・静岡県富士宮市「奇石博物館」の鉱物
(Minerals of The Kiseki Museum of World Stones , Fujinomiya City , Shizuoka Pref.)
あれから15年近くが経ち、”フト思い立って”、伊豆での用事が早めに終わったのを幸いに、その帰
りに立ち寄ってみた。
2002年に訪れたときに見て採集意欲をかき立てられた、私が住む山梨県「小尾八幡山の燐灰石」
は場所は移ったようだが以前と同じように「今吉コレクション」として展示してあった。この産地の「燐
灰石」を入手した今となって見ると、”な〜んだ、この程度の標本なら私でも持っている”、という不遜
な気になる。
しかし、最初訪れたときには世に知られていなくて、2014年に発表された「今吉石」などが展示さ
れていて、この種の博物館は数年に一度は訪れてみることが必要だと思わされる。
(2002年12月初訪問 2016年2月再訪 )
・ 開館時間 9時〜17時
・ 入館料 大人:700円
小中高生:300円(毎月第2・第4土曜日と5月5日は無料)
・ 休館日 毎週水曜日(祝日の場合は翌日)
年末約7日間
7/20〜8/31は無休
一人500円(大人子ども同一料金)を払って30分間水槽の中から宝石を探す「宝石わくわく広場」
は、開館日の土日祝日と正月休み、春休み、GWと7/20〜8/31は毎日オープン。
ホームページがあるので、訪れる前にチェックすると万全だ。
3.2 奇石博物館
(1) 設立の目的
益富博士が現代に蘇らせた石亭の奇石による分類にならって、鉱物や化石を展示、収集、
研究している博物館で、館の名称は、石亭の「奇石会」に因む。
なじみにくい地学や鉱物を奇石を通じて親しんでもらうことを目的に、1971年に開館した。
(2) 博物館の構成
博物館の館内配置図を下に示す。
入館券を購入してエントランス・ホールに入ると、「今月の石」や「話題の石」が出迎えてくれる。
2月のイベント、バレンタイン・ディ → チョコレート → 「チョコレート鉱」が「今月の石」だ。「チョコ
レート鉱」とは、色彩がチョコレートに似ていることに因んだ愛称で、正体はハウスマン鉱【HAUS
MANNITE:MnMN2+2O4】の緻密な塊で、マンガンの重要な鉱石の1つだ。
マンガン鉱物の悲しい宿命で、酸化して真っ黒な軟マンガン鉱になってしまっていたのは残念
だ。
話題は、”113番元素の発見”で、原子番号83の蒼鉛(Bi:ビスマス)に30番の亜鉛(Zn)を
衝突させて、113番元素を合成することを説明している。「クローズアップ展示」のタイトルで、
蒼鉛と亜鉛を代表する鉱物として、生野鉱山産「自然蒼鉛」と神岡鉱山産「閃亜鉛鉱」を
展示していた。
エントランス・ホールには小さなステージがあって、ここで随時(20分おき?)、学芸員による
「石の解説」が行われる。観客は幼児2人を連れたご夫妻、若いカップル、そして私と幅広い
年代にわたり、シーズン・オフにもかかわらず賑わっている印象だ。
・ ”かんかん石”(サヌカイト)
・ ”テレビ石”
・ ”コンニャク石”
など、不思議な石を手に持たせてくれて、紹介してくれる。
順路に従って進むと、「化石の世界」、「奇石の世界」、「光る石の世界」、「企画展示室」
「宝石の世界」、「賢治サン石ノ世界」が順番に出迎えてくれる。
15年前に訪れたときと展示の配置が変わっていて、スペースも広くなっているような気がした。
私の目的は「奇石の世界」だが、『自分の好きな世界』にドップリ漬かって心行くまで時間を
かけて楽しめばよいだろう。
@ 「奇石と木内石亭」
館の名前にもなった、木内石亭の著わした「雲根志」とそれに掲載されている代表的な標本を
