2012年6月 長野県甲武信鉱山の近況







       2012年6月 長野県甲武信鉱山の近況

1. 初めに

    2012年春、神奈川県の小中高一貫校のK先生から、「7年生を昨年のN先生のクラスと
   同じようにミネラル・ウオッチングを体験させたいのだが」、と相談を受けた。しかも、「格安
   の宿で一泊2日で」、との注文までついていた。

    格安の宿で思い当ったのは、われわれの定宿・長野県川上村の「湯沼鉱泉」だ。そこで、
   一日を山梨県での水晶ウオッチング、もう一日を川上村でのミネラル・ウオッチングの案を
   提示し、K先生一行と下見を行うことにした。

    山梨県での水晶ウオッチングの模様は、既報の通りだ。

   ・小学生とミネラルウオッチング in 山梨 Jun.2012
    ( Mineral Watching with school girl in Yamanashi , Jun. 2012 )

    この後、この日の宿・長野県川上村の湯沼鉱泉に着いたのは17時半だった。早速、水
   芭蕉の群生地や社長自慢(?)の「水晶洞」を案内した。街中の博物館と大違いの陳列
   方法には、独創的な教育で知られる先生方も新鮮な衝撃を覚えたようだった。

    先生方に入浴していただいた後、お待ちかねのお姐さんの料理に舌鼓を打ち、8時過ぎ
   に星空観察で外に出てみると、目が慣れるに従い、神奈川では見られない<満天の星で
   「こどもたちに是非見せたい」、と喜んでいただいた。

    翌日、先生方を甲武信鉱山に案内した。第1テラス→第2テラス→ベスブ露頭→松茸水
   晶ズリ→第4松茸ズリ
、と狭い範囲だったが、多くの種類のすばらしい鉱物標本が観察
   でき、大満足していただけたようだ。
    ただ、甲武信鉱山には、絶壁のような箇所もあり、子どもたちの安全面を危惧されてい
   たようだ。

    本番では、大勢の子どもたちとの出会いを楽しみにしている。
    ( 2012年6月 案内 )

2. 湯沼鉱泉のみどころ

    川上村の「湯沼鉱泉」を訪れる楽しみは、春夏秋冬、四季それぞれにある。春は何と言
   っても「水芭蕉の群落」だ。
    今の季節、水芭蕉の花の盛りはすでに過ぎていたが、大きな株が多数生い茂っている
   様は圧巻だ。社長に、「昔に比べて増えましたね」、というと、「まあ、この辺りでこれだけ
   のものは見れねエな」、と自慢げだった。

       「水芭蕉」【2011年5月】

    春夏秋冬、季節を問わずミネラル・ファンを楽しませてくれるのは、社長が私財を○億円
   注ぎ込んだとされる「水晶洞」だ。

       「水晶洞」のT先生一行

    街中の博物館と大違いの陳列方法には、独創的な教育で知られるT先生一行も新鮮な
   衝撃を覚えたようだった。

    そして、旬の素材を生かしたお姐さん自慢の料理、オオカミの血をひくとされる「川上犬」
   そして川上村の景色だ。
    T先生が、子どもたちに下見の様子を話すと、「川上犬」や「猫」と会えるのを楽しみにし
   ている子も多いらしい。

         
                松茸                      川上犬
             【社長が採った】

         
             シャクナゲ                  紅葉

3. 甲武信鉱山下見

    甲武信鉱山は、懐(ふところ)が深く、初めての人は迷うことが多いようだ。御多分に洩
   れず私も訪山5回目くらいで迷い、『死の彷徨(ほうこう)』一歩手前になったこともある
   ほどだ。
    産地の詳しい情報は、湯沼鉱泉に行き、入山料(1,000円)を払って、備え付けてある石
   友・小Yさんが作成した、「甲武信鉱山−国師鉱床 鉱物類観察・採集マップ」をもらい、こ
   れを持参すると良いだろう。
    社長に、新しく発見された産地の情報なども教えてもらえるはずだ。

       観察・採集マップ【小Yさん作成】

    この日は、初心者でも楽(なはず?)のコースを案内することにした。

     第1テラス→「柘榴石サンクチュアリ」→第2テラス→ベスブ石産地(第3テラス)
     →(第1)松茸水晶ズリ→第4松茸産地、とベテランの人たちを案内する範囲の半分
     以下だ。

