中高生とミネラル・ウオッチング in Kobushi














           中高生とミネラル・ウオッチング in Kobushi

1. はじめに

    2014年10月のある日、某中高一貫校のO先生からメールがあった。

   「 2009年にMHから湯沼鉱泉を紹介されて以来、毎年部活で宿泊しておりますが、今年の大雪
    で被害があったというので支援もかねて宿泊することにした。・・・・・土曜日に生徒18名を連れ
    て宿泊し、日日曜日に甲武信鉱山で採集をします。一人で18人を引率するのは難しいので、
    MHもお知り合いのMさん一家がお手伝いをしてくれることとなりました。当日は社長さんも登って
    くれるそうです。もしお近くに来られることがあれば、ご挨拶をさせてください。・・・・・・」

    都合が付けばお会いしましょう、と返事してまもなく、石友・Mさんから、「・・甲武信は初めてで・・」、
   とメールがあったので、日曜日の用件をできるだけ土曜日までに済ませ、社長の代わりに甲武信
   鉱山を案内することにした。

    当日まだ真っ暗な5時過ぎに自宅を出て、7時前に川上村に入ると朝日を浴びて黄色く色づき始
   めた唐松林が美しい。ただ、気温は3℃で肌寒く、冬がすぐそこまで来ている。

    
        川上村の朝・”気温3℃!!”

    湯沼鉱泉に行くとMさん一家がいた。4男のKちゃんは7ケ月になって可愛いい盛りだ。一行は朝
   食の最中で、社長・お姐さん・Kさんに挨拶し、コーヒーをいただいているとO先生が来られた。O先
   生とはメールで何回かやり取りしているくらいで、しみじみお話するのは初めてだ。

    この日は信濃川上駅16時45分発の列車に間に合わせるには、遅くても14時には下山を開始せ
   ねばならず、O先生、社長と次のように巡検コースを決めた。

    登山口 → 第1テラス → 「柘榴石」産地 → 第2テラス → 「ベスブ石」産地 → 「松茸水晶」産地
   → 「緑水晶」産地 → 「第4松茸水晶」産地 → 第1テラス→ 登山口

    甲武信鉱山に上り始めると、好奇心が強くて眼も良い生徒たちは次々と良品、珍品を発見し、
   鑑定する私は大忙しだ。訪れたポイントの代表的な標本のほか、

    1) 「松茸水晶」産地の日本式双晶と松茸水晶群晶
    2) 「緑水晶」の群晶
    3) 「第4松茸水晶」産地の松茸水晶

    などのすばらしい標本を採集して、下山を開始したのは14時だった。尾根筋を下ると第1テラスは
   すぐそこで、14時45分には社長が待つ登山口に到着した。一度湯沼鉱泉に戻り信濃川上駅に着
   いたのは16時を少し回ったところだった。
    ここで、一行とお別れして帰宅路についた途端、この日の晴天が嘘だったかのように曇ってきて
   冷たい雨が降り出した。天気も味方してくれた一行だった。

    O先生からのお礼のメールで、生徒たちは産状の違う産地を回って、そのポイントの代表的な
   標本を採集でき満足していただけたようだ。
    『水晶に始まり、・・・・』と題する恒例の『秋のミネラル・ウオッチング』がもうすぐだ。安全で楽しい会に
   したいと思っている。
    ( 2014年10月 案内 )

2. 「甲武信鉱山」巡検

 (1) 「柘榴石」産地をめざせ
      何台かの車に分譲し湯沼鉱泉を出たのは8時だった。甲武信鉱山の登山口に着いて、出発
     前の挨拶させてもらい、皆さんに次の2つをお願いした。

      1) 怪我をしない。
      2) 採集した標本を大切にして家族で楽しむ。

      第1テラスに着く頃には気温もあがり、ダウンジャケットなどの冬物を着ていた生徒は暑そうな
     ので坑道前に置いて行くことにした。ここで、伝説では甲武信鉱山は、1550年ごろの武田信玄
     の時代に金を採掘し、昭和30年ごろまで断続的に掘っていて、目の前に礎石が残っている索
     道で鉱石を貯鉱場に送ったことなどを説明する。
      第1テラスから少し斜め右に登ると「石榴石」産地だ。露頭を観察してもらい、その下に落ちて
     いる分離結晶を拾う。

      
             「柘榴石」産地

 (2) 第2テラスの「磁鉄鉱」
      直登するルートに戻り、第2テラスに到着し小休止だ。ここにある坑道は太平洋戦争前〜中に
     「磁鉄鉱」を採掘したことを説明する。「磁鉄鉱」の結晶がついた鉱石を採集した生徒がいたの
     で、持参した糸つき馬蹄形磁石を近づけ吸引することを実験して見せた。