当時の呼び名と現在の地学や鉱物学での名称を対比している。
例えば、”天狗の爪” → 「サメの歯化石」 、といった具合だ。
「饅頭石」は全国各地で採集でき、山梨県の「饅頭峠」や「ホッチ峠」でも産出する。弘法大師
伝説とも結びついていて、「人間や尊像にちなむ」や「食物にちなむ」コーナーでも展示している。
A 「川喜田政明」
川喜田政明(1822-1879年)は、伊勢国(現三重県津市)で生まれた。当時、川喜田家は江戸
で200年以上も木綿問屋を営む伊勢商人屈指の豪商だった。
政明は、「石水(せきすい)」などの号を持ち、和歌、本草学などの趣味に没頭した。本草学では
医薬として効能のある動植物や石(鉱物)などの天産物を集めた展示会『物産会』を開催したり
した。
B 「アマチュア鉱物界の父・益富壽之助」
この博物館の命名にかかわり、名誉館長を務めたことのある益富壽之助博士(1901-1993年)の
コーナーだ。博士が発見にかかわった新鉱物「大隅石」や博士に献名された「益富雲母」などととも
に、博士が愛用したカメラやフィールド・ノートなどが展示してある。
博士が「中沢晶洞」で写っている写真は、石友・Oさんが撮った、と記憶している。博士のお名前の
”壽(寿)之助”が”かずのすけ”だと知ったのも新たな発見だった。
C 「薬になる石」
闘病の甲斐なく亡くなった人に『薬石効なく』と使われることからもわかるように、石(鉱物)は古代
から薬品や化粧品などとして使われていた。
現在では、”毒薬”の「辰砂」や「石黄」など、水銀や砒素などを含む鉱物も薬には違いないが、
鉱物性生薬として使われていたのには、驚きだ。
D 「器物にちなむ」
算盤球(そろばんだま)石、貨幣石などわれえあれの身近にある(あった)器物に似た石(鉱物)を
展示している。
E 「植物にちなむ」
桜石、梅花石、菊石など、断面が花の形に似たり、外形が植物に似た石(鉱物)が展示してある。
「松茸水晶」がここに分類されているのは意外だったが、動物・植物かと言われれば植物だ。
F 「古今東西の人にちなむ」
古今東西の有名人が発見したり、その人の名を冠する石(鉱物)が展示してある。「ナポレオン石」
など、意外なものもある。
G 「物理現象にちなむ」
摩擦すると静電気が起きる電気石、紫外線で蛍光する蛍石、複屈折を示す氷州石(アイスラン
ド・スパー:方解石)など電気・光・音などの物理現象にかかわる石(鉱物)が展示してある。
かんかん石(サヌカイト)は、この分類に収められている。
H 「今吉標本」
今吉隆治氏(1905-1984年)は、永年、国立科学博物館地学部に勤務され、鉱物コレクターと
して知られていた。
今吉先生は、亡くなる1年前に、1万点に及ぶ標本をつくば市の地質標本館に寄贈した。その際、
どうしても手放したくない標本を手元に残された。昭和59年に亡くなられた後ご子息は、この標本を
生かす道を模索し、平成4年に、秘蔵の今吉標本328点を奇石博物館に寄贈した。
展示されているのは国産標本がほとんどで、燐灰石だけをとっても「玄倉産」と「小尾八幡山産」が
並んで展示してある。
私が、地元「小尾八幡山産燐灰石」の採集・入手に燃えたきっかけは、2002年にこの標本を見た
ことだった。
2014年に発表された新鉱物「今吉石」【IMAYOSHIITE:Ca3SAl(CO3)[B(OH)4](OH)6・12H2O】は、
当然2002年に訪れたときには展示されていなくて、新たに加わった標本だ。
I 「お国自慢」
日本各地の地元を代表する石(鉱物)として、「愛媛閃石」や「千葉石」などの日本産新鉱物や
古くから歌に詠まれた「さざれ石」、地元の物産・新島の「抗火石」などが展示してある。
J 「燃やすと変化」
