岐阜県福岡町木積沢のトパーズと流錫

岐阜県福岡町木積沢のトパーズと流錫

1.初めに

加藤・松原・野村先生共著の「鉱物採集の旅-東海地方をたずねて-」に
「岐阜県苗木地方の鉱物(1)」の章があり、木積沢(きちみざわ)は
砂鉱として錫石を採掘していたが、それに伴って各種の希元素鉱物がたくさん
得られたとあります。
妻と一緒に鉱物採集会の下見で訪れた時には、沢(と言っても立派な川)の
水かさが多くて、小中学生を含む採集は危険と判断して、時間の都合もあり
採集候補地から割愛した。
採集会の後、古い採集記事を読むと、木積沢の支流でトパーズが採集できたとの
情報があり、トパーズを狙ってみることにした。
また、「日本鉱産誌」には、1896年(明治25年)に、苗木鉱山が砂錫を稼行した
との記述があり、パンニングによる流錫採集にも挑戦した。
トパーズは川擦れながら、酒黄色・青色・透明の3色色違いで高さ40mm
重さ130gのものをはじめ、透明頭付きも採集できた。
パンニングでは、100gを超える流錫などの鉱物を採集し、希元素鉱物の選別
鑑定が今後の課題である。
(2002年8月採集)

2.産地

中津川から256号線を付知町に向かって走ると、高山の交差点がある。
ここを左折し、高山大橋を渡り、道なりに2km弱行くと、記念碑前のバス停があり
右に緩やかに曲がり、道路と並行して流れる川が左手に見える。これが、木積沢です。
木積沢橋から外洞橋(そとぼらばし)の下流までが産地です。採集には、できるだけ
護岸工事がされていなく、且つ水深が浅いことが条件ですから、外洞橋の上下が
採集には最適です。

左:木積沢橋               右:外洞橋
         木積沢産地

3.産状と採集方法

この一帯は石英斑岩および花崗岩地帯で、ペグマタイトが発達し、それらに伴って
トパーズ、水晶、錫石や希元素鉱物が生成したと考えられる。
母岩の風化・崩落でこれらが川に流され、重たい鉱物が川床に堆積した一種の漂砂鉱床です。
採集方法は次の2通りです。
(1)川床の土砂をフルイで篩って探す。
(2)川床の土砂をパンニング皿や洗面器などでパンニングする。

左:フルイがけ               右:パンニング
         木積沢採集方法
パンニングは、アメリカ西部開拓時代の砂金採りでおなじみのパンニング皿を使っての
簡便な比重選鉱です。
パンニング
目的とする錫石の比重は7.0と花崗岩の主成分で、川床にある長石・石英2.6前後の
3倍近い差があり、しゃれたパンニング皿でなくても洗面器などで充分採集できます。
慣れてくると、比重3.6のトパーズも揺り分けられるようになります。
パンニング皿【黒い鉱物が錫石】

4.産出鉱物

(1)トパーズ【Topaz:Al2SiO4(F,OH)2】
多少川擦れしているが、酒黄色〜淡緑色〜淡青色〜透明まで各種の色合いのをした
トパーズが採集できた。
屈折率が高く、キラキラと輝くさまは、まさに宝石を採集したという実感が湧きます。
日光に晒すと、酒黄色→淡青色→透明に変化すると言われますので、保管には注意が
必要です。

左:3色色違い【高さ40mm】右:庇面式結晶【高さ23mm】
      木積沢産トパーズ
(2)流錫【Stream Tin:SnO2】
最大径6mm程度から粉末状まで、真っ黒〜黄褐色半透明の錫石が採集できます。
大きなものほど川擦れが大きい傾向があります。
錫石のモース硬度は6〜7で、石英や水晶と同じくらいですが、モース硬度8の
トパーズと一緒に長い年月”芋の子を洗う”状態ではたまりません。
流錫【最大径6mm】
錫石は、蝶形双晶をはじめ、e面を双晶面として6連あるいは9連の双晶を作る事が
知られており、採集品のなかにも、これらがあります。
錫石結晶図【原色鉱物岩石検索図鑑より引用】
(3)水晶【Rock Crystal:SiO2】
透明水晶、煙水晶、煙山入り水晶などがあるが、川擦れで綺麗なものは少ない。
今回、変則的な両錐の水晶が採集できた。
水晶【両錐】

文献には、ここでフェルグソン石、苗木石などの希元素鉱物や金緑石などが採集できた
とあり、パンニングした鉱物からこれらを選び出すのが、今後の課題である。

5.おわりに

(1)余り知られていない産地で、日下先生が言った”湯のみ茶碗”を採集した
ときには、思わず震えました。
(私が使っている湯のみ茶碗の重さは、丁度130gです。)
まだまだ眠っているトパーズがあるはずです。
(2)流錫をパンニングしていると、10年以上前にマレーシアに出張した際の
錫採集旅行が思い出されます。
量的には、その時以上に採れ、木積沢が砂鉱として稼行していたのが肯けます。
マレーシア錫採集旅行については、稿を改めてお話したいと思います。
(3)連日猛暑が続いていますが、川の中での”フルイがけ”や”パンニング”は
素足で水の中に入るとヒンヤリと気持よく、暑さを忘れる夏向きの採集法です。
皆様もお試し下さい。

6.参考文献

1)日本鉱物誌編集委員会編:日本鉱物誌 I-a,東京地学協会,昭和30年
2)加藤昭、松原聡、野村松光共著:鉱物採集の旅-東海地方をたずねて-,築地書館,1982年
3)柴田秀賢、須藤俊男:原色鉱物岩石検索図鑑,北隆館,昭和48年
4)日下英明:鉱物採集フィールドガイド,草思社,1988年
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