甲武信鉱山を訪れるのは、2012年9月以来で、その後Yさんが開けた緑水晶の大きな晶洞を
観察、うまくすれば残っている「緑水晶群晶」や「灰鉄輝石」などを採集しようという魂胆だった。
登山口から、第1テラス→第2テラス→松茸水晶産地へと進む。普段から歩いていたので足の
痛みや重さはないのだが、息が上がる。頻繁に、しかもいつもより長めの休憩を取りながら、
緑水晶の大きな晶洞に1時間30分かけて到着した。以前なら、1時間で着いたところだ。
晶洞の観察を始めて間もなく、長野・O氏が追いかけるように到着した。晶洞の中の鉱物は
きれいに持ち去られ、小さな「灰鉄輝石」くらいしか残っていなかった。
ここから、「砒鉄鉱」産地に移動した。砒鉄鉱を初めて見る人が2人いるので、見本を探して
O氏に差し上げた。Yさんが、「このあたりに露頭があったはず」、という辺りを探すと、いくつか
砒鉄鉱が見える柘榴石の塊があったので、重かったけれど、3つ、4つ持ち帰った。
【後日談】
持ち帰った「砒鉄鉱」のついた塊を「塩酸」でクリーニングした。「蓚酸」なら半日から1日
漬けて置くのだが、あいにく作り置きした蓚酸液がなく塩酸にした次第だ。ただ、塩酸での
「砒鉄鉱」のクリーニングは初めてなので、10分置きに落ち具合をみて、トータル30分弱ほど
漬けておき引き揚げた。歯ブラシでこすると、茶褐色の錆で隠れていた最大20mm、10枚以
上の「砒鉄鉱」が白銀色の姿を表わし、今まで採集した中で最高の標本に変身した。
この後、「ミニツイン坑」に移動した。入口には吹きだまった雪があり、坑道内には厚く氷が
張り、坑道の天井の水滴が凍り、キラキラと輝いている。ここを訪れるのは予定外だったので、
「灰重石」を探すミネラライトもなく、「ミニツイン」に絞るが、これが見つからない。
狙いを方解石に絞ると、『自形結晶』や線が2重に見える複屈折を示す『アイスランドスパー』
があり、今までで ”一番の標本” が採集できた。
15時に下山を開始し、第4松茸→第1テラスを経て、登山口に16時に無事着いた。久しぶりの
甲武信鉱山だったが、入山者が多いわりに、まだまだ良品が隠れている。
人が見過ごしているような捨石(ズリ)の中から、1級標本を発見できると喜びが倍加する。
やはり、甲武信鉱山は奥深い産地だ。
( 2013年5月 採集 )
(2) 「甲武信Y晶洞」
登山口から、第1テラス→第2テラス→松茸水晶産地へと進む。普段から歩いていたので
足の痛みや重さはないのだが、息が上がる。2013年初めての本格的なミネラル・ウオッチ
ングの上、標高が1,500mを越えているのも息苦しくする原因だ。
頻繁に、しかもいつもより長めの休憩を取りながら、第1テラス→第2テラス→松茸水晶ズリ
に到着。最近、大きく掘り込まれたようだ。
第2松茸ズリまで登ると、先はもう少しだ。尾根を登り、緑水晶の大きな晶洞に1時間30分
かけて到着した。以前なら、1時間で着いたところだ。
ここは、2012年の秋にYさんが開けた晶洞(ガマ)で、”うに”、と呼ぶ緑〜白水晶の群晶と
単晶が多産し、日本式双晶もあったらしい。
晶洞の大きさは、直径1m弱、奥行きは2mを超え、大人ひとり”スッポリ”入ってしまう大きさ
だ。名付けるとすれば、さしずめ『甲武信Y晶洞』だろう。
晶洞の中の鉱物はきれいに持ち去られ、小さな「灰鉄輝石」くらいしか残っていなかった。
晶洞の観察を始めて間もなく、長野・O氏が追いかけるように到着した。採集するものもなく
早々に、ここを後にした。
砒鉄鉱を初めて見る人が2人いるので、私の記憶にあるポイントを探し、見つけた標本を
見本としてO氏に差し上げた。
Yさんが、「この辺りに露頭があったはず」、という。そこは私が知らない去年あたり見つか
った場所らしい。その辺りを探すと、いくつか砒鉄鉱が見える柘榴石の塊があったので、重
かったが3つ、4つ持ち帰った。
ここを訪れるのは予定外だったので、「灰重石」を探すのに不可欠なミネラライトもなく、「ミニ
ツイン」に絞るが、これが見つからない。
Yさんは晶洞開けを狙って坑道壁を叩いているが、私のほうは狙いを方解石に絞り、『自形結
晶』や線が2重に見える複屈折を示す『アイスランドスパー』を探す。
狙いを付けたポイントの方解石脈を追いかけると、紫色の『自形結晶』と透明感で線が2重に
見える複屈折を示す『アイスランドスパー』があり、今までで”一番の標本”が採集できた。
紫色の原因は、マンガンなどの、含まれる微量元素の影響と思われるが解析していない。
15時に下山を開始、第4松茸で短時間表面採集し、尾根道→切り通し→第1テラスを経て、
登山口に無事着いた。16時だった。
