このページの「あとがき」で、次のように書いた。
『 五加鉱山の周辺には「黒川鉱山」「金加鉱山」などがあり、それぞれ特徴のある
鉱物が採集できる(できた?)、と「東海地方をたずねて」にある。
この本が書かれて30年近くが経ち、その当時採集できた標本を期待するのは
無理だと思うが、現状確認を兼ねて、訪れてみたいと考えている。』
それから1年が経って、私は千葉県の某電子部品メーカーさんで技術コンサルタント
として忙しい(??)日々を送ることになり、金加鉱山のことをすっかり忘れていた。
そんなある日、愛知県の石友・「ヘナK小隊」こと、K夫妻から『 今週末、金加鉱山に
行くのですが、ご一緒しませんか? 』、とお誘いのメールをいただき、2つ返事で
案内をお願いした。
2008年10月、「ヘナK小隊」の友人・I氏に案内していただき金加鉱山を訪れた。
選鉱場などは集落近くにあったようだが、坑口は山深い場所で、I氏の案内がなけ
れば到底探し出せなかっただろう。
坑口とその付近のズリからこの産地の目玉の「輝安鉱」「ベルチェ鉱」を採集でき
1年前の念願が叶ったことになる。(鑑定はこれからのお楽しみ)
産地を案内していただいたI氏とこの機会を設定してくれた「ヘナK小隊」に厚く御礼
申し上げる。
( 2008年10月採集 )
I氏は、父親と「イノシシ」の足跡を追い求めながら尾根、谷をくまなく歩き回り、偶然
試掘坑を発見し、父親から「 昔、ここに、鉱山があった 」、と聞かされたらしい。
白川町出身のI氏が、鉱山周辺の古老に聞き取り調査してくれた結果、金加鉱山は
戦争中(1941〜1945年)に開発・採掘が始まり、昭和30年代まで続いたようだ。
「日本鉱産誌」に、産出量やこの本がでた昭和30年(1955年)の現況が次のように
記されていて、I氏の調査結果と符合する。
『 現況 志村某採鉱中 』
『 金加鉱山の地質は、石英斑岩中の石英脈で3脈あった。石英脈の幅は平均30
〜40cm、鉱石幅4〜15cm、全長1〜2m、しばしば粘土を伴った。
鉱石は、微粒〜毛状輝安鉱で、品位は粗鉱 Sb(アンチモン) 6%で、手選精鉱
の品位は、Sbが10〜15%だった。 』
年・月 | アンチモン(Sb)品位 | 採掘量 | 備考 | 1942年12月 | 25% | 10t | 1943年12月 | 12% | 12t | 1944年1月〜6月 | 20% | 65t |
今回案内していただいた場所以外にも「水平坑道」や「縦坑」などがある(あった)よう
だが、今回案内していただいた場所では、比較的高品位鉱が採掘できたらしい。
「日本鉱産誌」にあるとおり、石英脈にアンチモン鉱物がきているので、石英塊を探し
ハンマーで叩き、破面を観察し、針状結晶が認められる晶洞部分が見られるものを
選ぶ。
No | 鉱物種 (英語名) 【化学式】 | 説明 | 採集標本 | 備考 | 1 | 輝安鉱 (STIBNITE)) 【Sb2S3】 |
黒い鋼色、針状結晶の 集合で石英質母岩の 晶洞に産する |
鉱石
| 2 | ベルチェ鉱 (BERTHIERITE) 【FeSb2S3】 |
黒い鋼色、針状結晶の 集合で石英質母岩の 晶洞に産する |
ベルチェ鉱 |
肉眼で「輝安鉱」との 識別は困難 |
3 | 玉髄/石英 (Agate/QUARTZ) 【SiO2】 |
石英脈の空隙部分に 乳白色〜透明・葡萄状で 表面は微小な水晶で 覆われるケースも ある 【 I氏恵与品 】 |
玉髄 |
水晶(石英)の 融点は1610℃と高い 輝安鉱の融点は 525〜550℃と低いのに 融けずに結晶の形を 保っている。 したがって、玉髄 (=輝安鉱)は、 熱水などから低い 温度で成長したことが わかる |
産地に着いて、ズリ石を眺め回し、これかな?、と思うのをハンマで一撃
すると破面が青黒く、針〜細柱状の結晶が見え、間違いない。
「ありました 輝安鉱(ベルチェ鉱)」、となり、I氏も胸をなでおろした。
白川町出身のI氏は、「遠くから求めてくるような鉱物があるのを知って、
生まれ育った地域の素晴らしさを改めて認識した」、と語っておられたのが
印象的だ。
A 「紅安鉱!??」
2008年の採集目標を赤い(紅)鉱物、と決めている小隊長(奥さん)にとって
「紅安鉱【KERMESITE:Sb2S2O】」は憧れの的
石英塊を割ると、時々赤い色の鉱物が眼に入る。「紅安鉱!??」だが、良く
よく見ると、ベルチェ鉱の鉄分が錆びて「赤鉄鉱」になったものだ。
「鉱物採集の旅」を読むと、金加鉱山では「バレンチン石【VALLENTINITE】が
産出するとあり、採集品を良く見て欲しい。
B ヤフオク 「金加鉱山のベルチェ鉱」
「ヘナK小隊」からメールをいただくと相前後して、オークションに「金加鉱山
のベルチェ鉱」が出品された。
3cmほどの小さな品だったが、I氏の下見の写真から、最悪『絶産』も考え
られたので、保険にと思い入札しておいた。
今回、I氏の案内で金加鉱山で「輝安鉱」と「ベルチェ鉱」が採集でき、帰宅
してオークションを見てみると、『高値更新』されていて、”ホッ”とした。
( 金加鉱山の輝安鉱には、私以外にも思い入れの強い御仁が多いようだ
と思わず苦笑してしまった。 )
(2) 残るは、黒川鉱山
五加鉱山、金加鉱山とくると残るは黒川鉱山のみだ。I氏の話では、学生時代
友人の家が黒川鉱山近くにあり、ここを訪れ各種の鉱物を確認できたそうだ。ただ
その後の道路工事で、鉱山関連のズリなどが埋まってしまっているかも知れない
らしい。
いずれにしても、一度鉱山跡を訪れてみたいと考えている。