2009年5月中旬、石友・小Yさんから電話をいただいた。「湯沼鉱泉で働いていたKさんが
甲武信鉱山で素晴らしい松茸水晶を何本も採集したから、一緒に行こう!!」という魅力
的な話で、すぐに飛びついた。
5月23日、小Yさんに案内してもらい、妻と3人で訪れた。産地は、今まで皆さんが歩いて
いた踏み分け道から10mも離れていない場所だった。正に、『甲武信、畏るべし』
( その後、踏み分け道の真下からも採集できた )
斜面のズリを掘ると、面白いように5cm前後の綺麗な水晶が現れ、約半数は「松茸」に
なっていた。この日は、区切りの良いところまでで止め、新しい産地で新しいタイプの標本
を採集できたことに感謝し、湯沼鉱泉に引き上げた。
社長に話すと、「10年以上前に掘った場所だ」、とのことで、一部の人には知られていた
ようだ。
小YさんがKさんの了解を取ってくれ、6月初旬のミネラル・ウオッチングで皆さんを案内し
た。この時点で、最近の産地の状況を知っていたのは、数人しかおらず、若干1名(奈良・
Aさん)を除き、参加者の皆さんがそれぞれ素晴らしい標本に巡りあえたのは、既報の通り
だ。
7月に入り、長野の石友・Mさんを甲武信鉱山を案内するついでに立ち寄り、ごく短い時
社長が「産地の名前は、どうすんダ」と言うので、『第4松茸水晶産地』にすることにした。
産地を訪れる前に、湯沼鉱泉に立ち寄り、入山料(1,000円)を払い、社長に場所を聞いて
新産地を発見し、ミネラル・ウオッチング参加者を産地に案内するのを許してくれたKさん、
ここには、幅(東西)約100m、長さ(南北)約100mの範囲にわたって、水晶が確認
ズリには、こぶし大から一抱えもあるズリ石が積もっている。ここをつるはしや熊手で掘り
@ もともとあった水晶の結晶の上に冠を被ったいわゆる「松茸水晶」
形が変わったものとして『両錐』、『大聖堂状』、『母岩付き』、色違いとして『煙』、イン
以下、代表的な標本を紹介する。
大聖堂状の根元にある、”黒い点”のようなものは、インクルージョンの「緑泥石」だ。
ほかの人が煙水晶を採集したという話をあまり聞かない点から考えると出現率が
(2) 坑口附近の鉱物
ミネラル・ウオッチングの時、奈良・Yさんが「柱石」を採集したが、「氷長石」や「灰
このページでその産地のネーミングを巡って、湯沼鉱泉社長とのやり取りを次のよう
「 この産地名は、『新々松茸か?』」と聞かれ、今後も「松茸水晶」の産地が新しく
図らずもこの予想が2年後に当たったことになる。こんな経緯から、今回発見された
(2) 新産地の魅力
この時点で、最近の産地の状況を知っていたのは、Kさん、小Yさん、その友人・Oさん
”すれっからし”ではなく、”バージン(手付かず)”ズリの上、良品を採集すると次の
7月に入り、奈良のAさんは、ミネラル・ウオッチングに参加した3人組と土曜日、日
これだけ、新産地は魅力があり、またそれに応えてくれる。
(3) 「第5松茸水晶」産地を求めて
( Mineral Watching , Jun.2009 in Nagano and Yamanashi Pref. )
間だったが数本の標本を採集し、全部Mさんに差し上げた。
前の週、奈良のAさんは、ミネラル・ウオッチングに参加した3人組と土曜、日曜の連荘で
訪れ、ようやく念願の良品を採った、と湯沼鉱泉に居合わせた兵庫・N夫妻から聞いた。
行くのが良いだろう。
産地の古い情報を教えてくれた湯沼鉱泉社長、そして案内・同行・仲介の労を取っていた
だいた小Yさんに厚く御礼申し上げる。
( 2009年5月採集、6月案内、7月案内 )
2. 産地
今まで1度でも甲武信鉱山を訪れたことがある人なら、『 あの辺りか 』、と思い当たる
だろう。
この産地の詳しい情報は、湯沼鉱泉に泊まって、社長に教えてもらうのが一番だ。
3. 産状と採集方法
ここは、古い時代に露頭から金などを掘ったズリだと思われる。なぜなら、ズリの約50m
