2010年5月 長野県甲武信鉱山案内記

        2010年5月 長野県甲武信鉱山案内記

1. 初めに

    2010年4月、私のHPの愛読者である山梨県・Sさんから、「川端下(かわはけ)の水晶ズリに行
   きたいので地図を書いて欲しい」
、とメールがあった。なんでも、2、3度挑戦したが、行きつけな
   かったらしい。地図で説明できる場所でもなく、GWに直接案内する事にした。ただ、前半妻の父
   親の一周忌があり、それを終えて山梨に戻り、農園の手入れが済めば案内する約束にした。
    このGWは晴天続きで、農園の草をとり、スイカの苗を植え、ズッキーニ、胡瓜などの種を播き
   山を案内する日をひねり出すことができた。

    S夫妻と野辺山のJR最高地点で合流し、湯沼鉱泉で入山料1,000円(私は、現物)を支払って
   いると、宿泊していた一家にどちらからともなく声をかけた。話してみると、私が小学生を案内す
   る山梨県北部の水晶産地の地図を送ったHさん一家だった。この日の予定を聞くと、まだ決まっ
   ていない、と言うので甲武信鉱山を案内する事にした。

    こうして、女性2名、高校生1名を含む5名と共に、川端下→緑水晶Aさんズリ→ミニ・ツイン坑道
   →第4松茸産地→ベスブ石産地 を巡るコースを案内した。

    みなさん、川端下では大きな水晶を採って大喜びし、緑水晶ズリではT君(高1)が今どき珍しい
   大きさの「両錐緑水晶」を掘りだし、周りから感嘆の声が上がった。
    ミニ・ツイン坑道は、冬の間に吹き込ん雪が氷になり、つららが垂れさがり、大きな氷柱はまる
   で『結晶洞窟』を思わせた。何とかガマ(晶洞)が開き、一人ひとつずつ、お土産に「日本式双晶」
   を渡すことができた。

    18時過ぎ、まだ明るいうちに全員無事に下山し、またミネラル・ウオッチングでお会いするのを
   約束し、お別れした。

     下山して記念写真【撮影:Hさん】

    私は、「X型日本式双晶」や「ピンク色方解石自形結晶」を採集でき、その上、朝夕5kmのウオ
   ーキング通勤の成果か、翌日ほとんど筋肉痛を感じず、今回も『情け(親切)は人の為ならず』
   を実感したミネラル・ウオッチングだった。
    同行いただいた石友の皆さんに、厚く御礼申し上げます。
   ( 2010年5月採集 )

2. 川端下(かわはけ)の水晶産地

    駐車場に車を停め、川端下の水晶坑の直上の尾根の鞍部を目指し登り始めたのは9時ジャスト
   だった。登りに要する『標準時間は1時間45分』、と伝えこれより早いか遅いかで、『体力判定』して
   いただく趣向だ。ほとんど真西に登るコースで、途中に少し急な箇所もあるが、休憩を適度に挟
   めば女性でも登りやすい。

    鞍部近くになると、大きな石英の塊には、小さな水晶がビッシリ付いているものもあり、休憩を
   兼ねて観察していた。( さすがに、持ち帰ろうという人はいない  )

     川端下 登山

    登り始めて『1時間48分』で標高2,000mの鞍部に到着。標準時間より3分オーバーだから、皆さ
   んの体力はマズマズだろう。

    産地に到着してまずSさん念願の「水晶坑」を案内。何度目かの挑戦で願いが叶ったS夫妻は、
   感激の面持ちだった。
    この後、ズリの思い思いの場所に散らばって水晶を探す。ここで、皆さんの採集用具を見て驚
   いた。誰一人『熊手』を持っていないのだ。
    湯沼鉱泉で初めて会ったHさん一家は仕方がないにしても、Sさんには、採集用具として用意す
   るもののリストに加えておいたのだが・・・・・・。
    皆さん、辺りに落ちていた木の枝で、ズリをほじくっているが、20cmも下はカチカチに凍ってい
   て、熊手でさえも歯が立たない。それでも、『今までで、一番大きな水晶』を採集できて、大喜び
   だった。他には、この産地ならではの「方解石」、「柱石」そして「灰ばん柘榴石」を採集できた。

      
       坑道前で喜びのS夫妻      カチカチに凍ったズリ
                  川端下水晶産地

3. 緑水晶ズリ

    水晶坑前で、昼食を摂った後、緑水晶ズリを目指す。ここからは、尾根道を下るだけなので、
   皆さんの足取りも軽い。
    ズリは、大勢の人が訪れ良品は少なくなっている。そろそろ次の目的地に行きましょう、と声を
   かけてすぐに、T君が「ありました!!」と歓声を上げた。見ると、両錐、長さ7cmはある見事な
   緑水晶だ。
    私が案内するミネラル・ウオッチングには「ラスト5分のYさん」、というジンクスがあったが、これ
   からは「ラスト5分のT君」に引き継がれそうだ。

     良品を手にするT君

4. ミニツイン坑道『結晶洞窟』

    ここで、皆さんにお尋ねした。@このまま、ベスブ石露頭を経て下りたい人 Aミニツイン坑道を
   訪れたい人
    みなさん、Aを希望されたので、ミニツインの坑道に案内することにした。

