長野県甲武信鉱山の近況 − 2009年3月 −

   長野県甲武信鉱山の近況 − 2009年3月 −

1. 初めに

   2009年3月末、『石梨県』と言われる千葉県の単身赴任先から『山梨県』に戻ってきた。
   荷物の梱包を解く暇も惜しく、長野県川上村の湯沼鉱泉を訪れた。桜が満開の甲府市とは
  大違いで、山梨県と長野県境の信州峠附近の路面には積雪が見られた。午前8時近くの
  気温がマイナス1℃の表示を見て、思わず身震いした。(湯沼のお姐さんの話では、これでも
  この日は暖かかったらしい)

       
       気温表示【マイナス1℃】       川上犬【生後2ケ月】
                     川上村2景

   湯沼鉱泉に到着すると生後2ケ月の”モコモコ”はじめ何匹かの川上犬が飛びついてきた。
  社長は未だ『冬眠中』の様子だが、2008年暮れに会ったときよりは元気になっていた。

   居合わせた地元の石友・小Yさんによれば、甲武信鉱山や川端下などの標高の高いところ
  は積雪があり、ズリもカチンカチンに凍っていて、採集できるようになるのは5月中旬以降だろう
  とのことだった。

   2008年9月、小Yさんが『博物館級のベスブ石群晶』を採集したと聞き、「ベスブ石露頭」を
  2人で訪れることにした。

     登山口

   登山口には、雪が残り、第1テラスから上の山肌は日向でもツルツルに凍っていていつもの
  2倍近い時間を掛けて露頭に到着した。
   露頭の叩きやすい場所は既に叩き尽くされ、奥まった平坦部分を叩くと、小さな”晶洞”があり
  最大25mmのベスブ石結晶からなるベスブ石と灰鉄輝石の群晶をはじめ、今までで一番の標本
  を採集できた。案内、採集してくれた小Yさんに厚く御礼申し上げる。

   今年の冬、川上村は雪が少なかったそうだが、3月末になっても最低気温がマイナス10℃
  以下になるなど寒い日が続いている。このような状況なので、恒例のGWミネラル・ウオッチン
  グは今年も“月遅れ”の6月中旬に開催する予定だ。大勢の石友とお会いできるのを楽しみ
  にしている。

    なお、甲武信鉱山に入山する前に、湯沼鉱泉に立ち寄り情報を得て、入山料を支払い
  そして「天然水晶洞」の見学をおすすめする。
   ( 2009年3月情報 )

2. 産地

   湯沼鉱泉には、長野県の石友・小Yさんが作成した、「甲武信鉱山−国師鉱床 鉱物類
  観察・採集マップ」が置いてあるので、初めての人はこれを持参すると良いだろう。
   さらに、最近の状況を湯沼鉱泉社長に聞いて入山するのをお奨めする。

     観察・採集マップ【Yさん作成】

3. 産状と採集方法

   甲武信鉱山は、「スカルン鉱床」とされ、水晶、柘榴石といった綺麗な”ビギナー
  向け”
から、灰重石、砒鉄鉱自形結晶という”玄人好み”まで、各種の鉱物の一流
  標本が入手できるチャンスがある。

   また、今まで、幾百、幾千の訪山者が通り過ぎていた場所から、素晴らしい標本が続々と
  発見され、まだまだ眠っている産地(ズリ)も多いはずだ。次に訪れるあなたが新産地の発見
  者になることも、夢ではない。

   今回訪れた「ベスブ石の露頭」は、約15年前に発見された場所だが、小Yさんが採集した
  ような『博物館級のベスブ石群晶』が未だ隠れている、と思った人はいなかったはずだ。

   採集方法は、次の3通りである。
    @ 表面をよく探す【表面採集】
    A 鉱物が見つかったらその周りを掘ってみる。【ズリ採集】
    B その近く(通常は上)の露頭や坑道壁を叩く【露頭採集】

   晩春〜晩秋なら@、Aで、女性や子どもでも十分楽しめ、”パワフル○人組”が掘ったり
  露頭を叩いた後なら、@でも良品が採集できる。
   冬は、Bしか採集できる術がない。

     「べスブ石晶洞」

4. 産出鉱物

   今回の採集品の一部を紹介させていただく。

No    鉱物種名
    俗名
  【英名:組成】
  標 本 写 真  備  考
1ベスブ石
【VESUVIANITE:
Ca19(Fe,Mn)(Al,Mg,Fe)8
Al4(F,OH)2(OH,F,O)8
(SiO4)10
(Si2O7)4
    
           最大結晶  25mm
灰鉄輝石と共生
2灰鉄輝石
【HEDENBERGITE:
CaFeSi2O6
    
              縦 24mm
分離単晶
3緑簾石
【EPIDOTE:
Ca2Fe3+Al2(Si2O7)
(SiO4)O(OH)】

              横10cm
 群晶
帰路、テラスで
拾った標本

5. おわりに

 (1) 久ぶりの本格ミネラル・ウオッチング
     千葉県の石友・Mさんに言わせると『石梨県』の千葉県は、標高100m以下の産地が
    ほとんどだった。川上村は湯沼鉱泉のある場所が既に1,300mを超え、今回訪れた産地は
    1,700m前後あった。

     単身赴任先では、朝夕30分、1時間かけてウオーキングで通勤し、足腰の衰えを防いで
    いた積りだったが、第1テラスから第2テラス、さらに第3テラスへの急な斜面には参った。
     呼吸も苦しかったが、大臀筋までが痛み、何度か休んで露頭にたどり着いた。当分の間
    リハビリが必要だ。

 (2) GW ミネラル・ウオッチング
     山梨に戻って引越し荷物を解くのももどかしく、湯沼鉱泉に挨拶に行った。社長はまだ
    『冬眠中』だったがお姐さんも元気で、写真のように2ケ月前に生まれた川上犬もにぎ
    やかに出迎えてくれた。お姐さんの話では、”熊子”のお腹には子犬がいるようで、次の
    ミネラル・ウオッチングには、”モコモコ”が出迎えてくれるはずだ。

     湯沼鉱泉に1泊し、甲武信鉱山を回って写真に掲載したような良品をはじめ、各種の
    標本を採集できた。
     社長やお姐さんの話では、今年は、雪が少なかったがその分地面が深くまで凍りつき
    恒例のGWミネラル・ウオッチングは今年も“月遅れ”の6月中旬にしたほうが良さそうだ。

     大勢の石友とお会いできるのを楽しみにしている。

6. 参考文献

 1) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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