加熱すると伸びる「蛭石(ひるいし)」、燃やすと炭と同じように灰になるダイヤモンドなど、加熱や
燃焼することによって形や性質が変化する鉱物を展示している。
K 「身近な物に変身」
われわれの生活に必要不可欠なプラスチックなどに変身しているがもとは地下資源の「石油」など
身近な物に変身している石(鉱物)。
L 「地球外の石」
地球の外からやってきた「隕石」を展示している。
M 「宝石」
新着標本として、「あまちゃん」でも有名になった岩手県産の「琥珀」が展示してあった。琥珀は、
古代から装飾品として利用された長い歴史を持っている。
以上の他に、次のような展示やブースがあり、石(鉱物)だけではなく、化石や文学好きな人にも
楽しめる展示になっている。
・ 光る石
紫外線で光る石を集めた暗室があり、紫、赤、黄色に光るさまは、幻想的だ。長野県川上村
の「湯沼鉱泉の水晶洞」に子どもたちを案内すると一番人気なのが紫外線で蛍光する鉱物だ。
・ 化石
展示の30%くらいは化石が占めているのだが、化石には興味が薄い Mineral Hunters は、素
通り状態だった。しかし、別な趣味の「古銭」関係で、緡銭(さしぜに)、さしと呼ぶ細い紐を通して
まとめた銭の束とそれに似た「銭石(ぜにいし)」が並んで展示してあったので写真に写してきた。
「銭石」は、美濃(岐阜県)赤坂山産とあるところから、「ウミユリ化石」だろう。
・ 石デ読ム宮沢賢治
宮沢賢治は、「石っこ賢さん」と呼ばれるほどの石好きで、彼の作品には、鉱物や地学をモチー
フにした作品がある。
それらの作品とそこに描かれた鉱物や岩石の実物がストーリの展開に合わせて展示してある。
・ ミュージアムショップ
ここでは、化石、鉱物(外国産がほとんど)やそれに関連する書籍などを販売している。私の
お奨めは、今吉標本の逸品がオールカラーで印刷された「鉱物コレクター 今吉隆治の世界」
(1,000円)だったのだが、今回おいてあるのか確認するのを忘れてしまった。
石英を思わせる白色不透明でガラス光沢、円柱状で頭は丸みを帯びたややルーズな結晶で
これを見た瞬間、私が八幡山で採集した不明鉱物は、燐灰石ではなさそうだと思った。
以来、何度か八幡山を訪れ、同行のT氏が「燐灰石」を採集したが、私には幸運の女神は微
笑んでくれず、結局「ミネラルショー」で”現金採集”となった。それでも、物が物だけに、手に入った
だけでも良しとせねばなるない。
この時山梨県向山産の水晶の群晶が展示してあった。水晶峠に似た先細りで草入りが特徴
で、ここも、攻めてみたいと思い、その後何度か訪れて、念願の”美晶”を採集することができた。
このように、「奇石博物館」は私の収集(採集)意欲を高めてくれる博物館であった。
(2) 「奇石」のイメージとして、”奇妙”とか”奇天烈(きてれつ)”とかをつい思い浮かべてしまう。しかし、
「奇石博物館」は学術的にも真っ当な博物館だと言える。
”奇妙”、”奇天烈”な石の博物館で真っ先に思い当たるのが、シンガポール・セントーサ島にある
” Rare Stone Museum " だ。
茶色い石を磨いて、回りに飾りをつけた” Rosted Chicken (ロースト・チキン) ” など、石に対す
る感性が国民によって、こうも違うのかと、度肝を抜かれ、開いた口が塞がらなかった。
『地球一周旅行』では、シンガポールに寄港するので、” Rare Stone Museum " も訪れてみよう
かと思っている。
(3) 春はもうすぐ
博物館からの帰り、朝霧高原を通ると雄大な富士山を間近に見上げることができた。暖冬の
せいか、富士山の5合目付近までしか雪はなく、今年は春の訪れが早いかもしれない。
3月になれば、『MH農園』の作業を”チャッチャ”と終わらせて、フィールドに出るのが待ち遠しい。