    途中、「灰鉄輝石」の洞窟を経由し、急な斜面を登ると、坑口がある。坑内には氷が張りつめ、
   氷柱(ツララ)も多数垂れさがっている。坑道の奥には、大きな氷柱があり、以前テレビで放映さ
   れた『結晶洞窟』のようだ。

      
       坑道脇の吹き溜まり         氷柱
                  ミニツイン坑

    坑道の中は冷蔵庫のように冷え切っている。ライトで照らされた「方解石」の大きな結晶を見て、
   Hさんは感嘆の声をあげている。
    ここの目玉の「日本式双晶」を探すのだが、なかなか”晶洞(ガマ)”が開かない。そろそろ引き
   上げる時間になって、ようやく開いた。
    30分時間を延長させてもらって、皆さんに配る分を確保した。

     晶洞(ガマ)

    坑道の外に出ると、”モワ〜”っと暖かく感じる。採集した「日本式双晶」や群晶などを並べて、
   「標本玉手箱」だ。ジャンケンで勝った人から好きな標本を選んでいただく。みなさん、アレコレ
   悩みながら、一人1つ選んでいただいた。

5. 『第4松茸水晶』ズリ

    ここから、道なき急斜面を斜めに下って、「第4松茸水晶」ズリを目指す。ズリは大きく掘り返さ
   れていて手のついていない場所はないかのようだ。それでも、Hさんが「松茸水晶群晶」を採集
   するなど、まだまだ良品が隠れているようだ。

6. 登山口目指して

    登山口に向かって下りながら、「ベスブ石露頭」に立ち寄った。ここでは、昨年秋に某団体によ
   る採集会が2009年秋に開催され、ズリにはベスブ石はないのでは、と危惧していたが、ポイント
   に当たるとまだまだ良品が採集できた。
    Hさんの奥さんがすばらしい品を採集したので『ベスブの女王』の尊称を差し上げようとしたが、
   「 ”ド○ス”みたいで語感が良くない」 と、あっさり返上されてしまった。

     ベスブ石採集風景

    第2テラスに行くと、「珪灰石」があったので、小割りにして「甲武信鉱山スカルン鉱床」訪山記
   念に皆さんに差し上げた。
    登山口に戻ったとき、まだまだ明るかったが18時を回っていた。冒頭に掲げた記念写真を撮っ
   て、またお会いできるのを楽しみに解散した。

7. おわりに

 (1) 『ミネラル・ウオッチング in 川上村』
      Hさん一家とS夫妻にとって、川上村での本格的なミネラル・ウオッチングはこれが初めて
     だったようだ。
      帰宅後、お礼のメールと共に、採集品の写真を送っていただいたので紹介する。

     S夫妻
     『 その後、洗い出し時もいろいろ思い出しながら会話も弾みました。山から持参した採集品
       は・・・・・・・・、二人で行って良かったと思っています。
       鉱物採集が夫婦円満に一役かっています・・・                          』

       ごちそうさま・・・・・・・・MH

     Hさん一家
     『 昨日は朝に突然混ぜて頂き、その後一日案内して頂き本当にありがとうございました。
       2日、3日と家族だけで地図を頼りに山の中でうろうろしていたました。それはそれで楽し
       かったのですが、自分たちがどこにいるかもよく分からない状況でした。
       そのような素人の案内は大変だったと思います。

       昨日はポイントポイントに連れて行って頂き、これまででは夢のような水晶を採集する
      ことができ、また方解石に囲まれた坑道は幻想的な世界でした。自分たちだけでは絶対に
      体験できない一日でした。高一のTもとても楽しんでいました。                 』

      また、ご一緒しましょう・・・・・・・・MH

採集者 産地 採集標本 写真
Hさん一家 川端下
(かわはけ)
両錐松茸水晶
甲武信鉱山
Aさんズリ
緑水晶
(「緑閃石」入り水晶)
S夫妻 甲武信鉱山
ミニツイン坑
日本式双晶
甲武信鉱山
ベスブ石露頭
ベスブ石

 (2) 『 ハンマー忘れても熊手忘れるな 』
       今回案内した皆さんは、「熊手」を誰も持っていなかったので、採集に苦労したようだ。
      私は、フィールドでハンマより熊手を使う頻度のほうがはるかに高い。某県には「弁当忘れ
      ても傘忘れるな」、」ということわざがあると聞いたことがるが、ミネラル・ウオッチングでは、
      『 ハンマー忘れても熊手忘れるな 』 であろう。

 (3) ミネラル・ウオッチングシーズン到来
      川上村を訪れると、道路わきの温度表示盤が15℃を示していた。村の桜、梅、李(すもも)の
     花が一斉に咲いていた。

        
           気温 15℃             一斉に開花
                     川上村の春

      もうすぐ恒例になっている「月遅れGWミネラル・ウオッチング」の季節が訪れる。全国の大勢
     の石友と「湯沼鉱泉」でお会いできるのを社長、お姐さんそして私たち夫婦が楽しみにしてい
     る。

8. 参考文献

 1) 草下 英明:鉱物採集フィールド・ガイド,草思社,1988年
 2) 松原 聰、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
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