9月に入って、神奈川県のKさんから、「石友・小Yさんの紹介だが、2人の子ども(小学生)
と一緒に甲武信鉱山に案内して欲しい」、とのメールがあった。小Yさんの紹介なら無碍
(むげ)に断ることもできず、大学生と一緒に案内することにした。
9月某日、kさん一家と「須玉IC」で合流し、湯沼鉱泉からDさん一行が加わった。この日
は、「登山口」→「川端下水晶坑」→「緑水晶ズリ」→「砒鉄鉱産地」→「ミニツイン坑道」
→「第4松茸水晶ズリ」→「柱石産地」→「ベスブ石産地」→「登山口」、といささか欲張りな
コースを巡ることにした。
コースのポイント、ポイントでは参加者の誰かしらが、この産地を代表する標本を手にし
て、羨望のまなざしを受けるとともに、産地の奥深さと健在なことを再確認した。
( 2012年9月 案内 )
(2) 「湯沼鉱泉」にて
湯沼鉱泉に着くと、川上犬が出迎えてくれた。K家のH君(小6)とHちゃん(小4)は
人懐こい川上犬が気に入ったようだ。
某大学で地質科学を専攻するDさん一行は、1年生主体の女学生2名を含む総員6名
で、本格的なミネラル・ウオッチングはこの日が初めてとのことだった。
社長に今日のコースを説明し、湯沼鉱泉で働くKさんからも最新の情報を貰って出発
だ。
(3) 「川端下の水晶坑」を目指せ!!
春先には荒れ果てていた甲武信鉱山への林道は整備され、今では乗用車でも登山
口まで乗り入れることができる。ここから、標高2000mの尾根の鞍部を目指す。標高差
500m弱で、標準所要時間1時間45分だ。
いきなりの急な登りに、Kさんの奥さんは苦しそうだ。逆に子どもたちは元気そのもの
だ。皆さんの歩みを見ながら立ったままの「小休止」と荷物をおろしての「休憩」を取る。
私は、朝夕計1時間のウオーキング通勤の成果か、快調そのものだ。
7分目ほど登った辺りから、足元に真っ白い石英塊がゴロゴロと出現する。その表面
や晶洞部分には水晶が見られ、K一家、Dさん一行が歓声を上げる。
いつものことながら、「もっと良い標本が採れますから、置いていきましょう」、と先を
急ぐように促す。やがて、少し険しい登りになるが、樹林の上には青空が見えて尾根
が近いことを知らせてくれる。
出発して1時間40分で、尾根の鞍部に到着だ。「標準時間より5分早かった」、と話す
と皆さん、「ヤッター!!」、喜びの声を上げる。
ライトと採集用具だけを持って100mも下ると水晶坑と草下先生のフィールド・ガイドに
もある『大ズリ』だ。
まずは、坑道内を案内する。坑道に入るの初めての人が多いらしく、入口に狭いとこ
ろがあるものの、人が立って歩け、場所によっては天井までかなりの高さがあるのに
は驚いた様子だった。坑道の壁面の晶洞部分に水晶が生まれることなどを説明する。
坑道内に堆積した粘土の中から、水晶を掘り出しもらう。
いきなり、Hちゃんが10cmを越える、しかも両頭水晶を掘り出し、皆さんのやる気も
盛り上がる。
ズリ組の様子を見に坑道の外に出ると、なかなかの良品を掘り出している。この産
地としては珍しい、”ピカピカ”で透明感のある水晶だ。
【後日談】
翌日は雨でDさん一行は、湯沼鉱泉で一日を過ごしたそうだ。最終日に、川端下の
水晶坑を再び訪れ、Dさんが採集した水晶は、社長見せたところ、『良(い)いもんだ』、
と誉めてくれたと写真を送ってくれた。
また、Kさん一家も採集品を帰宅後洗浄し、写真撮って送ってくれたので紹介する。
(4) 「緑水晶ズリ」
喘ぐように、尾根まで戻り、ここで昼食だ。食事する皆さんの顔には、水晶を採り、満
