい。

   社長からは、産出した場所には径5cmを超える柘榴石が”ベタベタ”と張り付いた
  晶洞があるので、そのままにして置くようにとの注意を受けて入山した。なるほど、産地
  にはロープが張ってある。
   ここの柘榴石はもろいので、採ろうと思うとバラバラになってしまうので、そのままに
  して置いて、多くの人に産状を見て欲しい、との社長の配慮である。

   ここでは、同行してくれた石友・Yさんが近くの露頭を崩してくれ、晶洞の中の灰鉄
  石榴石や分離結晶が”ザクザク”採れ、Tさん、Uさん一家の今回の採集目的が
  達成でき、大喜びだった。

   この後、いつものべスブ石産地と松茸水晶ズリを訪れ、”ビギナーズ・ラック”が続
  出した。( これにあやかって、私も「松茸水晶」の良品をゲット!! )

     参加者一行【松茸ズリ】

   参加者のたっての希望で、帰途、もう一度「緑簾石」産地に立ち寄り、皆さんが柘
  榴石を拾っている間に、私は「緑簾石」の分離結晶をシッカリと確保した。

   最年小の小学1年生を含め一行8名、15時過ぎに全員無事下山し、ホッとしている。

   「緑簾石」の産地については、湯沼鉱泉に宿泊し、社長から場所や注意事項を良く
  聞いて訪れると良いだろう。
   ( 2007年6月採集 )

2. 産地

   甲武信鉱山についてはたくさん情報があるので、詳細は割愛する。「緑簾石」の産
  地については、湯沼鉱泉に宿泊し、社長から場所や注意事項を良く聞いて訪れて
  欲しい。
   2007年5月27日に日本テレビ系列で放映された「鉄腕ダッシュ」でTOKIOメンバが
  柘榴石を採集していたのは、正にこの場所である。
   ( 撮影チームを案内し、テレビ画面に姿が映った湯沼鉱泉社長自身、まさかここ
    から、1ケ月後に「緑簾石」を掘り出すなどとは、夢にも思ってもいなかったらしい )

3. 産状と採集方法

   この一帯は、スカルン帯とされ、「灰鉄柘榴石」「鉄へスティング閃石」を含む露頭が
  見られる。また、石英脈に伴う金を掘ったと思われるズリには、「緑」「マリモ入り」
  「松茸」など各種の水晶が埋もれている。

   ハンマとタガネで露頭から直接欠き採る、ズリの表面を見て回って拾う、そしてズリを
  掘るなど、基本的な鉱物採集方法をTPOで使い分けることになる。

       
          ハンマで割る            ズリで探す
                    採集方法

4. 産出鉱物

 (1)  緑簾石【EPIDOTE:Ca2Fe3+Al2(SiO4)(Si2O7)O(OH)】
     緑黒色、ガラス光沢で柱状結晶で鉄へスティング閃石や柘榴石の母岩の上に
    見られる。
     採集したばかりの時は、真っ黒い”スス”状のものに覆われ、緑簾石と気付かず
    酸でクリーニングして初めて姿を現したらしい。

     私が採集した下の写真の標本は、柱面と頭の一部が観察でき、柱面には小さ
    な結晶(平行連晶)が見られ、『子持ち緑簾石』とでも呼べるものである。

     緑簾石【写真撮影時に落として割ってしまった。トホホ・・・・・】

 (2) 灰鉄柘榴石【ANDRADITE:Ca3Fe2(SiO4)3
     赤渇色〜黒色、ガラス光沢で菱形の結晶面を持つ12面体で産するが、ここの
    石榴石は”ボロボロ”と崩れてしまうものが多く、普通は数面しか見られない。
     ここの柘榴石は、1つの結晶の内側に完全な結晶が埋もれている”玉ねぎ状”
    のものが見られるのも大きな特徴である。

     鉄へスティング閃石に接して成長した(後から鉄へスティング閃石が空隙を埋
    めた?)部分には”抜け殻(キャスト:Cast)”が見られ、写真のように大きなものは
    1面が5cm以上あるものも見られる。

