甲武信鉱山貯鉱場の「自然金」











        甲武信鉱山貯鉱場の「自然金」

1. 初めに

    ここ10年ほど、この季節になると”今年の秋のミネラル・ウオッチングをどこにしようか”
   考えるのが悩みでもあり楽しみでもある。

    2011年9月初、湯沼鉱泉を訪れ、社長から最近発見した産地情報を聞き出し、あわよくば
   下見する積りだった。留守番のお姐さんがいただけで、あいにく社長は新しい産地を探し
   に山に行って不在だった。社長の後を追いかけようと石友・小Yさんに行きそうな場所を
   携帯で尋ねると○○○か△△△だろうという。
    ○○○に向けて走ると、林道の路面は台風12号の出水で深くえぐられ、軽自動車が走
   れる状況ではなく、手近な甲武信鉱山の貯鉱場に行先を変更した。
    産地手前の梓川は、いつもより水量が多く、仮橋も流されてしまい、渡るか渡るまいか
   躊躇していると渓流釣りの若者が来て、浅瀬を教えてくれ、岩伝いに無事渡りきることが
   できた。

   
              対岸に貯鉱場がある

    若者は、釣りと水晶探しが趣味ということで、ズリに散らばってミネラル・ウオッチングを
   始めた。彼は、ハンマーも持たず、文字通りの表面採集だった。やがて、彼が「この紫色の
   鉱物は何でしょう?」、と持ってきた。
    見るとビスマス(Bi)-テルル(Te)系鉱物だ。「このような場所に自然金が来る」、と教え、
   それがあった場所に私も移動した。
    そこには、先人が割ったと思われる拳(こぶし)大の石がいくつか落ちていた。割れ口を
   観察すると「ホセ鉱」や「自然金」と思われる鉱物が肉眼でも観察できる。正しくは、ルーペ
   を忘れただけ。
    その後、場所を変えたが、「ホセ鉱」を観察でき、今でもBi-Te鉱物や自然金がそこそこ
   採集できることを確認し湯沼鉱泉に戻った。ちょうど、社長も山から戻ったところだった。

    6月以来、久しぶりに会った社長は、私が右と言えば左という、昔の社長らしさが戻って
   いたし、手や足の後遺症も全く感じられないほどに回復していた。

    四方山話の後、秋のミネラル・ウオッチングで訪れる産地を相談すると、まだ数人にしか
   教えていない□□を案内してくれることになった。ただ、ここは、小川山並みのかなり厳し
   い行程らしいので、参加する人は今から体力作りに励んでおいた方が良いだろう。
   ( 足弱なメンバーのため、”昔乙女コース”も考えておきます。 )

    秋のミネラル・ウオッチングでは、大勢の石友にお会いできるのを楽しみにしている。
    ( 2011年9月 採集 )

2. 産地

    ここは、有名な場所なので、詳細は割愛する。もしわからなければ、湯沼鉱泉に立ち寄
   って社長に入り口だけでも教えてもらうと良いだろう。
    入り口からは、「踏みわけ道」ならぬ「踏み固められた道」と目印のテープなどがあるの
   で迷うことはない筈だ。

   
             貯鉱場跡

3. 産状と採集方法

   甲武信鉱山周辺の地質は、古生代砂質頁岩、砂岩、チャート、石灰岩、花崗岩、石英斑
  岩からなり、金鉱石は砂質頁岩中の接触交代(スカルン)鉱床で、6鉱体あった、と「日本
  鉱産誌」にある。
   甲武信鉱山の金の産状は、一口で言えば”含金石榴石”で、石榴石、方解石を伴って産
  出する、とされていた。
   下記のように金銀品位は余り高くはなかったようだ。

    金(Au)       3〜4g/トン
    銀(Ag)       2〜4g/トン
    銅(Cu)       0.4%

   「貯鉱場」には、選鉱したズリ石が堆積していて、採集方法は次の通りである。

    @ ズリの表面採集
    A ズリを掘る
    B ズリ石を割る
    C ズリの土砂をパンニングする。

   「自然金」や「ホセ鉱A」を採集するならBかC、「日本式双晶」などは@またはA、
  「灰重石」はCが良いだろう。
   ここの鉱石は堅い(強靭な)ので、割るのには大きなハンマが欲しいし、眼を保護する
  ゴーグルなども忘れてはならない。

        
           ズリ石を叩く               パンニング
          【2009年6月】               【2007年9月】
                      採集方法

    加藤先生の「硫化鉱物読本」を改めて読むと、「ホセ鉱A」の項に、『 共存鉱物としては
   スカルン中の場合は透輝石〜灰鉄輝石、灰礬柘榴石、方解石、石英などが知られている
   ・・・・・・』
、とある通りの産状だ。

4. 採集鉱物

    今回のミネラル・ウオッチングは、朝急に思い立って湯沼鉱泉を訪れ、ついでに貯鉱場を
   のぞいてみた。短時間の観察だったが、この産地の代表的な鉱物の産出を確認できた。

鉱物種名
    俗名
  【英名:組成】
 産 状   標 本 写 真  説    明
自然金
【GOLD:Au】
灰鉄輝石に
伴う

            自然金


             母岩

 灰鉄輝石の
結晶の中に
”箔状”や”
脈状”で産出
ホセ鉱A(?)
【JOSEITE-A
 :Bi4TeS2
葉片状
          ホセ鉱A


           母岩

 平坦なへき開
面を示し、表面が
銀白色〜赤紫色に
なっていることや
”箔状”で薄く剥が
れるのが特徴
方解石
【CALCITE
 :CaCO3
板状  へき開した結果
平行平板の板状で
産出する。
灰礬柘榴石
【GROSSULAR
 :Ca3Al2(SiO4)3】
 茶褐色透明感の
ある結晶が真っ白い
方解石に埋もれて
産出する。
 塩酸で方解石を
溶かせば綺麗な
群晶になるのだが
持ち帰る気は起きず
置いてきた。

5. おわりに

 (1) 秋の訪れ
      長野県川上村には秋の気配が漂い、湯沼鉱泉手前の坂道には、秋の七草のひとつ
     萩の赤い花が満開だった。

      貯鉱場には山ブドウが多く、上の写真のように、葉っぱが赤く色づき始めているのも
     あった。

      山ブドウの1本は、珍しく実をつけていた。まだ実は青々としていたが、写真に収めて
     きた。

        山ブドウ

 (2) 「秋のミネラル・ウオッチング」
      毎年10月から11月に、恒例の秋のミネラル・ウオッチングを開催して11年目を迎えた。
      目的の半分が、湯沼鉱泉に宿泊することにあるので、訪れる産地は地元・川上村や
     長野県、山梨県になることが多い。
      できるだけ、毎年違った産地を案内したいと思っているのだが、困った時の「甲武信
     鉱山」になることも多い。

      社長に相談すると、「未だ数人しか案内したことがない、□□に連れて行く」、という
     ことなので、期待している。
      2日目は、『五無斎100年忌』にちなむ産地を考えているところだ。

      大勢の石友とお会いできるのを楽しみにしている。

6. 参考文献

 1) 渡邊 萬次郎:金銀読本,日本評論社,昭和9年
 2) 小出 五郎:長野縣川上村川端下附近の鑛物,我等の鑛物,昭和16年
 3) 地質調査所編纂:日本鉱産誌 I-a 主として金属原料となる鉱石
               東京地学協会,昭和30年
 4) 加藤 昭:硫化鉱物読本,関東鉱物同好会,1999年
 5) 鉱物同志会編:水晶 15号,同会,2002年12月
 6) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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