上に古い時代の坑道が2つあるが、坑道内、前で観察できる鉱物種とズリのものはタイプ
が違い、坑道から出た水晶とは考えにくいからだ。
左 右
ズリ上方に残る坑口
できている。松茸水晶が確認できているのは、幅5〜10m×長さ約100mの細長い範囲
だ。
崩しながら、採集する。
慣れてくると、ズリの場所によって、どのような色の土、深さ(レベル)に水晶があるのか
が解ってくるはずだ。
採集方法 産出状況
産状と採集方法
4. 産出鉱物
(1) 松茸水晶/石英【Scepter quartz/QUARTZ:SiO2】
松茸水晶は、鉱物学的には『平行連晶』の1種である。ここの水晶の50%前後が
@〜Bの「松茸水晶」と呼ぶカテゴリーに分類できる。
A もともとあった水晶の先端に成長した水晶が先細りになっていて、私たちの
仲間が「逆松茸水晶( Tapered QUARTZ )」と呼ぶもの
B 結晶先端部分の数面が太くなって、”段”ができているもの
クルージョンとして緑色の「緑泥石」を含むものなどが組み合わせで産出する。
通常【両錐】 逆松茸【両錐】
大聖堂状 母岩付き群晶
松茸水晶
母岩付をみると、非常に薄い”ゲス板”の上に水晶が成長していることがわかる。
群晶の1つ、ひとつが「松茸」水晶になっているのも興味深い。母岩には、「白雲母」
が見られるだけで、共生鉱物種は少ない。
煙水晶
低く、特定の晶洞(ガマ)からのみ産出した可能性がある。
甲武信鉱山では、「希元素鉱物」の産出を見聞していないので、川端下(かわはけ)
で出る煙水晶と同じように、不純物イオンの影響なのだろう。
7月に入り、長野の石友・Mさんを甲武信鉱山を案内するついでに立ち寄った。坑口
附近で、写真のような、真白い「氷長石」、青黒い「鉄へスティング閃石」そして茶褐
色でガラス光沢の「灰バン柘榴石」からなる標本を採集した。
このほか、「柱石」の良品があり、Mさんに進呈した。
坑口前の観察標本
バン柘榴石の良品」を採集した人はいなかった、と記憶している。
したがって、坑道内、前で観察できる鉱物種とズリのものはタイプが違い、坑道か
ら出たものとは考えにくい。
5. おわりに
(1) 産地のネーミング
今からちょうど2年前の2007年7月、「第3松茸水晶」産地を妻と2人で再発見した。
この産地と産出標本などを次のページに掲載した。
( Minerals from Kobushi Mine 3rd Matsutake Vein,
Kawakami Village , Nagano Pref. )
に紹介した。
発見される可能性が高いので、「第3松茸」にしよう、と2人で決めた。
産地は『第4松茸水晶』産地とネーミングしましたが、ご理解願います。
Kさんによってこの産地が再発見されて1ケ月も経たないうちに、「月遅れGWミネラ
ル・ウオッチング」の参加者を案内することができた。Kさんはじめ、湯沼鉱泉社長、
そして小Yさんに厚く御礼申し上げる。
そして私たち夫婦の5人しかいなかった。
人に交代するルールが自然にでき、若干1名(奈良・Aさん)を除き、参加者の皆さん
がそれぞれ素晴らしい標本に巡りあえたのは、既報の通りだ。
曜日に連荘で訪れ、ようやく念願の良品を採った、と湯沼鉱泉に居合わせた兵庫・
N夫妻から聞いた。
改めて、Kさんはじめ、湯沼鉱泉社長、そして小Yさんに厚く御礼申し上げる。
湯沼鉱泉社長によれば、「10年以上前に、関西、中部、関東の人たちが、掘った。
あの産地は、100mくらいの範囲で水晶が出る」とのことだった。
確かに、少し離れた場所を掘っても水晶や石英は出てくる。甲武信鉱山には、古い
坑口がアチコチにあり、大きな岩で塞いだ坑口の跡も多い。何が出てくるか、期待が
膨らむ産地だ。正に、『甲武信、畏るべし』
6. 参考文献
1) 益富 寿之助:鉱物 −やさしい鉱物学−,保育社,昭和60年
2) 砂川 一郎:成因・特徴・見分けかたがわかる 水晶・瑪瑙・オパール ビジュアルガイド
誠文堂新光社,2009年