岐阜県金加(きんか)鉱山のアンチモン鉱物

       岐阜県金加(きんか)鉱山のアンチモン鉱物

1. 初めに

   2007年6月、石友・Mさんに案内していただき、岐阜県東白川町にある「五加(ごか)
  鉱山を訪れ、国内では希産とされる「イットリウム・アガード石」とこの産地で最近比較
  的最近発見された「水鉛鉛鉱(モリブデン鉛鉱)」を採集したのは、既報の通りである。

   このページの「あとがき」で、次のように書いた。

    『 五加鉱山の周辺には「黒川鉱山」「金加鉱山」などがあり、それぞれ特徴のある
     鉱物が採集できる(できた?)、と「東海地方をたずねて」にある。
      この本が書かれて30年近くが経ち、その当時採集できた標本を期待するのは
     無理だと思うが、現状確認を兼ねて、訪れてみたいと考えている。』

   それから1年が経って、私は千葉県の某電子部品メーカーさんで技術コンサルタント
  として忙しい(??)日々を送ることになり、金加鉱山のことをすっかり忘れていた。

    そんなある日、愛知県の石友・「ヘナK小隊」こと、K夫妻から『 今週末、金加鉱山に
   行くのですが、ご一緒しませんか? 』
、とお誘いのメールをいただき、2つ返事で
   案内をお願いした。

    2008年10月、「ヘナK小隊」の友人・I氏に案内していただき金加鉱山を訪れた。
   選鉱場などは集落近くにあったようだが、坑口は山深い場所で、I氏の案内がなけ
   れば到底探し出せなかっただろう。
    坑口とその付近のズリからこの産地の目玉の「輝安鉱」「ベルチェ鉱」を採集でき
   1年前の念願が叶ったことになる。(鑑定はこれからのお楽しみ)

    産地を案内していただいたI氏とこの機会を設定してくれた「ヘナK小隊」に厚く御礼
   申し上げる。
   ( 2008年10月採集 )

2. 産地

   産地保護のため、産地の詳細は割愛する。Iさんによると、この山の持ち主は、ここ
  2、30年近く山に入っていないようなので、鉱山があった場所がどのようになっているか、
  全く判らないようだ。

   I氏は、父親と「イノシシ」の足跡を追い求めながら尾根、谷をくまなく歩き回り、偶然
  試掘坑を発見し、父親から「 昔、ここに、鉱山があった 」、と聞かされたらしい。

    試掘坑【探査する兵長】

    白川町出身のI氏が、鉱山周辺の古老に聞き取り調査してくれた結果、金加鉱山は
   戦争中(1941〜1945年)に開発・採掘が始まり、昭和30年代まで続いたようだ。

    「日本鉱産誌」に、産出量やこの本がでた昭和30年(1955年)の現況が次のように
   記されていて、I氏の調査結果と符合する。

    『 現況  志村某採鉱中 』

    『 金加鉱山の地質は、石英斑岩中の石英脈で3脈あった。石英脈の幅は平均30
     〜40cm、鉱石幅4〜15cm、全長1〜2m、しばしば粘土を伴った。
      鉱石は、微粒〜毛状輝安鉱で、品位は粗鉱 Sb(アンチモン) 6%で、手選精鉱
     の品位は、Sbが10〜15%だった。                                 』

   
年・月 アンチモン(Sb)品位採掘量備考
1942年12月25%10t 
1943年12月12%12t 
1944年1月〜6月20%65t 

3. 産状と採集方法

   産地では、「試掘坑」や土砂に埋まっている坑口跡が観察できる。その前には、ズリ
  があるのだが、そこには母岩がほとんどで鉱石は稀にしか見つからない。それだけ
  鉱石は大切にされていたようだ。
   Iさんの聞き取り調査では、鉱石は「木馬(きんま)」や「鉄索」で麓まで下ろされたよう
  だ。

      
             坑道跡               ズリ
           【入口は陥没】       【金山シダが生い茂る】
                        産地