       
           単晶            抜け殻(キャスト)
                 灰鉄柘榴石

     灰鉄石榴石と灰ばん石榴石【GROSSULAR:Ca3Al2(SiO4)3】は化学組成が連
    続して変化していたり、ひとつの結晶でも外側と内側で組成が違う場合もあり
    もしかしたら後者もあるかも知れしれない。

 (3) 水晶/石英【QUARTZ:SiO2
     ここでは、「緑」「マリモ入り」など各種のインクルージョンを含むものや「松茸」
    「両錐」そして「日本式双晶」など面白い形態の水晶が採集できる。また、これら
    が組み合わさった「緑+両錐+松茸」水晶なども採集できる。

     下の写真の標本は、いずれも「針鉄鉱(褐鉄鉱)」に覆われているが、蓚酸などに
    漬けておけば、見違えるような透明感のある標本に生まれ変わることは、過去に
    何度も経験している。

            
      両錐マリモ入り   通常+寄生【67mm】       寄生

    【Uさんの奥さん採集】          松茸水晶
                      各種水晶

 (4) べスブ石【VESUVIANITE
     :Ca19(Fe,Mn)(Al,Mg,Fe)8AL4(F,OH)2(OH,F,O)8(SiO4)10(Si2O7)4
     赤褐色〜黒色、ガラス光沢の四角単柱状結晶で見られるのが一般的だが
    細柱状結晶の集合でみられる場所もある。
     端面は平坦なものと稜が面取りされて、石友・Yさんが 『 エメラルド・カット』
    呼ぶものもある。

     この冬から春にかけ某氏が露頭の穴を広げ、それに伴って母岩付きや分離
    複合結晶そして単晶が多産した。

     下の写真のものは、この時期に産した複合結晶で、松原先生の「日本の鉱物」
    記載のものに勝るとも劣らない。

     べスブ石

5. おわりに

 (1) 今回「緑簾石」が産出したのは、以前から「巨大な灰鉄柘榴石」の産地として
    多くの人々に知られた場所であった。
     ただ、柘榴石の質がいまひとつなので、訪れる人も少なくなり、『忘れられた産
    地』
 になりかけていた。今回、KNさんと湯沼鉱泉社長によって再び脚光を浴び
    始めている。

     このように、甲武信鉱山を自分の掌(たなごころ)のように知り尽くしている湯沼
    鉱泉社長をして、 『 どこで、何が出るか分からない 』 と言わせるほど、魅力
    的な産地なのである。

     Uさんの奥さんが両錐水晶を採集したのは、今まで誰も見向きもしなかった場所
    だった。

 (2) Tさん、Uさん一家は鉱物採集を始めて間もないが、”ビギナーズ・ラック”に恵まれ
    数々の良品を手にされた。

     子供たち(中3、小3、小1)も興味津津で、私が持参した磁石を使っての「磁鉄鉱」
    の鑑定法も熱心に見たり、自分でも試してくれた。

     このように、「鉱物」に興味を持ってくれる人たちの助けになればと願っている。

 (3) 甲武信鉱山の緑簾石産地
     湯沼鉱泉社長などの話や私の経験を総合すると、甲武信鉱山(川端下を含む
    広い意味)で「緑簾石」が採れる(採れた?)場所は何箇所かある。

     実は、今回、湯沼鉱泉社長が採集した品を見るまで、私が採集した「緑簾石」が
    甲武信鉱山産では一番だと密かに自負していた。
     この標本は、10年ほど前、愛知の石友・KNさん、大阪の石友・Tさんと3人で
    「日本式双晶」を追いかけていた時に、私が露頭を叩いて採集した母岩付標本
    である。

     この標本を採集した経緯は、標本の写真を添えて、近いうちに、書き残して置き
    たいと考えている。

6. 参考文献

 1)松原 聰:日本の鉱物,株式会社 学習研究社,2003年
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