 (3) 「ベスブ石」採集
      第2テラスから急な斜面をジグザグに登り、「ベスブ石」産地を目指す。ここを上り切れば、そこ
     から先は楽だ。

     
      「ベスブ石」産地をめざし急斜面を登る

     荷物を降ろして、落ち葉を掻き分けたり地面を掘って「ベスブ石」採集だ。生徒たちは次々とき
    れいな結晶を見つけ出す。ここでは、細長い柱状のものと短柱状のものとが見つかるのだが、こ
    んなに形が違うのに同じ「ベスブ石」だということが不思議なようだ。

 (4) 「松茸水晶」産地で日本式双晶が出た!!
      急ながけの上を横切って「松茸水晶」産地に向う。荷物を降ろしてジックリ採集だ。ここは、20
     人できても「松茸水晶」を採集できるのは一人いるかいないかだ。それだけ、見つけられれば
     喜びは大きい。水晶の頭の上に水晶が成長した『逆松茸』水晶や真っ黒いピカピカの「灰鉄
     柘榴石」、そして”サイコロ”状の「武石(ぶせき)」を見つけたと見せてくれる。
      そして、大人のこぶし大採集品を見せに来た生徒の群晶の中に「松茸水晶」が一本あった。
     近くにいた生徒を呼び集め、「松茸水晶」が2度の成長過程を経て生まれたことを説明する。こ
     の後の「緑水晶」産地で、ある生徒が小さな平板水晶を鑑定して欲しいと見せにきた。よく見る
     と、「日本式双晶」だ。ここでは、「日本式双晶」が採集できることがごく一部の人には知られて
     いる。たしか兵庫県の石友・N夫妻を案内したとき、奥さんが採集したはずだ。それ以来だから
     10年ぶりの「日本式双晶」発見だ。

        
            先細り水晶                   「日本式双晶」
                   「松茸水晶」産地の標本

      【後日談】
       湯沼鉱泉に戻って社長に日本式双晶が出たことを話すと、「めせてくれ」、と言ったが出発で
      慌(あわたただ)しい生徒の荷物の中から出す時間もなく、「後で写真を見せる」、というと、
      「写真じゃな・・・・」と実物を見たそうだった。
       私が何度通っても見られない貴重な標本を見て、写真に撮り、記録に残せるのは私だけの
      『役得』だ。

 (5) 「緑水晶」産地でまずは昼食

     
             「松茸水晶」産地を後に

      「松茸水晶」産地から斜面を登り尾根の末端にでる。ここから、急な斜面を登りきると「見晴ら
     し台」だ。千曲川の源流の一つ・梓川をはさんだ鉱物産地の五郎山(2132m)の頂に近い高さ
     だから標高2000メートル近くまで登ったことになる。ここからは尾根を歩くと古い坑道が何箇所
     か見える。緩やかな斜面を登ると「緑水晶」産地だ。ちょうどお昼近くだったので、O先生と相談
     して、昼食にする。

      朝食を急いで食べ終えて、アドバイスした範囲の思い思いの場所に散らばって採集をはじめ
     る。鑑定に持ち込まれる水晶は透明水晶がほとんどで「緑水晶」はメッキリ数が少なくなってい
     る。それでも、両錐の「緑水晶」や群晶を採集する生徒もいて、産地は健在なようだ。

      生徒たちの安全確保で殿(しんがり:一番後ろ)を勤めてくれていた石友・M夫妻が「灰重石」
     産地を知りたいとのことなので、「砒鉄鉱」産地と「ミニツイン坑」の「灰重石産地」までの道順を
     お教えした。

      ここは陽当りが良くない上に風が通るので肌寒くなり、長居は無用と「第4松茸水晶」産地を
     目指して急な斜面を下る。途中で振り返ると、15年近く昔に「緑水晶」がでてフィーバーした見
     覚えの有るズリがあった。さらに下り、古い坑道の前で後続を待つ間に足元を見ると「灰鉄輝
     石」の群晶が転がっていた。結晶の頭があり、しかも新鮮なので今回のミネラル・ウオッチング
     の記念として持ち帰ることにした。

     
               「灰鉄輝石」
             【結晶長さ:3cm】

 (6) 「第4松茸水晶」産地
      そのまま下ると「松茸水晶」産地に到着だ。荷物を降ろして、ズリ(ズリのズリか)に広がって
     採集だ。熊手で掘ると、「松茸水晶」や「柱石」などが次々と出てくる。まだ採っていない生徒に
     配る。生徒が持ち込んだ鑑定依頼品にも小さいながら「松茸水晶」があり、中には両錐もある。
      私が採集した中で一番の水晶は、湯沼鉱泉に残って両親の代りに赤ちゃんの面倒見てくれ
     ているMさんの息子に進呈した。

