その週末に東京のTさん、Uさん家族7人を甲武信鉱山に案内することになり、入山
料の支払いと「水晶洞」の見学で湯沼鉱泉を訪れ、社長に例の「緑簾石」を見せてい
ただいた。
社長が採集したものは、鉄へスティング閃石と灰鉄柘榴石が混じった母岩の上に
頭がそげた長さ約5cmの緑黒色、ガラス光沢を示す独特の結晶が乗ったもので
素晴らしい標本である。
KNさんが採集したものは、社長に言わせると 『 分離単晶だが、それは素晴らしい 』
ものだったらしい。
社長からは、産出した場所には径5cmを超える柘榴石が”ベタベタ”と張り付いた
晶洞があるので、そのままにして置くようにとの注意を受けて入山した。なるほど、産地
にはロープが張ってある。
ここの柘榴石はもろいので、採ろうと思うとバラバラになってしまうので、そのままに
して置いて、多くの人に産状を見て欲しい、との社長の配慮である。
ここでは、同行してくれた石友・Yさんが近くの露頭を崩してくれ、晶洞の中の灰鉄
石榴石や分離結晶が”ザクザク”採れ、Tさん、Uさん一家の今回の採集目的が
達成でき、大喜びだった。
この後、いつものべスブ石産地と松茸水晶ズリを訪れ、”ビギナーズ・ラック”が続
出した。( これにあやかって、私も「松茸水晶」の良品をゲット!! )
参加者のたっての希望で、帰途、もう一度「緑簾石」産地に立ち寄り、皆さんが柘
榴石を拾っている間に、私は「緑簾石」の分離結晶をシッカリと確保した。
最年小の小学1年生を含め一行8名、15時過ぎに全員無事下山し、ホッとしている。
「緑簾石」の産地については、湯沼鉱泉に宿泊し、社長から場所や注意事項を良く
聞いて訪れると良いだろう。
( 2007年6月採集 )
ハンマとタガネで露頭から直接欠き採る、ズリの表面を見て回って拾う、そしてズリを
掘るなど、基本的な鉱物採集方法をTPOで使い分けることになる。
私が採集した下の写真の標本は、柱面と頭の一部が観察でき、柱面には小さ
な結晶(平行連晶)が見られ、『子持ち緑簾石』とでも呼べるものである。
(2) 灰鉄柘榴石【ANDRADITE:Ca3Fe2(SiO4)3】
赤渇色〜黒色、ガラス光沢で菱形の結晶面を持つ12面体で産するが、ここの
石榴石は”ボロボロ”と崩れてしまうものが多く、普通は数面しか見られない。
ここの柘榴石は、1つの結晶の内側に完全な結晶が埋もれている”玉ねぎ状”
のものが見られるのも大きな特徴である。
鉄へスティング閃石に接して成長した(後から鉄へスティング閃石が空隙を埋
めた?)部分には”抜け殻(キャスト:Cast)”が見られ、写真のように大きなものは
1面が5cm以上あるものも見られる。
灰鉄石榴石と灰ばん石榴石【GROSSULAR:Ca3Al2(SiO4)3】は化学組成が連
続して変化していたり、ひとつの結晶でも外側と内側で組成が違う場合もあり
もしかしたら後者もあるかも知れしれない。
(3) 水晶/石英【QUARTZ:SiO2】
ここでは、「緑」「マリモ入り」など各種のインクルージョンを含むものや「松茸」
「両錐」そして「日本式双晶」など面白い形態の水晶が採集できる。また、これら
が組み合わさった「緑+両錐+松茸」水晶なども採集できる。
下の写真の標本は、いずれも「針鉄鉱(褐鉄鉱)」に覆われているが、蓚酸などに
漬けておけば、見違えるような透明感のある標本に生まれ変わることは、過去に
何度も経験している。
(4) べスブ石【VESUVIANITE
:Ca19(Fe,Mn)(Al,Mg,Fe)8AL4(F,OH)2(OH,F,O)8(SiO4)10(Si2O7)4】
赤褐色〜黒色、ガラス光沢の四角単柱状結晶で見られるのが一般的だが
細柱状結晶の集合でみられる場所もある。
端面は平坦なものと稜が面取りされて、石友・Yさんが 『 エメラルド・カット』と
呼ぶものもある。
この冬から春にかけ某氏が露頭の穴を広げ、それに伴って母岩付きや分離
複合結晶そして単晶が多産した。
下の写真のものは、この時期に産した複合結晶で、松原先生の「日本の鉱物」
記載のものに勝るとも劣らない。
このように、甲武信鉱山を自分の掌(たなごころ)のように知り尽くしている湯沼
鉱泉社長をして、 『 どこで、何が出るか分からない 』 と言わせるほど、魅力
的な産地なのである。
Uさんの奥さんが両錐水晶を採集したのは、今まで誰も見向きもしなかった場所
だった。
(2) Tさん、Uさん一家は鉱物採集を始めて間もないが、”ビギナーズ・ラック”に恵まれ
数々の良品を手にされた。
子供たち(中3、小3、小1)も興味津津で、私が持参した磁石を使っての「磁鉄鉱」
の鑑定法も熱心に見たり、自分でも試してくれた。
このように、「鉱物」に興味を持ってくれる人たちの助けになればと願っている。
(3) 甲武信鉱山の緑簾石産地
湯沼鉱泉社長などの話や私の経験を総合すると、甲武信鉱山(川端下を含む
広い意味)で「緑簾石」が採れる(採れた?)場所は何箇所かある。
実は、今回、湯沼鉱泉社長が採集した品を見るまで、私が採集した「緑簾石」が
甲武信鉱山産では一番だと密かに自負していた。
この標本は、10年ほど前、愛知の石友・KNさん、大阪の石友・Tさんと3人で
「日本式双晶」を追いかけていた時に、私が露頭を叩いて採集した母岩付標本
である。
この標本を採集した経緯は、標本の写真を添えて、近いうちに、書き残して置き
たいと考えている。