 (1) 第1テラスを目指す
      登山口から、第1テラスを目指す。九十九折れのコースでゆっくりと登り始める。100m
     ほど登っては、「小休止!」

      第1テラスで、リュックを下して、「小休止!」。 ここには、古い坑道が口を開けている
     のと金山が稼行くしていたころの鉄索の基礎が残っているだけで、見るべき鉱物はな
     い。
      ただ、私には、持参した「メロン」を冷やす大事なミッションがある。

       鉄索跡

 (2) 「第2テラス」
      サンクチュアリから、斜め左上に登り、露頭を下ると、第2テラスが近い。第2テラスの
     坑道では戦前(1940年ごろ)「磁鉄鉱」を採掘していたと聞いた。

      ここでは、甲武信鉱山がスカルン鉱床と呼ばれる所以(ゆえん)の「珪灰石」や「灰礬
     ザクロ石」などが「磁鉄鉱」とともに観察できた。
      ここで、坑口前で記念撮影。

       坑道前のT先生一行

 (3) 「ベスブ石」産地
      ここから、100mほど、急な斜面を九十九折れに登ると「ベスブ石」の産地に到着する。
     最近、”パワフル○人組”が露頭を崩した話もなく、ズリのベスブ石はメッキリ少なくな
     っていた。しかし、探せばあるもので、ズリ採集品では、今までで一番に近い「両錐ベ
     スブ石」を採集できた。

 (4) 「松茸水晶」産地
      ここは恒例のミネラル・ウオッチングで何回も訪れている。「松茸水晶」に縁のないと
     自称する奈良・Aさんや、人の足元から素晴らしい「松茸水晶」を拾う幸運な滋賀・Oさ
     んなど、訪れるたびにドラマが生まれている。
      最近降った大雨の後、誰も訪れていないのか、表面採集だけでも「緑水晶」や「武石」
     などが見つかる。ズリを少し掘ると、「ランドセル型」と呼ばれる「松茸水晶」が姿を現わ
     し、子どもたちの見本としてT先生が持ち帰った。「緑水晶」の良品も観察できた。

 (4) 「第4松茸水晶」産地
      ここは、湯沼鉱泉で働いていた(いる?)・Kさんが2009年に発見した古いズリで、い
     ち早く教えていただき、案内した石友達は良い思いをした場所だ。

     長野県甲武信鉱山「第4松茸」水晶産地の鉱物
     ( Minerals from " Dai4matsutake " QUARTZ Point , Kobushi Mine , Nagano Pref. )

      あれから3年、産地は訪れる人もないようだ。ズリの片隅を掘ると、盛りの時期にも
     希な大きさの「松茸水晶」が姿を現した。

      ここで、湯沼鉱泉のお姐さんが作ってくれたお弁当を食べ、下山した。もちろん、第1
     テラスに冷やしてきたメロンは、別腹に収まった。

4. 観察鉱物

         
                  ベスブ石             緑水晶

         
                 灰礬柘榴石           松茸水晶

5. おわりに

 5.1 2012年月遅れGWミネラル・ウオッチング
      夏場の節電対策で、7月、8月に休みを増やすため5月、6月の土曜日はすべて出勤
     になっている。それでも、子どもたちや学校関係者をフィールドに案内するため土曜日
     の何日か休ませてもらった。

      恒例になっている2012年月遅れGWミネラル・ウオッチングだが、2ケ月遅れになりそ
     うだ。
      今年は、「昔乙女コース」でOB、OGたちの懇親がメインになりそうだが、若い健脚組
     の参加者もあり、ハードなコースも用意した。

      多くの石友と湯沼鉱泉でお会いできるのを楽しみにしている。湯沼鉱泉社長、お姐
     さん、そして川上犬も待っています。

6. 参考文献

 1)佐久教育会編;五無斎 保科百助全集 全,信濃教育会出版部,昭和39年
 2)佐久教育会編;五無斎 保科百助評伝,同会,昭和44年
 3)草下英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
 4)松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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