腹になった満足感からか自然に笑みがこぼれる。皆さん、ズシリと重くなったザックを
背に、次の産地「緑水晶ズリ」まで尾根を下る。
ズリには先客がいた。湯沼鉱泉のKさんの情報では、かなり下の方でも採集できる
との事なのでそこを探査してみる。
皆さん、緑水晶や両錐水晶を採り、満足そうだった。
(5) 「ミニツイン坑道」
ここから少し登るように、小さな支尾根を越えると、「砒鉄鉱」と「灰鉄輝石」産地が見
えてくる。この日は時間がないため、Dさんに露頭や坑道の位置を教えて、本命の1つ
「ミニ・ツイン坑道」を目指す。
坑道入口に荷物を置き、ライト、ミネラ・ライトそして採集用具をもって坑道に入る。坑
内には、”キラキラ”光る「方解石」があり、クリスタル・ゾーンに踏み込んだような印象
を持ったようだ。
ここでは、ミネラライトで青白く光る「灰重石」と、何と言っても「緑水晶の日本式双晶」
が狙いだ。
「日本式双晶」は狭い範囲でしか採集出来ないので、私が入ってサンプルをいくつか
採集した。
皆さんが坑道を出たところで、私が採集した3つの『日本式双晶』の分配だ。私の一
存で、小4のHちゃんが最初に好きなのを選び、残り2つを2人の女子大生がジャンケン
で選んでもらった。
坑道の中の「方解石」には、めずらしい『自形結晶』や複屈折を示す透明なものもあり
解説・実演させていただいた。
(6) 「第4松茸ズリ」
15時を回り、大急ぎで下る。「第4松茸ズリ」で、短時間だが採集すると、目聡いH君
がいくつか「松茸水晶」を採集した。私もいくつか採集したが、Dさんや周りにいた人に
差し上げた。
(7) 「ベスブ石」産地
斜めに下って行くと、「ベスブ石」産地に行くはずだ。途中で、「柱石」露頭を通る。そ
こには透明感のある「柱石」があり、採集品をDさんに差し上げる。
さらに下るとベスブ石産地に着き、荷物をおろして採集だ。
目の良いHちゃんは、次々と良品を発見する。Dさんが採集した1cmを超える結晶も
今となっては貴重だ。私も小さいながら、訪山記念に1つ持ち帰った。
(8) また会う日まで
名残は尽きないが、すでに16時近い。急いで、下山だ。第2テラス→第一テラスの順
で下る。
こうして、全員無事に駐車場に帰ってきた。Hちゃんの発案で、皆さんと記念写真を
撮る。
Kさん一家を宿まで送り、学生たちを「湯沼鉱泉」に送って解散だ。
翌日朝には、千葉に向けて出立する私は、社長とお姐さん、そしてKさんに挨拶して
帰宅した。
さて、歩いて会社に行くと、汗がシャツや下着にまでしみ込んでしまい、不快な気持で
過ごさねばならず、仕方なしに朝はバスに乗って会社に行くことにした。
バスの時刻表を見ると、今も継続している早朝会議に間に合うためには、7時前に駅
前を出発する1本しかない。そこで、6時には起床し、そのバスに乗り、7時少しすぎには
会社に着く生活を1ケ月余り過ごしている。
このまま、年末まで夏が続くのではないかと思われたが、『暑さ寒さも彼岸まで』と
昔の人の言う通り、秋分の日を境に、秋の訪れが感じられるようになった。
今日などは、日が沈むと風が肌寒いほどだ。いよいよミネラル・ウオッチングの好機
到来だ。
5.2 2012年秋のミネラル・ウオッチング
9月から10月にかけ、小学生から大学生、そして一般の方々を産地に案内する約束
が目白押しで、毎週のように山梨に戻っている。
その締めくくりが、恒例になっている2012年秋のミネラル・ウオッチングだ。皆さんと
長野県の新旧産地を巡る予定だ。
多くの石友と湯沼鉱泉でお会いできるのを楽しみにしている。湯沼鉱泉社長、お姐
さん、そして川上犬も待っている。