静岡県富士宮市「奇石博物館」の鉱物









静岡県富士宮市「奇石博物館」の鉱物

1.初めに

「地学研究」のバックナンバーを読んでいると、「奇石博物館」が開館したことや
「今吉コレクション」の珠玉の標本が収納された、などの記事があります。
富士宮市は甲府から近いこともあり、妻と一緒に訪れてみました。
光る石、こんにゃく石など小さな子どもが楽しめる石から「今吉コレクション」の中の
「小尾八幡山産の燐灰石」などのように本格的な鉱物愛好家必見の標本まで、幅広い層が
楽しめるコーナがあり、一見の価値があります。
入館券(大人700円、小中高生300円)は4種類あり、それぞれ違った「奇石」を配置した
ユニークなものです。
入館券【桜石】
第2、第4土曜日は、小中高生は入館無料もありがたい。なお、ここは基本的に
水曜日が休館日です。
ホームページがありますので、訪れる前にチェックすると万全です。
(財)石の博物館 奇石博物館
(2002年12月訪問)
奇石博物館

2.場所

甲府から、甲府南IC脇を通り、精進湖から国道139号線に乗り、富士山を目近に
見ながら、富士宮市に向かう。
雪を頂く富士山
富士宮バイパス「上井出IC」で下り、約3kmで到着します。所要時間は、甲府の自宅から
1時間30分でした。

3.奇石博物館のあらまし

3.1 奇石って何?
江戸時代の中ごろ、近江国(今の滋賀県)に木内石亭(0724-1808)と号する石のコレクターが
いた。日本各地の石を集め、その数2000点余り。これを集大成し、我国初の石の専門書
「雲根志」を著わした。
彼は、「奇石会」を主催し、全国の石の愛好家と奇石(変った、珍しい石)やその情報を
交換した。
明治維新になり、西洋の鉱物学が主流になると、「奇石」は単なる石の愛玩趣味であるとして
学問の外に弾き出されてしまった。そんな中で、奇石の魅力を糸口に、鉱物や地学の普及を
図ったのが、益富壽之助博士(1901-1993)でした。
3.2 奇石博物館
(1)設立の目的
益富博士が現代に蘇らせた石亭の奇石による分類に倣って、鉱物や化石を展示、収集、研究
している博物館で、館の名称は、石亭の「奇石会」に因むそうです。
馴染みにくい地学や鉱物を奇石を通じて親しんでもらうことを目的に、1971年に開館した。
(2)博物館の構成
博物館の展示構成は下記の様になっています。
@化石
A奇石
B光る石
光る石【燐灰ウラン:フランス産】
C宝石
D岩石
E石デ読ム宮沢賢治
F木内石亭
G川喜田コレクション
H今吉コレクション
Iミュージアムショップ
また、毎日20分おきに、学芸員による代表的な石の解説があります。

4.展示内容

4.1 奇石
奇石を次のように、10種類に分類して展示しています。この中のいくつかは、私のHPに
取り上げていますし、有名なものはご存知の方も多いでしょう。
@人間や尊像にちなむ・・・・・・高師小僧、人形石など
A動物にちなむ・・・・・・・・・石ツバメ、亀甲石、コウモリ石など
B植物にちなむ・・・・・・・・・桜石、梅花石、菊石など
C食物にちなむ・・・・・・・・・マンジュウ石、金平糖など
D器物にちなむ・・・・・・・・・算盤球石、貨幣石など
E図形・絵画・・・・・・・・・・十字石、シノブ石(ピクチャー・ストーン)など
F音を出す石・・・・・・・・・・鈴石、かんかん石(サヌカイト)など
G天地間の現象にちなむ・・・・・三陵石、漣痕など
H物理現象を起す・・・・・・・・電気石、蛍石、氷州石(アイスランド・スパー)など
I薬になる・・・・・・・・・・・雄黄、竜骨、滑石など
4.2 光る石
紫外線で光る石を集めた暗室があり、紫、赤、黄色に光るさまは、幻想的です。
4.3 石デ読ム宮沢賢治
宮沢賢治は、「石っこ賢さん」と呼ばれるほどの石好きで、彼の作品には、鉱物や地学を
モチーフにした作品がある。
それらの作品とそこに描かれた鉱物や岩石の実物がストーリの展開に合わせて展示して
あります。
4.4 木内石亭
石亭が著わした「雲根志」の現物とともに、この本に採り上げてある「マンジュウ石」
「天狗の爪石」などの奇石が展示してある。
木内石亭コーナ
4.5 川喜田コレクション
江戸時代、伊勢国(今の三重県)津の豪商、川喜田氏が収集した標本が木製の標本箱に
収まっており、収集主の几帳面さが伝わってきます。