 (7) 「登山口」まで一気に下る
      時計は14時近い。そろそろ下山の時間だ。湯沼鉱泉に携帯をかける(甲武信鉱山には携帯
     が通じるポイントが何箇所かある)とお姐さんが出て、「社長は迎えに出ました」、とのこと。
      「ベスブ石」産地の西の尾根を下る。さすがに下りは早い。『関門』の岩の間を抜けて急斜面
     を下る。生徒たちは、フィールド・アスレチック機分で大喜びだ。第1テラスまで30分もかからな
     かった。
      第1テラスに置いていった防寒具などを持ち、社長が待つ登山口に着いたのは14時45分で、
     予定より15分早かった。

      社長に、「いいもンが採れたか」と聞かれ、「それぞれのポイントの代表的な標本が採れ、日
     本式双晶を採った生徒もいる」と手短に報告すると、喜んでくれた。

 (8) また会う日まで
      一度湯沼鉱泉に戻り服を着替て信濃川上駅に着いたのは16時を少し回ったところだった。
     ここで、一行とお別れして帰宅路についた途端、この日の晴天が嘘だったかのように曇ってき
     て、冷たい雨が降り出した。天気も味方してくれた一行だった。

      O先生からのお礼のメールで、生徒たちは産状の違う産地を回って、そのポイントの代表的な
     標本を採集でき満足していただけたようだ。
      この学校の地学部の恒例の巡検で、湯沼鉱泉を利用していただいているので、都合がつく
     限り、案内させていただこうと思っている。また、生徒たちに会えるのが楽しみだ。

3. おわりに

 (1) 世間は狭い
      O先生とは、2009年にメールをいただいてからのお付き合いだが、お会いしてしみじみとお話
     をさせていただいたのは今回が初めてだ。また、石友・Mさんが学校に標本を寄付していること
     も初めて知った。本当に世間は狭い。
      私がしてあげられる範囲で他の人を支援させていただいているのは、自分の息子や嫁さん、
     そして孫娘たちが知らない人に助けていただいているはずだからそのお返しをしようという思い
     が根底にあるのだ。

 (2) 安全
      「甲武信鉱山」には、この春先、墜落して血だらけになって湯沼鉱泉に助けを求め、社長が
     救急病院まで搬送した人がいるくらい危険な場所がある。
      今回も案内させていただいた生徒一行はスリキズなどはあったものもの大きな事故もなく無
     事下山でき、”ホッ”としている。

      この春から自治会の役員になり、定例の打ち合わせや行事が休日にあるため、ミネラル・ウ
     オッチングに行く機会もメッキリ少なくなっている。
      そのほかに、組内で見つけた問題を会長さんや市役所関係者と相談しながら解決しなけれ
     ば気がすまないMHの困った性分が余分な仕事を作る。

      私の住む組内に2箇所の空き地があり、雑草が生い茂っていた。神戸の女の子が殺害・遺棄
     されたり、「デング熱」などのニュースを目にしたり、これから冬に向かい枯れ草に火がついたら
     防火上も不安があり早く雑草を刈り取らねばと気になっていた。
      空き地には管理会社の連絡先の看板が建っているのだが、”空家率が日本一高い”地方都
     市では不動産不況が長引き、倒産したのか連絡がつかない。
      一箇所は何とか現在の管理会社を突き止め、草刈をお願いしたところ地主に連絡がつき、草
     を刈ってもらうことができた。もう一箇所は管理会社や持ち主が見つからず困った挙句市役所
     に草刈をお願いした。市役所で登記などを調べて貰ったその結果をもって担当者が拙宅に来ら
     れ、会長さんと一緒に説明を聞いた。その土地は『持ち主不明』ということで、そうなると、自治
     会で草刈をするしかないということだった。自治会住民の高齢化が進んでいて危ないし、自治
     会だけでやるのは難しいと話すと、市役所にも支援していただけることになった。

      組だけでは手に負えず、100戸あまりの自治会全体に声をかけ、『草刈隊』を募集したところ、
     16人が参加してくれることになった。予定日は台風18号の襲来で流れ、翌週の予備日に市役
     所から4名の応援をいただき、3時間足らずできれいになった。

        
                Before                          After
                             『草刈隊』

      残念なのは、参加者の一人が草を引き抜こうとした弾みで転倒し、アキレス腱を断裂してしま
     ったのだ。すぐさま、会長の車で救急病院に運んでもらい、診断の結果、入院・手術という大事
     になってしまった。

      最初から事故が懸念されてはいたが、現実に起きてしまった。今後、このような事故を再発さ
     せないためには、市が地主に代って草刈を行い、その費用を地主に請求する『代執行』などを
     制度化するようお願いするつもりだ。(やれやれ、また余分な仕事を作ってしまった)

7. 参考文献

 1) 草下 英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
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