県の鉱物

            『 県の鉱物 』

1. はじめに

   2007年は記録的な残暑で、私が住む甲府地方でも9月中旬過ぎて35℃以上の
  ”猛暑日”があった。それから10日経つかたたぬ内に、布団を掛けないと眠れぬ
  ほどの寒さが襲ってきた。

   秋の夜長、鉱物関係の文献を読んでいると、1999年(平成11年)に岡本氏が
  「地学研究」に寄稿した「県の鉱物」なる一文が眼にとまった。
   北海道から沖縄まで、都道府県別に代表的な鉱物を1種選んでみようという
  企画で、その”試案”があった。

   似たような試みは過去にもあり、私のHPでも紹介した、岡本 要八郎先生と
  桜井 欽一先生による「日本産鉱物50種」(+番外4種)がある。

   ・    「あなたはおもちですか?」
   鉱物コレクターの資格審査
   ( How Many Specimens do you have ? , Qualification of Mineral Collector )

   これが出たのが1958年(昭和33年)で、40年余りが経って、岡本氏の「県の鉱物」
  試案が出た。

   私の住む山梨県の鉱物は「水晶(石英)」とあり、妥当なところだ。その一方
  採集が禁止になるなど、岡本氏の決めた『選定基準』を満たしていない県もいく
  つか見受けられる。
   また、この10年足らずの間に発見された”県名を付けた”新しい鉱物のほうが
  相応しいと思われる県も出てきている。
   さらに、” 愛媛県はダイヤモンド ”のほうが話題性があるだろう。

   『甲斐(山梨県)の名産は、水晶と葡萄(ぶどう)』、のように古くから言い習わさ
  れた地域ならともかく、「県の花、木、鳥」などが県民の間で良く知られていない
  地域で「県の鉱物」を定着させるのは難しそうである。
   ただ、自分が住んでいる県、あるいは故郷の鉱物は、何が良いのかを考えて
  みるのは、鉱物により愛着を深める上で、意義のあることだと思う。
  ( 2007年10月調査 )

2. 選定基準

   選定の基準として5つの条件が載っている。

    1.古くから親しまれており、且つ現在でも入手可能なもの
    2.できるかぎり「やさしい鉱物」が望ましい
    3.写真にもたえられる鉱物
    4.危険な産地の鉱物はさける
    5.鉱山の坑道内部でのみ採集できる鉱物は望ましくない

3. 「県の鉱物」試案

   試案をそのまま、掲載する。明らかに誤植と思われる箇所は【 】で訂正した。
   2007年9月現在、私が知っている範囲で、入山・採集禁止となっている産地、
   鉱物は赤字にしてみた。

No 都道府県名 産地 鉱物名
1 北海道 道内全域 砂白金(イリドスミン)
2 青森県 恐山 石黄
3 岩手県 仙人鉱山 赤鉄鉱
4 宮城県 雨塚山 紫水晶
5 秋田県 玉川温泉 北投石(含鉛重晶石)
6 山形県 五十川 方沸石
7 福島県 水晶山 フェルグソン石
8 茨木県【茨城県】 妙見山 リシア電気石
9 栃木県 猪倉 トルコ石
10 群馬県 西牧鉱山 鶏冠石
11 埼玉県 朝日根 パンペリー石
12 千葉県 太海 ソーダ沸石
13 東京都 三宅島 かんらん石
14 神奈川県 玄倉 燐灰石
15 新潟県 小滝・青海 ひすい輝石
16 富山県 宇奈月 十字石
17 石川県 恋路 あられ石
18 福井県 赤谷鉱山 自然砒
19 山梨県 水晶峠 水晶(石英)
20 長野県 和田峠 マン礬石榴石
21 岐阜県 恵那・蛭川地方 ペグマタイト(黒水晶・長石の結晶)
22 静岡県 河津鉱山 自然テルル
23 愛知県 田口鉱山 パイロクスマンガン石
24 三重県 宮妻峡 ガドリン石
25 滋賀県 田上山 トパーズ
26 京都府 稗田野 桜石(菫青石仮晶)
27 大阪府 泉南 ドーソン石
28 兵庫県 加保 ソーダ雲母
29 奈良県 二上山 サファイア
30 和歌山県 太地 玻璃長石
31 鳥取県 人形峠 リン灰ウラン石
32 島根県 玉造 碧玉(石英)
33 岡山県 布賀 スパー石
34 広島県 瀬戸田 斜開銅鉱
35 山口県 長登鉱山 輝コバルト鉱
36 徳島県 眉山 紅簾石
37 香川県 鷲ノ山 菱沸石
38 愛媛県 市ノ川鉱山 輝安鉱
39 高知県 穴内鉱山 チンゼン斧石
40 福岡県 長垂山 紅雲母
41 佐賀県 杉山 緑柱石
42 長崎県 大串・鳥加 磁鉄鉱
43 熊本県 護王峠 普通角閃石
44 大分県 木浦鉱山 異極鉱
45 宮崎県 土呂久鉱山 ダンブリ石
46 鹿児島県 隼人町又は県下 大隈石
47 沖縄県 読谷村 マンガンノジュール

4. おわりに

 (1)試案考
    ”試案”を眺めて見て、いくつか感じたことを書いてみたい。

    @ 選定基準
       1) 第1条に”現在でも入手可能なもの”とあるが、4条に”産地”、5条に
         ”・・・採集できる・・・”とあるので、”採集可能なもの”と解釈すると、入山
         あるいは採集禁止などで、宮城県、秋田県、福島県、茨城県・・・・・・
         など20%前後の県が選定基準を満たしていないことになる。
       2) 第2条の「やさしい鉱物」の意味が、”産出”、”採集”、”鑑定”・・・・・・・
         何が”やさしい”のか良く判らない。
       3) 第3条の「写真にもたえられる」とは、”色や結晶が明瞭で写真写りが
         良い”と解釈した。

        「県の鉱物」を決める前に、「選定基準」を明確・不変のものにしておか
       ないと、数年後に見直すとその時代にマッチしなくなってしまっている。

        産地の興廃(新しい産地、鉱物の発見や入山・採集禁止)に影響されな
       い鉱物を選定するルールのほうが良いと思う。
        ( 現在、採集できるできないにかかわらず )

    A 山梨県の鉱物
        私の住む山梨県の鉱物として、「水晶(石英)」が載っているが、産地が
       「水晶峠」に限定されているのはいかがなものだろうか。
        乙女鉱山の日本式双晶、竹森のススキ入り水晶、黒平の煙水晶などなど
       水晶峠の緑や山入り水晶に勝るとも劣らず、甲乙つけ難い。産地は”県下
       全域”としたい。

    B 「県の鉱物」は、その県の住民が選ぶべき。
       例えば、北海道は、「砂白金」よりは「砂金」だと思うが、大きなお世話で
      それは県民が決めるべきだろう。

 (2) 山梨県の花は、確か「富士桜」だったと思うが、木、鳥に至っては全く記憶にな
    い。
     山梨県の場合、『甲斐(山梨県)の名産は、水晶と葡萄(ぶどう)』、と古くから
    言い習わされ、全国的に知られている。「県の鉱物」が”水晶”と聞いて、納得
    する人が多いと思うが、他の都道府県ではどうだろうか。

     あなたが住んでいる県の鉱物は、何が良いと思いますか?

6. 参考文献

 1) 岡本 要八郎・桜井 欽一:「あなたはおもちですか?」
                     鉱物コレクターの資格審査
                     地学研究Vol.10 No.5,1958年
 2) 岡本 鑑吉:全国都道府県別『県の鉱物』試案,地学研究 第47巻 第4号
                     1999年
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