   今回案内していただいた場所以外にも「水平坑道」や「縦坑」などがある(あった)よう
  だが、今回案内していただいた場所では、比較的高品位鉱が採掘できたらしい。

   「日本鉱産誌」にあるとおり、石英脈にアンチモン鉱物がきているので、石英塊を探し
  ハンマーで叩き、破面を観察し、針状結晶が認められる晶洞部分が見られるものを
  選ぶ。

4. 採集鉱物

   
No 鉱物種
(英語名)
【化学式】
説明  採集標本備考
1輝安鉱
(STIBNITE))
【Sb2S3
 黒い鋼色、針状結晶の
集合で石英質母岩の
晶洞に産する

        鉱石


      毛状輝安鉱

 
2ベルチェ鉱
(BERTHIERITE)
【FeSb2S3
  黒い鋼色、針状結晶の
集合で石英質母岩の
晶洞に産する

       ベルチェ鉱
 肉眼で「輝安鉱」との
識別は困難
3玉髄/石英
(Agate/QUARTZ)
【SiO2
 石英脈の空隙部分に
乳白色〜透明・葡萄状で
表面は微小な水晶で
覆われるケースも
ある

【 I氏恵与品 】


       玉髄
 水晶(石英)の
融点は1610℃と高い
 輝安鉱の融点は
525〜550℃と低いのに
融けずに結晶の形を
保っている。
 したがって、玉髄
(=輝安鉱)は、
熱水などから低い
温度で成長したことが
わかる

5. おわりに

 (1) 金加鉱山狂騒曲
     @ 一撃で「ありました 輝安鉱!」
         案内してくれたI氏は、ミネラル・ウオッチングには1、2回しか行ったことが
        なく、「輝安鉱」を見たことがなかった。今回案内した場所で、もしも採集でき
        なかったら・・・・・、と心配してくれていた。

         産地に着いて、ズリ石を眺め回し、これかな?、と思うのをハンマで一撃
        すると破面が青黒く、針〜細柱状の結晶が見え、間違いない。
         「ありました 輝安鉱(ベルチェ鉱)」、となり、I氏も胸をなでおろした。

         白川町出身のI氏は、「遠くから求めてくるような鉱物があるのを知って、
        生まれ育った地域の素晴らしさを改めて認識した」、と語っておられたのが
        印象的だ。

     A 「紅安鉱!??」
        2008年の採集目標を赤い(紅)鉱物、と決めている小隊長(奥さん)にとって
       「紅安鉱【KERMESITE:Sb2S2O】」は憧れの的
        石英塊を割ると、時々赤い色の鉱物が眼に入る。「紅安鉱!??」だが、良く
       よく見ると、ベルチェ鉱の鉄分が錆びて「赤鉄鉱」になったものだ。

        「鉱物採集の旅」を読むと、金加鉱山では「バレンチン石【VALLENTINITE】が
       産出するとあり、採集品を良く見て欲しい。

     B ヤフオク 「金加鉱山のベルチェ鉱」
         「ヘナK小隊」からメールをいただくと相前後して、オークションに「金加鉱山
        のベルチェ鉱」が出品された。
         3cmほどの小さな品だったが、I氏の下見の写真から、最悪『絶産』も考え
        られたので、保険にと思い入札しておいた。

         今回、I氏の案内で金加鉱山で「輝安鉱」と「ベルチェ鉱」が採集でき、帰宅
        してオークションを見てみると、『高値更新』されていて、”ホッ”とした。
         ( 金加鉱山の輝安鉱には、私以外にも思い入れの強い御仁が多いようだ
          と思わず苦笑してしまった。 )

 (2) 残るは、黒川鉱山
      五加鉱山、金加鉱山とくると残るは黒川鉱山のみだ。I氏の話では、学生時代
     友人の家が黒川鉱山近くにあり、ここを訪れ各種の鉱物を確認できたそうだ。ただ
     その後の道路工事で、鉱山関連のズリなどが埋まってしまっているかも知れない
     らしい。
      いずれにしても、一度鉱山跡を訪れてみたいと考えている。

6. 参考文献

 1) 日本鉱産誌編纂委員会:日本鉱産誌 T−a  金・銀その他
                 東京地学協会,昭和30年
 2) 加藤、松原、野村:鉱物採集の旅 東海地方をたずねて ,築地書館,1983年
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