長野県茅野市金鶏鉱山の鉱物











             長野県茅野市金鶏鉱山の鉱物

1. 初めに

    人によって、産地や鉱物に相性の良し悪しがあるのではないだろうか。某氏などは乙女
   鉱山を訪れると、毎回のようにガマ(晶洞)を開け、数センチの日本式双晶を多い日には4、
   5枚も出したなどという昔話を聞く。某氏にとって乙女鉱山、日本式双晶どちらも相性が良
   かったのだろう。

    私にとって、「金鶏鉱山」、そしてここの目玉の「セリウム・フローレンス石」は相性の悪い
   ものの筆頭だ。
    金鶏鉱山を初めて訪れた(正確には、訪れようとした)のは、もう5年も前、2005年ごろの
   春だった。林道を進むと、雪で折れた大きな倒木が道路を塞いでいた。とても通れそうもな
   く、引き返した。舗装道路に出てみると、後輪がパンクしていて、”踏んだり蹴ったり”の
   初訪山だった。

    2009年夏、「信濃境の角閃石」を採集した後、「金鶏の湯」に入ると、温泉の説明の中に
   「金鶏金山」があり、訪れねばと思いつつ時間が経ち、訪れたのは年が明けた、2010年
   1月になってからだった。

    2010年の冬は例年より寒さが厳しかったが、金鶏鉱山入口にあたる麓の集落では、ほ
   とんど積雪が見られなかった。しかし、「ロー石山」入り口付近まで上ると、吹き溜まりには
   30cm以上雪が積もっていて、4WD、スタッドレスでも危険を感じ、引き返してきた。

        
             麓の集落            「ロー石山」入口
               金鶏鉱山への険しい道【2010年1月】

    2010年5月、「月遅れGWミネラル・ウオッチング」の下見でようやく産地に到着することが
   できた。まさに、『3度目の正直』だった。

    「セリウム・フローレンス石」のハードルはもう数段高く、現地で”これかな?”と思って期
   待して持ち帰ったもののことごとくが、”鉄さび”や”ひび割れ”で虹色に見える水晶だった。

    石友・KN氏のように、「人が採れるもんだったら、ワシャ(数倍良い標本を)採れる」、と
   言いきるまでの自信はないものの、何回か通えば採れるはずだ、との思いはあった。
    しかし、幸運の女神は一向に微笑んでくれない。しかたなく、自力採集をあきらめ、201
   0年のミネラル・マーケットで『現金採集』となった。

    ・ミネラルマーケット・2010
     ( Mineral Market 2010 , Tokyo )

         
               結晶A                   結晶B
                    「セリウム・フローレンス石」
                         【現金採集品】

    しかし、”Hunters"を名乗る私としては「忸怩(じくじ)たる思い」が募り、単身赴任先から
   戻った週末に、1、2度訪れた。
    訪れるたびに、大勢の採集人の姿を見、ズリ石も急速に少なくなっていくような気がし
   た。
    ズリ石のかなりの部分が「褐鉄鉱」で覆われていて、現地での鑑定は効率が良くないと
   経験から学び、それらしい石を持ち帰って、塩酸浴で褐鉄鉱を綺麗に落としてからルーペ
   で探す方式に変更した。
    それも最後の数個になろうとしたころ、ルーペでのぞいたら、”チラリ”とピンク色が見え
   た。『あった!! フローレンス石だ』。こうなると、一度探したズリ石をもう一度見直すこ
   にした。すると、”モコモコ”としたピンク色の塊が見えた。これもフローレンス石のようだ。

    こうして、2個の標本を”自力採集”でき、ようやく金鶏鉱山も卒業できそうだ。産地の情
   報をいただいたり、同行いただいた多くの石友の皆様に、厚く御礼申し上げる。
    ( 2010年5月初訪山 6月ミネラル・ウオッチング開催 6月再訪 7月再々訪 )

2. 産地

    ここは、松原先生の「鉱物ウオーキングガイド 全国版」に詳しく掲載されているので、
   割愛します。

3. 産状と採集方法

    産地には、露頭とそこから崩したズリ石が斜面に散らばっている。産地で会ったこの産
   地を何回か訪れている人の話では、「最初(2009年ごろ)は露頭から直接採集できたが
   最近(2010年)は、かつて露頭を崩した時の転石から採集できることが多い」、とのことだ
   った。