あちこちの産地が採集禁止や立ち入り禁止になっている中で、「湯沼鉱泉」に1,000円の
入山料を払えば、自由に採集できるのだから、訪れる人が多い訳だ。
「湯沼鉱泉」宿泊者は、入山料がタダになり、最新の産地情報を教えてもらえるのも、大きな
魅力だ。
訪れる人が多いのは結構なのだが、『ゴミが多い』のは困ったものだ。以前に比べ、おにぎ
りのパッケージなどのゴミが目立つ。
プラスチック類などは、腐って自然に帰らないので始末に悪い。目印に、あちこちの木の幹
や枝に巻かれたビニールテープや包装用ヒモも同様だ。
富士山が世界遺産になりそうだ。最初は、自然遺産を目指していたが、文化遺産の道を
選んだようだ。
夏場に集中する登山客や観光客が出すゴミから糞尿で自然遺産としての登録を拒まれ、
富士山信仰など、いろいろ並べ立て、何とか文化遺産に潜りこんだというのが実態のようだ。
2012年秋、中国人同僚3名を案内して富士山5合目を訪れたところ、観光客目当ての乗馬
の糞尿に顔を顰(しか)めたのは既報の通りだ。
これからも、甲武信鉱山でミネラル・ウオッチングが続けられるように、次のことを守りたい。
・ 『ゴミは持ち帰る』
5.2 奥深い甲武信鉱山
帰りに寄った「湯沼鉱泉」で、『いつも「第4松茸」を訪れている○○県のKさんが、今度も
5.3 " Iceland Spar " 考
Kinds of crystalline mineral , easily cleavable & non-lustrous , as calcareous 〜 ,
・ "Spar"とは、Calcareous(石灰質)spar、方解石などのように、結晶質で、へき開明瞭、
Derbyshire ( =FLUOR ) 〜 → ダービーシャイアースパー
【後日談】
Iceland 〜 → アイスランドスパー
・ もともとは、中期低地ドイツ語で、イギリス古語では、" gypsum "、つまり「石膏」を
なぜ、Iceland の名を冠しているのか、「岩石鉱物辞典」を調べてみた。
『 Iceland crystal アイスアンド・クリスタル Iceland spar に同じ。
Iceland spar 氷州石 無色透明の方解石, アイスランドより産するを以つて
・ アイスランドで産するところから、Iceland spar と呼ばれ、Ice(氷)+Land国・州)から
( Mineral Watching & Sightseeing Tour with Chainese Ladies
Yamanashi & Nagano Pref. )
・ 『目印は付けない』
多くの人が訪れている甲武信鉱山だが、入山者が多いわりに、まだまだ良品が隠れてい
る。
人が見過ごしているような捨石(ズリ)の中から、1級標本を発見できると喜びが倍加する。
やはり、甲武信鉱山は奥深い産地だ。
素晴らしい松茸水晶を採集して、先ほど帰った』、と教えてくれた。
すでに”絶産”、と思いこんでいた「第4松茸」産地だが、まだまだ採れるようだ。
アイスランドスパーの意味を、Oxfordの英英辞典で調べてみると、次の通りだ。
calcite , Derbyshire ( =FLUOR ) 〜 , Iceland 〜 , transparent calcite much used for
optical purposes.
( f. MLG spar , cong. w. OE spaeren gypsum )
光沢のない鉱物 をさす。
・ 用例として、アイスランドスパーを含む次の2つが出ている。
競馬で有名なダービー州の名前を冠したもので
" FLUOR" とあるので「蛍石」なのだろう。
念のため、「岩石鉱物辞典」を調べてみると、
『 Fluorite に同じ』 、とあり、「蛍石」で間違い
ないようだ。
「ダービーシャイアースパー」
【「蛍石」のこと】
【横 55mm】
透明な方解石で、光学部品に多用される。
指していた。
此名あり, 重屈折性が明瞭でニコル柱の製作,実験用に
用ひらる 』
和名は 「氷州石(ひょうしゅうせき)」 になった。
・ 「アイスランド・クリスラル」 、という言い方もある。
6. 参考文献
1) E.McINTOSH:THE CONCISE OXFORD DICTIONARY ,CLARENDON PRESS ,1951年
2) 木下 亀城:岩石鉱物辞典,風間書房,昭和46年
3) 草下英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
4) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年