     川喜田コーナ       川喜田標本

4.6 今吉コレクション
今吉隆治氏(1905-1984)は、永年、国立科学博物館地学部に勤務され、鉱物コレクターとして
知られている。
今吉先生は、亡くなる1年前に、1万点に及ぶ標本をつくば市の地質標本館に寄贈した。
その際、どうしても手放したくない標本を手元に残された。昭和59年に亡くなられた後
ご子息は、この標本を生かす道を模索し、平成4年に、秘蔵の今吉標本328点を奇石博物館に
寄贈した。
今吉コレクション
展示されているのは国産標本がほとんどで、燐灰石だけをとっても「玄倉産」「足尾鉱山産」
そして「小尾八幡山産」と今では入手不可能な逸品が多い。
小尾八幡山産燐灰石
4.7 ミュージアムショップ
ここでは、化石、鉱物(外国産がほとんど)やそれに関連する書籍、絵葉書などを
販売しています。私のお奨めは、今吉標本の逸品がオールカラーで印刷された
「鉱物コレクター 今吉隆治の世界」(1,000円)です。
4.8 その他展示
時節柄、ノーベル化学賞を受賞した田中耕一さんの色紙が、小柴先生のと並んで展示して
あります。希望者には、コピー(1枚10円)を頒布してくれるそうです。
田中耕一さんの色紙

5.おわりに

(1)初めて「奇石博物館」を訪れ、「小尾八幡山の燐灰石」のラベルを見たときには
目を疑いました。
なぜなら、某先生一行が燐灰石を産出した小尾八幡山の晶洞に行き、底に溜まっていた砂まで
持ち帰って調べたが、燐灰石はなかった、とある本で読んで、「小尾八幡山の燐灰石」を
持っているコレクターはいないと思い込んでいたからです。
(流石の「桜井鉱物標本」にも見あたらないほどです。)
石英を思わせる白色不透明でガラス光沢、円柱状で頭は丸みを帯びたややルーズな結晶で
これを見た瞬間、私が八幡山で採集した不明鉱物は、燐灰石ではなさそうだと思いました。
「3(5)現主義」などと言いますが、鉱物の世界もやはり、実物を見ることが大切だと
痛感しました。
また、ここには、山梨県向山産の水晶の群晶が展示してあります。水晶峠に似た先細りで
草入りが特徴です。ここも、攻めてみたい産地です。
向山産群晶
(2)今吉先生の標本のうち「地質標本館」に寄贈された分については、地質調査所編の
「今吉鉱物標本」で見て、その素晴らしさに圧倒されていましたが、「奇石博物館」に
展示されているものは、その経緯からもお分かりのように、一段と素晴らしいものです。
(3)ここを訪れるまでは、「奇石博物館」といえば、シンガポール・セントーサ島にある
”Rare Stone Museum"を真っ先に思い出しました。
茶色い石を磨いて、回りに飾りをつけた”Rosted Chicken(ロースト・チキン)”など
石に対する感性が国民によって、こうも違うのかと、度肝を抜かれ、開いた口が塞がらない
状態でした。
私にとって、”Rare Stone Museum"は、奇怪、奇妙な「奇石博物館」でした。
(4)奇石博物館では、毎月、その月にちなんだ展示を計画しています。
2月・・・セントバレンタイン→チョコレート→田野畑鉱山のチョコレート(ハウスマン)鉱
3月・・・電気記念日→電気石
(5)博物館のすぐ近くから、雄大な富士山を見上げることができ、周辺には
「音止の滝」「白糸の滝」などの観光地があり、これらを回りながら訪れると良いでしょう。

        音止の滝          白糸の滝

6.参考文献

1)石の博物館編;奇石博物館パンフレット,2002.3
2)地質調査所編;今吉鉱物標本,通産省地質調査所創立100周年記念協賛会,昭和58年
3)桜井欽一博士還暦記念事業会編:桜井鉱物標本,同会,昭和48年
4)(財)石の博物館編:ハンマー片手に日本を縦断する鉱物コレクター 今吉隆治の世界
            インテグレース・ジャパン,平成11年
5)日本地学研究会:地学研究 Vol.41 No.3,同会,1992年
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