    事実、2010年5月の「月遅れGWミネラル・ウオッチング」で「フローレンス石」を採集でき
   た東京・Hさんの奥さん、大阪・Oさん、東京・H君、すべて水晶脈を含む転石からの採集
   だった。

       金鶏鉱山ズリ【2010年6月】

    斜面に落ちている転石を拾い上げ、1つひとつ水晶脈の部分をルーペでのぞいて探して
   いたが、水晶脈の多くが「褐鉄鉱」で覆われていたり、周りが薄暗い曇りや雨の日には
   極めて探しにくい。
    そんな訳で、水晶脈があれば、すべて持ち帰り、塩酸に数日漬け、「褐鉄鉱」を取り除
   いてから、明るい日を選んでルーペで探すことにした。

4. 産出鉱物

 (1) セリウム・フローレンス石【FLORECITE-(Ce):CeAl3(PO4)(OH)6
      ピンク色、ガラス光沢の結晶で水晶の晶洞の中に見られる。共存鉱物は、「水晶」の
     ほか「苦土電気石」、「緑色白雲母」と幅広く、”来そうな母岩”を絞り切れず、これが
     採集を難しくしている1つの要因かもしれない。

         
              三方晶系結晶              カリフラワー状
                     「セリウム・フローレンス石」

 (2) 水晶/石英【QUARTZ:SiO2
      石英脈の晶洞の中に小さな六角柱状の水晶や平板状の日本式双晶が観察できる。
     大きさは1cm程度で、3cmの大きさのものはまれだ。緑色の含クロム白雲母がインク
     ルージョンになった「緑水晶」を採集したひともいる。

         
                六角柱状              日本式双晶
                          「水晶」

 (3) 白雲母【MUSCOVITE:KAl2(AlSi3)O10(OH)2
      石英脈の晶洞の中に”モコモコ”した塊状で産出する。緑色に色づいているのは、微
     量に含まれるクロムとされている。

       含クロム白雲母

 (4) 苦土電気石【DRAVITE:NaMg3Al6(BO3)3Si6O18(OH)4
      薄緑色、透明の針状結晶で石英の晶洞の中に見られる。

       苦土電気石

5. おわりに

 (1) 『 幻のフローレンス石 』

    2010年5月の「月遅れGWミネラル・ウオッチング」の下見を含め、何回か産地を訪れた
   にもかかわらず、一向に「フローレンス石」を採集できなかった。
    「月遅れGWミネラル・ウオッチング」の直後、大阪・Oさんから、「フローレンス石?」、と
   控え目な表現ながら、自信に溢れるメールが画像と共に届いた。
    やがて、東京・Hさんの奥さんからも、パワーポイントを使った解説付きの画像が送られ
   てきた。コメントのついていない箇所にも結晶が見える素晴らしい標本だ。
    極め付きは、滋賀・OHさんと解散後にもう一度産地に戻った東京・H君が『博物館級』
   標本を採集したというのだ。新鉱物の発見者でもあるOHさんの目に狂いはないはず。

    皆さん、すべて水晶脈を含む転石からの採集だった。

         
               Oさん                Hさんの奥さん

      
               H君
             石友が採集した「セリウム・フローレンス石」

      「人が採れるモンは、ワシゃ採れる」、とまで言い切る自信はないが、採れるはずだ
     と信じて数回通い、『幻』になろうかとするころ、ようやく”自力採集”できた。

      『古泉に水枯【涸】れず』、だ。

      西の方から、「新しい露頭が出た」、という風の便りも聞いたので、雪が降る前に、
     訪れてみようと思っている。( 千葉にいると、東京も西だな )

6. 参考文献

 1) 益富地学会館監修:日本の鉱物,成美堂出版,1994年
 2) 松原聡、宮脇 律郎:日本産鉱物型録,東海大学出版会,2006年
 3) 松原 聰:鉱物ウオーキングガイド 全国版,丸善株式会社,平成22年


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